当事者系レビュー (Inter Partes Review, IPR) に関する規則変更案 | The U.S. Patent Practice

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本ブログは、今のところプロセキューションの実務にフォーカスしているため、当事者系レビュー (Inter Partes Review, IPR) については積極的に取り上げないのですが、2025/10/17付で発表された規則の変更提案についてはあちこちで話題になっていますので、本ブログでもまとめておきたいと思います。

 

USPTOは、特許審判部 (Patent Trial and Appeal Board, PTAB) におけるIPRの利用を大幅に制限するための規則変更案を公示しました。これは、PTAB手続きによる高い特許無効率が背景にあります。

 

下の図は、2024/10/1-2025/6/30までの期間における、IPRとPGR (Post Grant Review) の申立ベースの結果 (Outcomes by petition) を示しています。


USPTO Home > Patents > PTAB > Statistics > FY25 Q3 Outcome Roundup

 

・FWD (Final Written Decision) All Unpatentable: 最終決定により全てのクレームが無効

・FWD Mixed: 最終決定により一部のクレームが無効

・FWD All Patentable: 最終決定により全てのクレームが有効

 

上の数字から計算すると、IPR/PGR手続きが開始されて最終決定がなされる場合、全てのクレームが特許性なしされる確率は、

177÷(177 + 56 + 49) × 100 ≒ 62.8 %

 

また、少なくとも一つのクレームが特許性なしとされる確率は、

(177 + 56) ÷ (177 + 56 + 49) × 100 ≒ 82.6 %

 

となります。一度特許になったにも関わらず、IPR/PGRが開始されて最終決定まで進むと、高い確率で特許性が否定されていることがわかります。

 

公示によると、同一の特許に対する「連続的かつ並行的な特許性に関する異議申立により、特許権の信頼性が損なわれ、新技術への投資が阻害されている」とのことで、PTAB手続きに関する規則を以下のように変更することが提案されています。

 

申立人による誓約 (stipulation) 

 

IPRが開始されるためには、申立人が、他の法域(連邦地裁や国際貿易委員会 (ITC) など)において、102条(新規性)/103条(非自明性)に基づく特許無効の主張を行わない旨、制約することが必要となります。申立人は、この誓約書を、PTABと、特許が争われている他のすべての裁判所に提出する必要があります。

 

過去の判決による申立禁止

 

申立の対象となったクレームが、過去の法的手続き(連邦地裁における判決、ITCによる決定、過去のPTAB手続きにおける最終決定など)において無効でないと既に判断されている場合、IPRは開始されません。

 

並行する訴訟による申立禁止

 

IPRの最終書面決定の期日より前に、並行する法的手続きにおいて102条/103条に基づく判断が下される可能性が「高い(more likely than not)」場合、IPRは開始されません。

 

例外措置

 

USPTO長官は、これらの新しい制限規定にかかわらず、IPRを開始する権限を持ちます※が、これは「例外的状況(extraordinary circumstances)」に限られます 。規則では、新しい先行技術、新しい専門家の証言、または新しい法的議論は、例外的状況に当たらないとされています。

 

(※同日に、IPR手続きを開始する権限を新長官に戻すことを知らせる書簡が出されています)

 

これらの規定により、IPRの手続きの開始そのものを抑制し、現状の特許権の不安定性を解消することを目指すようです。