権利化手続きにおけるFAQシリーズの第二弾です。
許可後、あるいは特許発行手数料 (Issue Fee) 支払い後、新たな文献が他国で引用され、IDS文献として提出すべきか問い合わせを受けることがあります。
まず、IDSの基本的なルールをまとめておきます。
- 「出願人及び出願書類の作成並びに/又は出願手続の遂行に実質的に関与する他の者は,. . . 特許性について重要 (material to patentability) である情報を庁に提供する義務を負う」 (MPEP 609の日本特許庁訳, 下線は筆者追加)
- この義務に違反すると、不正行為 (inequitable conduct)として権利行使不能となる可能性がある
- 不正行為が認められるための要件 (Therasense, Inc. v. Becton, Dickinson & Co. (Fed. Cir. 2011))
- USPTOを欺く意図 (intent to deceive) (=不注意 (negligence), 重過失 (gross negligence)では不十分)
- 特許性について重要な情報であること、すなわち、USPTOが認識していればクレームを許可しないと考えられる情報であること
- この義務は、特許発行手数料納付後、特許が発行されるまで継続する (概ね支払から発行まで4-6週間)
- IDS文献として提出され審査官によって考慮された文献は、権利化後、特許無効の根拠とされにくい効果がある
許可通知が発行された後など、審査が完了した後に、審査官に文献を考慮してもらいたい場合には、RCEを行う必要が生じるため、代理人手数料も含めて、判断に悩むことがあると思います。
予算が潤沢にある(権利行使する可能性が高い)場合には、将来の攻撃材料を一つでも減らしておくため、RCEを行って審査官に文献を考慮してもらったほうが良いと考えます。
一方、コストをかけたくない(権利行使する可能性が低い)場合、クレームが許可されるに至った構成要素が、その文献によって開示されているかを分析し、開示されている場合にはRCEを行って審査官に文献を考慮してもらい、開示されていない場合にはIDSを提出しないという選択肢があります。
この分析について、理想的には、プロセキューションを担当した現地代理人の担当者が行うのが良いと思いますが、ここではコストをかけたくないという事情に鑑み、出願人サイドで行うのが現実的かなと思います。あるいは、海外代理人が、15分程度のタイムチャージでさくっとみてくれるようであれば、お願いしてもよいかもしれません。(その方のアワリーレートにもよりますが)
上述の通り、不正行為の一要件は「欺く意図」であり、攻撃者がこれを証明することは簡単ではありません。出願人としてクレームと文献を分析し、その文献が特許性について重要でないと結論付けた事実があれば、不正行為が認められるリスクは減らせられると考えます。