2025/10/31にAIPLAの年次総会でSquires長官が演説を行いました。その内容が特許庁のサイトにアップされています。
バックログの問題、AIを用いた審査の促進、USPTOの活動資金、特許適格性などについて語られています。
どれもこれまで報じられてきた内容だろうと思っていましたが、最後の特許適格性について興味深いことが述べられていましたので、ご紹介したいと思います。
AI発明の適格性が問題となっているところ、この適格性 (eligibility) の問題と、特許性 (patentability) の問題 (新規性の102条、非自明性の103条、記載要件等の112条)とを見分けるための三つの占い棒 (divining rod)/柱 (pillar) が既存の法的枠組みの中にあり、これを働かせることで正しく適格性を判断することができるとのことです。
特許法100条(b)
一つ目の柱は、特許適格性に関する101条の一つ手前の条文、100条(b)が提供する「方法 (Process)」に関する規定です。
The term "process" means process, art, or method, and includes a new use of a known process, machine, manufacture, composition of matter, or material.
(「方法」とは,方法,技法又は手法をいい,既知の方法,機械,製造物,組成物又は材料の新規用途を含む。)
すなわち、既知の技術の新しい用途が、特許適格性を有する「方法」に含まれます。
Enfish
二つ目の柱は、ブロックチェーンのような分散型台帳 (Distributed Ledger) の技術に関し、コンピュータのデータ構造の改良について特許適格性を与えた Enfish, LLC v. Microsoft Corp. (Fed. Cir. 2016) 判決です。
長官は、AIが適切にクレームされ、かつサポートされていれば、これは「Enfishコインの単なる裏返しに過ぎない」、すなわち同じロジックで適格性が得られると述べています。
Something "Morse (モールス)"
最後の柱は、Alice/Mayoフレームワークにおける "something more" です (自然法則や自然現象、抽象的アイデアのような特許適格性を有しない概念を、適格性を有するものに変える何かがあるか)。長官は、モールス信号を発明したサミュエル・モールスをもじって、"something Morse"とも呼んでいます。
このモールスの特許のクレームのうち、クレーム5は、アルファベットを電磁気的に伝送するためにドットとダッシュを用いて表現するシステムであって、適格性を有するのに対し、クレーム8は、単なる電磁気学を記述したものであり、実用的な応用を欠いています。長官によれば、この対比が、適格性の有無を表しているとのことです。
すなわち、既存の枠組みの中でも、AIなどの先進技術に特許適格性を与えて保護することは可能であり、USPTOとしてもその保護を与えることに門戸を広く開いているというのが、長官のメッセージであったように思います。
また、演説の中で、適格性の判断が、「見る人の目 (the eyes of the beholder) 」に委ねられるようなものではあってはならないとも述べており、長官在任中に何らかの指針を出すことを示唆しています。
「私たちの世界クラスの審査官 (our world-class examiners)」による今後の審査の進展に期待いたします。
