"processor" が実行可能な動作 | The U.S. Patent Practice

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米国での特許実務に役立つ情報を発信しています。

 

 

 

ソフトウェア関連発明の日本のクレームでは、「〇〇部」という、機能の一単位に相当する構成要素を複数列挙する記載方法がよく使用されます。

 

何らかのデータを読み取る読取部あるいは取得する取得部、データを比較する比較部、何らかの判定する判定部、何らかの処理を実行する処理部、データ出力する出力部、画面表示する表示部、データ送信する送信部・・・あたりが最もよく目にする要素でしょうか。

 

これらは、reading unit(あるいはpart, portion), acuisition unit, comparision unit・・・などと翻訳されることになります。私の仕事の一つとして、翻訳クレームを米国向けに修正することがありまして、これらの構成要素を、一構成要素である回路又はプロセッサが実行する一連のステップとして記述しなおします。

 

ここで、上に列挙したような、読取、取得、比較・・・といった動作であれば、コンピュータが実行する動作としてすんなり理解できますし、特に問題はないと思います。

 

問題は、何らかの数値を推測する推測部、何かの動きなどを監視する監視部または追跡する追跡部・・・などの、高度な機能的表現が使用されている場合です。通常は機械というより人が実施する擬人的な動作といっても良いかもしれません。このような場合、プロセッサ (いわゆるCPU) を動作主体としたとき、このプロセッサが~を推測する/監視する/追跡するというのは少し飛躍があり、技術的に正しくないように聞こえます。英語にするとこれが顕著で、

 

a processor configured to estimate a value ... / monitor (or track) movements of ...

 

回路やプロセッサそのものに、推測や追跡する機能は、通常、備わっていません。そこで、こういった表現がある場合、私は以下のように変更するようにしています。

 

calculate an estimate value ...  / determine whether something is changed (or moves) ...

 

意味を補足するため、必然的にクレームの記載量は増えますが、表現がより具体的になり、文言解釈の争いの可能性を低減することにも役立ちます。

 

なお、上の考えを突き詰めて考えると、CPUは特定の命令セット(機械語)しか実行できないのだから、極めて限定的な動詞しか使えないのではという疑問もあるかもしれませんが・・・当業者がわかる範囲で、技術的にできるだけ正確に書くというのが求められているクレームドラフティングだと思います。

 

反対に、プロセッサはプログラムを実行することで高度な機能を実現できるのだから、プログラムが実現可能な機能なのであれば何でも記載してよいという考えもあるかもしれません。ただ、あまりに抽象的な表現にしてしまうと、上述したように、解釈について争いを生む可能性がありますので、注意が必要です(推測するステップとは具体的にプロセッサのどこからどこまでの処理を指すのか)。