In re: Xencor : Preamble, Jepson Claims | The U.S. Patent Practice

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In re: Xencor, Inc. (Fed. Cir. 2025/3/13)

 

判決文全文

https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-1870.OPINION.3-13-2025_2481245.pdf

 

審判において、Written Description 要件 (明細書が、発明者がクレームに記載の発明を有していたことを明示しているか) 違反で拒絶された出願について、CAFCがその拒絶を支持した事件になります。

 

論点1:方法クレームのプリアンブルに記載された "treating a patient"という表現は限定的か。

論点2:ジェプソンクレーム※のプリアンブルに記載された事項(=先行技術)は Written Description を満たす必要があるか。

 

※ジェプソン (Jepson) クレーム (MPEP2129 III, 37 CFR 1.75(e))

- プリアンブルにおいて、既知の要素やステップが記載されている

- "wherein the improvement comprises:" といった移行句 (transition) の使用に続いて、発明の構成要素・ステップが記述されている

- プリアンブルに記載された内容は、本発明を限定するだけでなく、自認した先行技術として扱われる

 

論点1:方法クレームのプリアンブルに記載された "treating a patient"という表現は限定的か。

 

U.S. Patent Application No. 16/803,690
9. A method of treating a patient by administering an anti-C5 antibody comprising:
     a) means for binding human C5 protein;
and
      b) an Fc domain comprising amino acid substitutions M428L/N434S as compared to a human Fc polypeptide,
     wherein numbering is according to the EU index of Kabat,
     wherein said anti-C5 antibody with said amino acid substitutions has increased in vivo half-life as compared to said antibody without said substitutions.

 

なお、こちらはジェプソンクレームではありません。

 

プリアンブルに記載された内容が限定としてみなされるかどうかは、以下の基準によります。

特許のクレームの他の部分がプリアンブルの述部に依存している場合、またはプリアンブルがクレームの文言に「生命、意味、および活力 (life, meaning, and vitality)」を与えるために必要である場合、プリアンブルまたはその一部は限定的である。一方、プリアンブルが、単に目的または意図した結果を述べているだけの場合は、限定的であると解釈すべきではない。

Eli Lilly & Co. v. Teva Pharms. Int’l GmbH (Fed. Cir. 2021), Google Translate+筆者によるポストエディット

 

前提として、青字部分 "administering an anti-C5 antibody (抗C5抗体)" が限定的である点については争いがありませんでした。これは、後段の青字部分 "said anti-C5 antibody" から参照されていることからも明らかです。

 

CAFCは、プリアンブルを限定的な部分と非限定的な部分とに分割することに消極的な意見を示しつつ、以下の理由から、上記クレームのプリアンブルの記載を一体的に限定と捉えるべきとしました。

  • 本件における administering の部分と treating の部分とが"by"によって直接的に接続されている 
  • treating の部分は、唯一のステップである administering に生命 (life) を与えている (!!)
  • 「生体内半減期 (in vivo half-life)」という文言は、生体に関してのみ意味をなし、治療に関する特定の有用性を示している、すなわちクレームの文言に意味を与えている

結果、発明の限定として扱われる treating の部分について、Written Description 要件が課されるわけですが、本件の明細書では、どんな疾患をもつどのような患者がクレームされた抗C5抗体にて処置されるのかが十分記載されていないと判断され、Written Description 要件違反が維持されました。

 

論点2:ジェプソンクレームのプリアンブルに記載された事項(=先行技術)は Written Description を満たす必要があるか。

 

8. In a method of treating a patient by administering an anti-C5 antibody with an Fc domain, the improvement comprising
     said Fc domain comprising amino acid substitutions M428L/N434S as compared to a human Fc polypeptide,
     wherein numbering is according to the EU index of Kabat,
     wherein said anti-C5 antibody with said amino acid substitutions has increased in vivo half-life as compared to said antibody without said substitutions.

 

まず、関連するルールは以下の通りです。

 

35 U.S.C. 112(a) Written Description 要件

明細書は,その発明の属する技術分野又はその発明と極めて近い関係にある技術分野において知識を有する者がその発明を製造し,使用することができるような完全,明瞭,簡潔かつ 正確な用語によって,発明並びにその発明を製造,使用する手法及び方法の説明を含まなければならず . . .

日本特許庁訳

書面による説明の要件を満たすために必要な詳細レベルは、クレームの性質と範囲、および関連する技術の複雑さと予測可能性に応じて異なる

Ariad Pharms., Inc. v. Eli Lilly & Co., (Fed. Cir. 2010)

 

CAFCは、以下の理由を述べて、ジェプソンクレームのプリアンブル(すなわち先行技術)についても Written Description 要件が課されるとしたPTABの判断を支持しました。

  • ジェプソンクレームにおけるプリアンブルは、クレームされた発明を定義するために使用され、これによってクレームのスコープを限定する=ジェプソンクレームも、非ジェプソンクレームと同様、クレーム全体で発明を表す
  • 発明は、クレームされた改良部分だけではなく、先行技術に適用された改良である
  • したがって、発明者は、先行技術で知られていたものに対する改良発明を有していることを書面で十分に説明する必要がある
出願人は、プリアンブルに記載された抗C5抗体が well-known であるため、詳細な説明によるサポートは不要と主張しましたが、CAFCはこれに同意せず、PTABによる Written Description 要件違反を維持しました。
 
実務でジェプソンクレームを使う機会はあまりないと思いますが、プリアンブルの限定についての論点および関連するルールについては、知っておいて損はないと思います。
 
私は、発明の文脈を示して審査官の発明への理解を促したり、引例の方向性を示したり、101条の適用の確率を少しでも下げたいとき、プリアンブルを使用します。プリアンブルは無視されるから使っても意味ない、という意見を聞くこともありますが、頭ごなしに使用する・しないではなく、必要な場合に活用するという認識をもっておくのが良いと思います。