Lashify v. ITC : Section 337 | The U.S. Patent Practice

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Lashify, Inc. v. International Trade Commission (Fed. Cir. 2025/3/5)

 

判決文全文

https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/23-1245.OPINION.3-5-2025_2476971.pdf

 

まつげエクステンションを販売し、特許や意匠を有している Lashify は、類似商品を輸入する業者の行為を差し止めるべく、その行為が、1930年関税法第337条 (19 U.S.C. § 1337) に違反するとして、ITCに訴えを提起していました。

 

この条文による救済を受けるためには 、条文に記載された一定の要件が満たされる必要がありますが、ITCはその要件が満たされていないと判断したところ、Lashifyが控訴し、CAFCがその判断の一部を取り消した上で差し戻した事件になります。

(2) Subparagraph[] (B) . . . of paragraph (1) appl[ies] only if an industry in the United States, relating to the articles protected by the patent . . . concerned, exists or is in the process of being established.

この条文が適用されるためには、特許で保護される製品に関連する産業が国内に存在する必要があります。

 

では、どういう場合に産業が国内に存在するとみなされるかというと、

(3) For purposes of paragraph (2), an industry in the United States shall be considered to exist if there is in the United States, with respect to the articles protected by the patent . . . concerned— 

     (A) significant investment in plant and equipment; 

     (B) significant employment of labor or capital; or 

     (C) substantial investment in its exploitation, including engineering, research and development, or licensing.

すなわち、当該特許製品に関連して、(A) 設備、(B) 労働力または資本、あるいは (C) 研究開発等についての多額の投資が要件となります(経済的要件)。

 

また、特許侵害が存在することも要件となります(技術的要件)。

 
U.S. Patent No. 10,721,984
1. A lash extension comprising: 
     a plurality of first artificial hairs, each of the first artificial hairs having a first heat fused connection (熱融着接続) to at least one of the first artificial hairs adjacent thereto in order to form a first cluster of artificial hairs, the first heat fused connection defining a first base of the first cluster of artificial hairs; and . . . 

 

ITCは、以下の理由から、経済的要件、技術的要件ともに充足されないと判断していました。

  • Lashify による販売・マーケティングにおける投資は、「多額の投資」の要件を満たしていない
  • Lashify の主張する、倉庫管理、品質管理、流通などに対する投資は、単なる輸入者としての投資であって、上記要件の計算の対象外
  • Lashify が保有する特許クレームの文言 "heat fused" (熱融着) は "joined by applying heat to form a single entity" (熱を加えて結合し単一の物体を形成する) と解釈されるが、対象製品は 接着剤を使用しており単一の物体形成されていない
CAFCは、上記2つの点(経済的要件)について、立法趣旨等に鑑み、倉庫管理、品質管理、流通など、関連するすべての考慮事項を総合的に検討した上で、その費用が「多額」であるか認定する必要があるとし、ITCの判断を取り消しました。
 
一方、クレームの解釈については、"fuse" の辞書上の意味が "to form a single entity" であることや、明細書において、熱融着する場合と、接着剤を使用して接続する場合とが対比して記載されており、クレームの文言は前者と整合するなどの理由から、ITCの解釈に基づく判断が維持されました。
 
クレーム解釈以外の部分に多く紙面を割きましたが、本件の特許実務に関する教訓としては、クレームで複数の部品の接続関係に言及する場合、それらが一体的に一つの部品を構成するケースと、そうでないケースとが、それぞれカバーされるべきかどうか確認しておく、ということになると思います。特に、本件で使用された "fuse"(融着)という表現を使うと、単一の物体が構成されると解釈される可能性がある点、留意しておく必要があります。
 
(2025/8/11:技術的要素について侵害事件のような書きぶりになっていた点を訂正しました)