IQRIS Technologies LLC v. Point Blank Enterprises, Inc. (Fed. Cir. 2025/3/7)
判決文全文
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/23-2062.OPINION.3-7-2025_2478261.pdf
地裁が、防弾服(下図参照)の発明に係るクレームの文言 「プルコード (pull cord)」(図の要素16、脱ぐときに引っ張る) について、「ユーザーが直接引っ張っることにより、取り外し可能な留め具またはフックを外すことができるコード」と解釈し、コードが直接引っ張られない態様の競合製品を非侵害としていたところ、CAFCがそのような解釈は狭すぎるとして判断を取り消した事例となります。
念のためクレーム全文を載せておきます。
U.S. Patent No. 7,814,567
1. A ballistic garment, comprising:
a front panel of the ballistic garment;
a rear panel of the ballistic garment;
a plurality of rings, wherein each of the plurality of rings is fastened to a first end of a respective anchor element and each of a second end of each respective anchor element is fixed to the rear panel of the ballistic garment;
at least one releasable hook for releasably attaching the front panel of the ballistic garment to the rear panel of the ballistic garment, wherein the at least one releasable hook is fastened to the front panel of the ballistic garment;
wherein each of the plurality of rings is releasably clasped by the at least one releasable hook;
wherein a cover at least partially covers the plurality of rings and the at least one releasable hook; and
a pull cord coupled to the at least one releasable hook, wherein the pull cord actuates the at least one releasable hook to disengage the at least one releasable hook to which the pull cord is coupled from the at least two rings to allow detachment of at least a part of the front panel of the ballistic garment from at least a part of the rear panel of the ballistic garment.
クレームには、このプルコードが直接的または間接的に引っ張られるといった限定はありません。
地裁が限定解釈した根拠は、本特許の明細書のBackgroundセクションにおいて、防弾服は緊急時にはすぐに脱げる構造となっている必要があり、ハンドルを介してケーブルを引っ張るタイプのものは時間がかかると批判していたためです。
操作時には、着用者はケーブルに取り付けられたハンドルを引いてケーブルをベストから引き出し、ベストのコンポーネントを解放して着用者から取り外すことができる。 . . . これは時間がかかり、面倒なプロセスである。
したがって、現在使用されているシステムよりも操作部品が少なく、リリースが速く、再組み立てが速いクイックリリースシステムを備えた保護用外衣が必要とされている。
'567 Patent, col. 1, l. 63 through col. 2, l. 8, (Google Translate + 筆者ポストエディット)
限定解釈を否定したCAFCの意見は以下の通りです。CAFCの考えた方が集約されているので、訳文をほとんどそのままコピーしました。
微妙な問題であるが、当裁判所の判例の下では、「プルコード」という用語を、明細書の好ましい実施形態に限定することには否定的である (意訳。原文はwe are not inclined to limit)。当裁判所の判例によれば、明細書のすべての実施形態が直接引っ張られるプルコードを表現している場合でも、クレームが明示的に要求していない場合、この要件をクレームに読み込まないよう勧告している。明細書に照らしてクレームを読むことと、限定を明細書からクレームに持ち込むことの間には微妙な境界線があり、ここでは、プルコードの通常の意味が直接引っ張られるコードに限定されていることを示唆する証拠がないため、当裁判所は、好ましい実施形態の限定をクレームされた発明に持ち込むことに否定的である。Playtex Prods., Inc. v. Procter & Gamble Co., 400 F.3d 901, 907–08 (Fed. Cir. 2005)
発明の範囲を定義するのは、好ましい実施形態ではなく、クレームである。Phillips v. AWH Corp., 415 F.3d 1303, 1312, 1323 (Fed. Cir. 2005) (en banc) を参照。本件の場合と同様に、特許権者は、用語を自由に選択し、その用語の平易で通常の意味 (plain and ordinary meaning) の全範囲を取得することを期待できる(例外:その用語を明示的に再定義するか、その用語の全範囲を否認 (disavow) した場合)。
(下線、着色は筆者による)
逆に言えば、明細書で特定の構成を批判すると、その構成について権利範囲を全て否認したとみなされる可能性もあるわけです。裁判所の基本的な考え方は上の通りなので、気にしすぎる必要はないと思いますが、既存技術との比較をする際、極力、既存技術のデメリットではなく本発明のメリットを記述するようにすると、よりリスクを下げられると思います。