英訳を念頭に置いた日本語明細書作成における留意点 | The U.S. Patent Practice

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米国での特許実務に役立つ情報を発信しています。

僭越ながら私のセミナーでも何度かご紹介させていただきました、英訳を想定した日本語明細書作成のための留意点のいくつかについて、少し書いてみたいと思います。

 

この内容は、私が弁理士として明細書を書く傍ら、内外担当者として明細書(自分の明細書含む)を英訳していた経験、および、米国代理人として英文(翻訳文)をリバイズしてきた経験に基づくものです。

 

また、私の考え方として、指針は、草案をドラフトする方の表現やスタイルを制約するものであってはいけないと思っています。言うまでもありませんが、日本語明細書の作成あたっては、日本の特許プラクティスに即していることが最も重要ですし、ルールを増やしすぎて効率が犠牲になるのも好ましくないと思います。

 

一文三行ルール

一つの文章は、基本的に三行以内に収める。

 

基本的に、文章が長くなると、構造が複雑になり、人間も翻訳しにくくなり、機械翻訳も正しい出力をしなくなります(経験則)。この三行というのは絶妙だと個人的に思っていまして、翻訳する際、文章が四行以上にわたっていると、文章全体の把握に時間がかかります。また、機械翻訳を使用して生成された訳文で、意味不明だと思って原文を確認すると、だいたい四行以上の長い文章だったりします。

 

三行だと、一文であまり複雑な説明はできなくなりますから、文章で言及される要素(主体や動作など)も少なくなり、後述する問題も起きにくくなります。日本語としての文章の読みやすさを改善しつつ、英文品質も機械的に向上させ得る、良いルールと考えます。

 

一文一文の主体/主語の明確化

英語というより日本語の指針ですね。指針は最小限にと書きましたが、これは日本語の技術文書としての指針ともいえるので、強く主張したいところです。

 

 

日本語では、あるトピックに馴染みのある書き手・読み手の間では、主語や主体を省略して記載しても、通じやすい傾向にあると思います。これを、そのトピックにあまり馴染みのない翻訳者や機械翻訳が翻訳しようとすると、英語では主語は(動詞によっては目的語も)省略できませんから、意図したとおりの訳文とならない可能性が高くなります。

 

また、一文の中に、異なる動作主体/主語がでてくると、事故が起きやすいです。主語と動詞の位置が近く、はっきり結びついていればよいのですが、一部省略されり、動作主体が途中で変わったりすると、翻訳者/機械翻訳に文脈を正しく読み取ってもらえなくなる可能性が高くなります(あるいは上の図の例のように受動態で記載され、動作主体が不明確なままになる)。

 

あまりやりすぎると明細書が単調になってしまうのですが、「〇〇は、・・・である/・・・する」というシンプル構文で淡々と書くと、翻訳の制度は上がり、負荷はかなり下がります。

 

規則に沿った用語統一

用語統一についてはいわずものがなですが、翻訳、特に英訳を想定するのであれば、一定の規則/ポリシーに従って名前をつけるべきと考えます。

 

どういうことかというと、例えば、日本語明細書においては、部品や機能のような要素に名前をつける、「名詞+部」や「名詞+手段」といった形にすることがありますが、この「部」や「手段」という、何にでもなり得る便利ワードに対応する訳語がなく、翻訳の際に問題となることがあります。(後者についてはmeansが対応し、米国では不都合なので、あまり見かけなくなりましたが)

 

例えば、あるソフトウェア機能に「〇〇部」という名前をつけた上で、使用されるデータの名前にも「××部」と名付けたりするケースで問題となります。「部」が unit と訳されるのか part と訳されるのか、はたまた portion と訳されるのかは翻訳者次第ですが、いずれにしても、機能とデータとを、同じ unit / part / portion 等のくくりで呼ぶのは不自然に感じられます。

 

翻訳者は、同じ単語は同じ訳語にするという原則で翻訳しますので、特別な指示がなければ、この問題は解決されません。そこで、例えば、データやハードウェア的な何かの一部を「〇〇部」と呼びたい場合には、ソフトウェア的な機能については「〇〇モジュール」または「〇〇機能」など、別の接尾語を使用するべきと考えます。

 

なお、「部」と「ユニット」などのカタカナ語で使い分けるのも一つかもしれませんが、「部」が unit に訳されることが多い観点から、個人的には微妙かなと思います。(先日のエントリ参照)

 

また、「送信済情報分類手段」のように、多数の名詞をつなげて名前を付けるのも、翻訳とは相性が良くありません。名前を付ける際に組み合わせる名詞の数は、2つか3つ程度にしておくのが無難です。

 

 

ひとまず3つほど留意点を記載させていただきました。他に何点か留意点がありますので、それについてはまた次回にまとめさせていただきたいと思います。