機械的な自動化機構を有するクレームが抽象的アイデアに相当しないと判断された事例 | The U.S. Patent Practice

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ユーザが重量を指定すると、それに応じた重さのプレートが自動的にセットされるダンベルシステムのクレームについて、特許適格性を有すると判断された事例になります。

 

PowerBlock Holdings, Inc. v. iFit, Inc. (Fed. Cir. 2025/8/11)  Precedential

 

 

この手のダンベル機構は、従来、ユーザが機械式セレクタを手動で操作しプレートを付け替える必要があったところ、本発明により、この自動化が実現されました。

 

U.S. Patent No. 7,578,771 B1

1. A weight selection and adjustment system for a selectorized dumbbell, which comprises:
(a) a selectorized dumbbell セレクター式ダンベル), which comprises:
     (i) a stack of nested left weight plates and a stack of nested right weight plates;
     (ii) a handle having a left end and a right end; and
     (iii) a movable selector having a plurality of different adjustment positions in which the selector may be disposed複数の調整位置を有する可動セレクター), wherein the selector is configured to couple selected numbers of left weight plates to the left end of the handle and selected numbers of right weight plates to the right end of the handle with the selected numbers of coupled weight plates differing depend-ing upon the adjustment position in which the elector is disposed, thereby allowing a user to select for use a desired exercise weight to be provided by the selectorized dumbbell; and
(b) an electric motor that is operatively connected to the selector at least whenever a weight adjustment operation takes place, wherein the electric motor when energized from a source of electric power physically moves the selector into the adjustment position corresponding to the desired exercise weight that was selected for use by the user ユーザが選択した重量に対応する調整位置にセレクターを物理的に移動させる電動モーター).

 

地裁は、上記クレームが、ダンベルの重量調整の自動化であり、これを実現するための基本的な工程や効果、一般的・慣例的な構成要素を列挙したに過ぎないとし、抽象的アイデアに相当すると判断していました。

 

CAFCは、クレームの以下の点に着目し、クレームは抽象的アイデアに向けられたものではないと判示しています(Alice Step 1をパス)。

  • 特定のタイプのダンベル(セレクター式ダンベル)に限定されており、特定の構成要素、すなわち、入れ子になったウェイトプレート、ハンドル、可動セレクターが具体的に記載されている
  • セレクターに動作可能に接続された電動モーターが、通電されるとセレクターを異なる調整位置に物理的に移動させることを明記している
  • 既知の技術を自動化するという広範な概念を超えており、自動化されたウェイトスタッキングを実行する十分に具体的な方法を提供している

また、CAFCは、本発明と過去の抽象的アイデアに関する事例とを対比して説明しています。

  • Chamberlain Grp., Inc. v. Techtronic Indus. Co., 935 F.3d 1341, 1347 (Fed. Cir. 2019)
    • 明細書にはガレージドアなどの可動障壁を無線で制御するシステムが記載されているが、クレームには可動式バリアそのものは記載されていなかった
    • クレームは、通信システムに対する技術的改良の具体的な実施に限定されるものではなく、むしろ、物理的な信号経路を用いる代わりにステータス情報を無線で通信するシステムを単に記載していた
  • 本件
    • クレーム1において、セレクタを物理的に動かす電動モータを含む機械装置の要素を記載しており、セレクタはモータに接続され、選択された数の左側のウェイトプレートをダンベルハンドルの左端に、選択された数の右側のウェイトプレートをダンベルハンドルの右端に連結してダンベルの重量を自動的に調整するように構成されている
    • セレクタ式ダンベルのウェイトスタッキングに対する特定の機械的改良に十分焦点を当てている
  • University of Florida Research Foundation, Inc. v. General Electric Co., 916 F.3d 1363 (Fed. Cir. 2019)
    • 少なくとも1台の臨床機器からの生理学的データを統合するための方法およびシステムに関するものであり、「ペンと紙による方法 (pen and paper methodologies) 」を自動化して人的資源を節約し、誤りを最小限に抑えることを目指しており、典型的な「コンピュータでやる (do it on a computer)」特許である
  • 本件
    • 改良された機械、すなわち特定の装置および装置の組み合わせから構成される具体的な物を対象としている

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プロセキューションの段階において、機械的なモノについての発明についても、クレームが広く抽象的・機能的であると、抽象的アイデアの拒絶理由を受けることがあります。機械発明にせよ、ソフトウェア発明にせよ、既存技術の技術的改良をクレームの文言で表現することにより拒絶の克服を目指すことには変わりありませんが、本事件を受けて、そのハードルは、いくぶん機械発明の方が低いことが示されました。(当たり前といえば当たり前ですが)

 

すなわち、クレームに列挙された物理的な機構の動作をもって技術的効果がもたらされることが明らかであれば、例え制御アルゴリズムそのものが、「ベンと紙による方法」の自動化に相当するような内容であっても、特許適格性が認められる可能性がある(高い、といってよいと思います)ことになります。具体的な部品とその物理的・機械的動作によって発明が記述されているにも関わらず、101条の拒絶理由を受けた場合には、本事件を引用して反論が可能です。

 

それにしても、特許適格性については話題に事欠きません。今年こそ改正法案が成立して、問題の明確化と再整理が行われるとよいと思います。