米国特許法第102条といえば新規性に関する条文です。非自明性/進歩性の判断と比べて、日本の実務との違いは相対的に少ないと思いますが、いくつか留意点があります。
今日は、そのうちの一つの Inherency (潜在的特性) について簡単にメモしておきたいと思います。
"A claim is anticipated only if each and every element as set forth in the claim is found, either expressly or inherently described, in a single prior art reference." Verdegaal Bros. v. Union Oil Co. of California, 814 F.2d 628, 631, 2 USPQ2d 1051, 1053 (Fed. Cir. 1987).
「クレームは,そのクレームに記載される一つ一つの要素が,単一の先行技術の引例の中に, 記載が明示的にせよ潜在的にせよ,確認される場合に限って,新規性を喪失する。」Verdegaal Bros. v. Union Oil Co. of California,814 F.2d 628,631,2 USPQ2d 1051,1053 (Fed. Cir. 1987)。
ルールが示す通り、文献上明示されていない事項であっても、潜在的に開示されている事項については、新規性違反の根拠となり得るということです。
例えば、以下のようなクレームの文言があったとします。
「第一の装置が第二の装置に識別情報及び〇〇データを送信する」
これに対して、引例が以下の開示をしているとき、上記限定の新規性を否定する根拠となるでしょうか。
・装置1が装置2に〇〇データをインターネットを介して送信する
・装置2は、受信した〇〇データを、装置1と関連付けて保存する
引例では、識別情報の送信については明示的に記載されていません。しかしながら、受信された〇〇データと、その送信者である装置1とが関連付けられており、装置1は何らかの方法で識別されています。したがって、装置1は、装置2に何らかの識別情報を送信したことが潜在的に開示されていると考えられます。
また、一般論として、何らかの識別情報のやりとりなくして、二者間の通信は成り立ちません。そういう意味でも、識別情報の送受信というのは、引例の明示的記載の有無に関わらず、新規性否定の根拠となり得ます。
潜在的に開示されていると判断されている要素について、引例に開示がないとして、反論を試みようとする例をたまにみかけます。あるいは、上の例における識別情報の送信のように、権利範囲に影響の少ない(皆が必ず実施する)要素を補正によって追加しようとするとき、この内容が実は Inherent ということがあります。
引例に記載されていない要素でクレームを限定する際、明示こそされていないものの本質的に開示されていないのか、一度見直してみることも重要です。
なお、仮に、潜在的にも開示されておらず、新規性要件をクリアしても、次に非自明性要件が待っています。Inherencyが問題となるような構成要素は、引例において明示的に記載されていない、すなわち省略されるような要素であることも多く、結局は自明と判断される可能性が高いです。ファーストOAで新規性要件違反の拒絶を受けたら、この点に留意しつつ、先回りして対応することが重要です。(さもないと、ファイナルOAを受けてRCE確定となってしまいます)