石井舞ちゃん失踪事件考2 横一線の間柄 | 人はパンのみにて生くる者に非ず 人生はジャム。バターで決まり、レヴァーのようにペイストだ。
Kを疑ったのは警察ばかりではない。警察以上にKを犯人であると疑ったのが被害者父親であった。父親は素行の悪かった姪を引き取っていたが、Kはこの姪の交際者でやはり素行が悪く、姪とは珍走団絡みで知り合う。姪の頼みでKを雇い、自宅にも住まわせた父親だったが、Kとの折り合いは悪く、しばしばキツく注意していた。そもそも事件当日、姪とKは旅行で不在のはずであった。ところが前日に父親が仕事を入れたためにKは旅行を中止せざるを得なくなる。これが犯行動機であると父親は踏んだのである。

被害者母親が洗面所にて目撃したと証言したように、Kは24日夜、「「友人が精神異常をきたした」と別の友人から連絡があった」とかで郡山へと外出している。当初は自分の車で向かうことを試みたが、バッテリーが上がっていて走行不能状態。そこで船引駅へと向かったが郡山への終列車が出た後だったため、タクシーにて郡山へ。ウン千円もの出費を払って郡山へと向かったKだったが結局、友人と会うことは出来ずじまい。デパートの前で時間を潰して翌朝の一番列車で船引の石井家へと戻った。これが6時半だったわけである。アリバイ証言をしたのは船引から郡山へと向かったタクシーの運転手、それに郡山のデパート前で客引きをしていた人間、この2名である。肝心の友人については「Kとの約束などなかった」と述べたとの由。事件の共犯者と思われることを嫌ったとも考えられるため、何とも言えないところではある。いずれにせよ、ピンポイントに、実に効率よくKのアリバイを証言する人間が現れたわけである。

既に前回、アリバイ工作と表現しているが、これを人工的なものではなく天然のもの、偶然の産物であると見做す人は殆どいないのではないだろうか。99%、アリバイ工作である。西村京太郎サスペンスで、犯人がブルートレインに乗車、車掌や他の乗客と会話をしつつ、こっそりと途中下車、犯行に及んだ後に新幹線を使って目的地手前へと先回りをし、再びブルートレインに戻って白々しく昨日接触した車掌や乗客と会話して下車、あたかも始発から終点まで乗車したかのように装うと云ったものがあるが、まさにこの手の工作臭と云うものを覚えてしまう。

Kへのアリバイ工作があると云うことは、唯一の部外者であり素行も悪いKがまず疑われることを知っていて且つ、Kを庇いたい人物が存在することを意味する。それは誰なのか。まずは当たり前だがK本人。それから、交際者である姪。Kの旅行が中止になったことで父親を恨んでいるのはKだけではない、同行予定だった姪も同じである。Kは日頃から父親に注意されていたから(シンナー吸引等による)、父親を憎んでいたかもしれないが、姪も父親のKへの行為をイジメと捉えて憎んでいた可能性もある。そんな姪が本件に関与していると見られなかったのは、未成年(17歳)で運転免許を持っていなかったこと・郡山の実家に滞在していたことによる。加えて本件直後にKとも別れている。しかしこれらの理由は非常に弱い。姪は素行が悪かったのだから夜中についても外出し放題だったのではないのか。また、事件直後にKと別れるのは当然の成り行きであろう。何と云っても父親がKの犯行を疑っているのだ。姪はその父親から援助を受けている。シンナーにハマりふらふらするK…将来の生活への展望が描けるだろうか。姪としては共犯者と見られることも避けねばならず、Kと別れて父親の側につくのは当然なのだ。

しかし姪にしてもKにしてもこのアリバイ工作を思いつく脳みそがあったようには思えない。半年以上費やしたならば、もしかしたら…と云うこともあろうが、旅行中止は前日のこと。Kに至っては当日もシンナーをやっていた。したがってKや姪の知人がアリバイ工作を考えたと云うことになる。そしてこの知人が家人の誰かから被害者を受け取って車に乗せ、どこかへと向かったのだと云うことにもなる。本件の犯人としては、警察からも、そしてネット上でも圧倒的にKが疑われているが、当時の当地ではかなり母親も疑われていたのである。母親に動機などあるのかと云う向きもあろうが、何とでも作れるものである。父親(=夫)がフィリピンパブのおねえちゃんに熱を上げているのがムカつく、とか。娘ばかり溺愛して自分のことは女扱いしてくれない、とか。そんなことで自分の娘を殺めるようなマネをするのかと思うかもしれないが、これ、Kであれ姪であれ母親であれ誰であれ、誰も被害者を殺めようなどとは露ほどにも思っていないのである。父親を狼狽させてそれをいい気味だなと眺めながら溜飲を下げたい、それだけなのである。したがっていずれ被害者は家へ戻すものであると思っていたはずなのである(その「証拠」に本件は夏休みとなったところで発生している。被害者の学業・学校生活に影響を及ぼさぬよう「配慮」されているわけである)。

Kへのアリバイ工作はその狙い通りにKを守ったわけだが、このアリバイ工作はKを守ったばかりではない。母親へのある種のアリバイとしても機能している。と云うのも、母親が関与しているとしてKを庇う理由がないからである。Kが疑われている間は母親は安泰である。Kがシロと云うことになれば次は自分が疑われることになるのだから、母親としてみればKのアリバイ工作を考えてあげる立場にはない。但し、Kと母親がデキていると云うウルトラCがあるのであれば話は別となろう。また、母親の知人が黒幕=主犯だったとして、しかし例えばこの知人の弟がKと昵懇の仲であるとするならKのためにアリバイを考えてあげることはあるかもしれない。懸念する母親に対して「大丈夫だよ、誰も母親が関与しているなんてこと、思わないから」と云った調子で。結局のところ、K・姪・母親、この三者は横一線状態なのである。Kだけが突出して「怪しい」わけではないのだ。