渡る世間は鬼ばかり | 株式会社 丸信 社長のブログ

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最近、週末は渡鬼にハマっている。

 

橋田壽賀子さんが鬼籍に入られたので、もう新シリーズや特番はないだろう。カズちゃんどうしているかなー。

 大学やサラリーマン時代は観なかったが、30代から前の家内が視聴していたのに影響され、私もハマった。

大河以外のドラマなどは観なくなったが、渡鬼だけは録画して観ていた。

 遅咲きのファンなので、初期のストーリーは把握できてなかった。しかし、今、YouTubeで視聴できる。これは海賊版ではなさそうだ。TBSがオフィシャルにアップロードしているようだ。

 

岡倉や幸楽にはこんな歴史があったんだー

 

こりゃNetflixより面白いな、、

かなりのコンテンツ量だから、しばらく飽きないだろう。

 

さてさて

 

先日、所属しているコンサル会社の研究会でPEファンドの方が講師のセミナーを拝聴した。

 

※ PEファンドとは

複数の機関投資家や個人投資家から集めた資金を基に事業会社等の未公開株を取得し、その企業の経営まで踏み込んで支援し、企業価値を高めた上でIPOや売却することで高い利益を獲得することを目的とした投資ファンド。

 

じつは弊社(私)も過去何度かアプローチ受けたことある。

 

今回のセミナーのPEファンドは代表が超有名な方で一時期はテレビにも高頻度で出演されていた。

セミナーは難しいことを分かり易く伝える素晴らしいプレゼン、澱みのないロジックが展開された。若いながら相当優秀な方だろう。

 

しかしスキームを聞いていて、

 

「これは鬼だな」

 

と思った。

 

LBO(レバレッジドバイアウト)

 

孫さんがボーダフォンの買収する際に日本で初めて使われたスキームだ。

特定子会社SPCを設立し、買収先の資産やCFを担保に買収資金を借り入れ、買収後、被買収会社とSPCを合併させるというやり方だ。

 

なぜ、鬼とまで言ったのか、、

 

数字を見てみよう。

 

仮に被買収会社の総資産20億円、総負債10億円、純資産10億円で、株価は15億円だったとする。つまりのれんが5億円。CFは仮に1億円しよう。

SPCの資本金は5億円、借入金を10億円とします。以下簡便に仕訳を記載します。

①SPCの設立
  現金   5億円 /  資本金  5億円

②10億円を資金調達する。
  現金   15億円 /  借入金  10億円
                 資本金  5億円


③対象会社の株式の買取り。
  対象会社株式15億円 / 借入金  10億円
                    資本金  5億円


④SPCと被買収会社の合併

     (資産)      (負債)
  資産  20億円   借入金  20億円
  のれん  5億円    資本金   5億円

 

となる。

ファンドは企業価値を高めてからIPOか売却することで利益を生むのが目的だ。

このあと売上を増やしたり、コスト削減を行うなどCFを大きくする活動とともに、そのCFで借入(SPC設立の際の)を返済していく。

 

5年後に仮に、CFは2億円に増え、BSも

 

資産 30億   借入金 20億円

           資本金  5億

           利益剰余金 5億

 

くらいになれば、株価は純資産+CFの5年くらいとすると

 

10億+2億×5年=20億

 

くらいになる。

この時点でこの会社を売却すれば

5億の出資から、わずか5年で20億のリターンを手にすることになる。

彼らの高額な人件費を差し引いても、投資家には大きなリターンをお返しできる。

 

セミナーに登壇した彼はこのPEファンドの買収対象会社として、

「借入の少ない営業利益10億以上をコンスタントに出している会社」

と言っていた。

 

そりゃ、そうでしょうよ。

借入を背負わせる余力があり、確実に返済し易いから。

 

ここまで書けば、私がなぜ汚い言葉を使ったか、ご理解頂いた方も既におられるはずだ。

 

これはファンドや投資家にとっては良いスキームだけど、被買収企業の不安定化につながる取引だ。前経営者はファンドに買収される時点でエグジットできているからデメリットは少ない。

しかし、残された従業員さんからしたら、とんでもない話だ。

なぜならば、

上の例で分かるように、元々自己資本比率50%の優良企業が、このスキームによって、自己資本比率20%に急落することからスタートするからだ。

(もちろん、実際は安全性の観点からレバレッジの掛け方は調整されていると思いたい)

短期利益を求めるファンドの特性上、長期的に企業価値を向上させるような大きな投資には消極的になるだろう。従業員さんへの待遇向上や利益還元についても同じだろう。金融機関との約定もあり、借入の返済が優先権を持つはずだ。

 

LBOの典型的な失敗事例として知られる、地方のゼネコンの事例では、LBOの直前まで売上約100億で営業利益2億、実質無借金で現金を20億有していたピカピカの中堅企業が倒産している。

 LBOで借金を背負わされ、買収した企業も企業価値を高められなかったことが原因だろう。

 

M&A後の切り札は経営者だと言われる。

 

そういう意味では孫さんは特別だったのだ。

今後のスマホ時代の到来を完全に読み切って、買収を急いだ。その当時のソフトバンクの力とボーダフォンの買収価格との乖離を埋める為にはLBOしか方法がなかったのだろう。スティーブ・ジョブズと直接交渉してiPhoneの独占権を得るなど、孫さんの力が存分に発揮され、企業価値を大いに高めたのは周知の事実だろう。

 

普通は簡単ではない。

 

弊社でも株式譲渡で3社、事業譲受で2社引き継いだが、企業価値を高めたと胸を張れる会社はまだ1社もない。私の力不足は認めざるを得ない。

 いくらファンドが優秀な人材を送り込むにしても、他業界から派遣されて、確実に好転できそうなのはコストダウン、内部統制強化、お客様の紹介、DX化くらいではないだろうか。

 

一方でアメリカではLBOはごく一般的な手法として認知されている。

もうすぐ団塊の世代の経営者の一斉引退があると言われる

「2025年問題」

を考えれば、これからもっと中小企業のM&Aは増えるだろう。国も事業再編を後押ししているが、中小企業がM&Aのファイナンスを自己資金や本体での借入のみに頼るとしたら、限界もある。

 

借入が膨らめば、リスクも膨らむ。

 

場合によっては、このようなノンリコースローン(本体に遡及されない借入)を使ったスキームも選択肢の一つとしては考えなければならないのだろう。

 

朝のオフィスにて