値決め | 株式会社 丸信 社長のブログ

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株式会社丸信 代表取締役 平木洋二のブログ
包装資材販売、シール・ラベルの印刷、紙器印刷加工業を営む株式会社丸信の社長のブログです。

これまで株式譲渡で5社、事業譲渡で2社をお引き受けしてきた。

事業規模はいずれも小さいが、小さな失敗と気づきを重ね、経験値は高まった。M&Aは経験がものを言う世界だから、今後も件数を重ねれば徐々に上達するだろう。

 手痛い失敗もあった。最悪の経験は、M&Aした翌日に、売上の4割を占めていた大口顧客(弊社の競合企業)が、その会社のたった一人の営業マンを引き抜いた上で、全ての発注を一撃で止めた。

 

東証プライム上場企業がそこまでやるか、、

 あれから仕事を増やそうと努力しているが未だに赤字だ。


さて、上記7社をお引き受けした裏で、これまでに100社くらいのお話し(案件)を頂いたのではないか。

 事業は順調で何の問題も無いが、ただ後継者がいないので引き受けて欲しいという典型的な事業承継案件もあるにはあるが、実態として圧倒的に多いのは救済型だ。債務超過や連続赤字、年商規模の負債。完全に行き詰まっているか、今はまだ良いが今後は暗い見通しという企業の案件が実際には多い。

 製造部門をもつ企業で(主に印刷会社)しかも自社と同じシール印刷や紙器印刷の案件もいただくが、ほとんどの場合「標準原価計算」が無い。製造原価報告書さえ無い企業も多い。(製造部門の人件費も販管費に入っている)

 

つまり感覚で価格決定されているのだ。

 

「およそ材料代の倍が売価です」みたいな、、

これで利益が出るはずが無い。M&Aの初期はこの点を見逃していたが、今は遅くてもDDの際には必ずお聞きしている。こういう会社をM&Aした場合は後に苦労するからだ。

 仮にM&A後、原価計算を自社の基準でやり直し、お客様に価格改定をお願いしても、承諾して頂くのは至難の技だ。しかもこういう会社に限って、長期間の在庫や長い売掛の回収期間などの不利な条件も承諾してしまっている。こういう「負の宿命」を背負ったままの企業を引き継ぐわけだ。

「M&Aなんてそもそもマイナスから始まっている」

というのがこれまでの実感だ。自分がやれば上手くできるというのは錯覚や自惚れで、情報の非対称性とリスクが大きい取引なのだ。

だからあまり「前のめり」になってやるものでないと思ってる。

 

それでも、これまでお引き受けした企業を何とか経営できてるのは「経営者のコスト」が薄まるからに他ならない。

 企業規模と企業収益に相関があると言われるが、それは経営者のコストの薄まりにも一因があると思うのだ。社員5人の会社で年収1000万の報酬の社長を担ぐのと社員50人の会社で同じ報酬の社長を担ぐ場合では経営者コストが10倍違うということになる。

 標準原価計算をやったことがある方ならお分かりだと思うが、経営者のコストも原価に間接経費として配賦しなければならない。印刷機を多く抱える弊社では私のコストは「無視」しても誤差の範囲だが、印刷機が5台程度の会社では経営者のコストきっちり製造原価に配賦せざるを得ない。

これにより、小規模企業では経営者がプレイヤーとしてハイパフォーマーでなければ成立しない。営業で大活躍するか、製造現場で大活躍するか、その両方か、最低でもどっちかでなければ会社が成立しない。あるいは自分の報酬を極端に抑えるか。

 外注先に小規模ながら価格がとても安価でしかも納期の早い企業がある。失礼ながら恐らく原価計算などはやっておられないだろう。

それでも長年商売を続けられるのは労働基準法の対象外の経営者自らが、長時間労働で補っておられるからだ。

 製造、販売のどちらでも活躍せずに、経営者の集まりやゴルフに精を出しているようじゃ存続も危うい。事実、買収後に私が社長兼任することで「経営者のコスト」が消えて黒字化できた会社が複数ある。

 

印刷会社といえど、製造業の「端くれ」だ。まずはしっかりと原価を計算することが第一歩なんだと思う。イニシャルの設備投資額にその後の保守や修理に掛かるコストも入れて、設備に掛かるコストを計算する。現場の社員の作業時間の計測も必要だし、電気代や家賃をどう配賦するか、経営者を含めた間接部門のコストをどう配賦するかなど細かなテーマも多い。知識なかったらコンサル入れるしかないかなー。大変だけど原価計算すればこそ見える景色もある。

 

原価計算を自分でやるから、


「夜勤(2交代)したら?」

「新台でなく中古の機械入れたら?」

「高価だけど、生産性の高い新台を入れた場合の原価は?」

「機械を操作しない管理者を何人に一人置くべきか?」


などの問いに答えが出せる。何をやったらコストを下げることができるのか、、コストダウンのポイントも自ずと分かる。

 

事実として自社より大きな企業は当然我々以上に精緻に原価計算されている(専門部署で)。だから価格で競合した際には同じようなレベルになる。負けても想像の範囲内。あまりにもかけ離れた場合は、意図的な政策的な価格か、こちらの計算ミスなどの場合が多い。一方で小規模の競合の方が、とんでもない低価格で突っ込んで来られる場合がある。恐らく原価計算されてない。

 

精緻な原価計算こそ成長への第一歩

 

弊社の後継者候補の皆さんや工場の幹部の皆さんには必須と思ってもらいたい。

組織として原価計算を精緻に行う仕組みが必要なのだ。

 

かつて師事した経営の神様は「値決めは経営」と仰ったが、それは営業の値付けをも含めた、もっと広義の意味合いだと思う。


それでもホントに「値決めこそ経営」だと思う。


朝の羽田空港にて