USAA v. PNC Bank (Fed.Cir.25/6/12) 101 NG | The U.S. Patent Practice

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United Services Automobile Association v. PNC Bank N.A. (Fed. Cir. 2025/6/12)  Precedential

 

携帯電話を使用して小切手 (check) を読み取り、銀行口座に入金するためのシステムに関する特許が、特許適格性を有しないと判断された事例となります。

 

日本では、個人の取引で紙の小切手を使う機会はあまりないと思いますが、米国では広く行われています。例えば、出張費用を清算する際、雇用主からチェックが郵送され、そのチェックを銀行のATMに持参するか、携帯電話のカメラを使ってデジタルに自分の口座に入金することができます。

 

下にクレームを丸ごと載せましたが、見かけ上、やっていることはこの動画(Bank of Americaのチェックの預け入れ解説)とほぼ同じですので、イメージがつかめない方は動画を見られるとよいと思います。

 

U.S. Patent No. 10,402,638

20. A system for allowing a customer to deposit a check using a customer’s handheld mobile device, 

the system configured to authenticate the customer using data representing a customer fingerprint, 

the system including:
     a customer’s handheld mobile device including a downloaded app, the app associated with a bank and causing the customer’s handheld mobile device to perform the following steps:
          instructing the customer to take a photo of the check;
          using a display of the customer’s handheld mobile device to assist the customer in taking the photo of the check;
          assisting the customer as to an orientation for taking the photo; and

          using a wireless network, transmitting a copy of the photo from the customer’s handheld mobile device
and submitting the check for mobile check deposit;
     a bank computer programmed to update a balance of an account to reflect an amount of the check submitted for mobile check deposit by the customer’s handheld mobile device;
     the system being configured to check for errors before the submitting is performed by the customer’s handheld mobile device; and
     the system being configured to confirm that the mobile check deposit can go forward after optical character recognition is performed on the check in the photo.

 

地裁は、このクレームは抽象的アイデアに向けられたものではないと判断し、特許適格性ありと判断していましたが、CAFCはこれを覆しました。

 

一見すると、クレームに固有のハードウェアが記載されているように見えますが、CAFCは、handheld mobile device, bank computer ともに汎用のコンピュータとみなしています。

 

では、肝心の処理部分はどうかというと、

  1. (携帯電話) 顧客に小切手の写真を撮影するよう指示する
  2. (携帯電話) その撮影をアシストするためにディスプレイを使う
  3. (携帯電話) 撮影のために写真の向きについて顧客を補助する
  4. (携帯電話) 無線ネットワークを使って写真のコピーと小切手を送信する
  5. (銀行のコンピュータ) 残高を反映する
  6. (システム) 小切手送信の前にエラーチェックする (なぜか主語がシステムだが携帯電話が実行すると思われる)
  7. (システム) 写真をOCRした後、入金を実行可能か確認する

CAFCは、このような情報収集と分析を含む一連の 慣行の/ありふれた (routine) ステップについて、人間が心の中で実行可能であり、抽象的アイデアに向けられたものであると判断しました。そして、クレームされた発明は、これらのステップを汎用のデバイスに実行させたに過ぎず、依然として抽象的アイデアの域を出ないと結論付けています。(Alice ステップ1)

 

なお、発明による効果(コンピュータの機能改善)について、CAFCは、過去の事件を参照して以下のように述べています。

「コンピュータアプリケーションの使用中のユーザーエクスペリエンスを向上させるだけでは、それ以上のことがない限り、クレームをコンピュータ機能の改善に向けるのに十分ではない。」Simio, LLC v. FlexSim Software Prods., Inc. (Fed. Cir. 2020) 

さらに、CAFCは、クレームが、画像取得、OCR、データ処理といった既知でありふれた処理を記載しているに過ぎず、携帯デバイスはその処理の実行に使用されるに過ぎないため、発明的概念を記載したものではないと判断しました。 (Alice ステップ2)

 

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本件の101条の判断については、クレームに記載された特徴から、順当という印象です。実行されるステップが、実際に世の中でルーチン的に広く行われているものである場合、Aliceテストにおける適格性の判断は厳しいものとなります。

 

また、CAFCも触れていますが、インターネットを使ってユーザの利便性を向上する、こういったコンセプトの発明には要注意です。日本ではよくても、米国では101条の特許要件を満たせない可能性があります(クレームの具体性次第)。