WSOU v. Google (Fed.Cir. 23/10/19) MPF | The U.S. Patent Practice

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WSOU Investments LLC v. Google LLC (Fed. Cir. 2023/10/19)

 

判決文原文:https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/22-1063.OPINION.10-19-2023_2208347.pdf

 

"processor"という用語が、特許法第112条(f)に規定される、いわゆるミーンズプラスファンクション形式の限定に該当するかが争われた事件となります。

 

本事件では、二つの特許でそれぞれクレームされた"processor"について、異なる判断がなされました。一つは、ディスプレイとプロセッサが構成要素として記載された装置クレーム(左)、もう一つは、プロセッサにより実行されるプログラムコードがメモリに格納されている点が明示的に記載された装置クレーム(右)となります。

 

 

CAFCは、左の例では第112条(f) 適用あり(MPF形式の限定)、右の例では第112条(f)適用なしと結論付けました。

 

"processor"という用語そのものは、第112条(f)の適用を推定するよう働く"means"の代用語 (nonce word)ではなく、「場合に応じて十分な構造を示す」というのがCAFCの立ち位置です。その上で、実際に第112条(f)を適用するかどうかは、特許(明細書)の文脈に応じてケースバイケースで判断されます。

 

本件の左の例 (第112条(f) 適用あり)では、"processor"という用語が、明細書中で、ハードウェア、ソフトウェアを含む任意の構造に対応するよう、広く機能的に記載されていた点が重視されました。

 

一方、右の例(第112条(f) 適用なし)では、"program"や"user interface code"という語を含む限定について第112条(f)を適用しないとした判例(Zeroclick LLC v. Apple Inc., (Fed. Cir. 2018))に基づき、本件においても第112条(f)が適用されないと判断されました。

 

筆者が扱う案件はこの"processor"をクレーム要素とするものも多いのですが、審査の過程では、第112条(f)の観点から"processor"が問題となったケースは現時点(2024/11/17)でもほとんどありません。個人的意見ですが、ソフトウェア開発者であれば、ふつう"processor"と聞いたらCPUのことを想起する気がしており、"processor"の使用を完全に封印するのはどうかなとも思います。いずれにしても、今後の判例や特許庁の審査動向をウォッチしておく必要があります。
 
この問題に確実に対処するためには、例えば以下のような文言を使用できます。
 
a processor is configured to ... という記載に代えて、
-> a processor configured to execute a program (a code, an application, instructionsなどでも可) to perform ...
あるいは、上記右の例のように、
->a code causing the processor/apparatus to perform ...
 
書き方は色々あると思いますが、processorがprogram/code/application/instructionsを実行して、クレームに列挙された機能を実行することがわかるように記述すれば問題ないかと思います。
 
あるいは、processorの語の代わりにcircuit/circuitryを使用してもよいです。
 
a (processing) circuit configured to ...
次は,特許法第 112 条(f)又は改正前特許法第 112 条第 6 段落を適用すると認定されなかった構造的用語の例である:「回路(circuit)」,「戻止め機構(detent mechanism)」,「デジタル検出器(digitaldetector)」,「往復動部材(reciprocating member)」,「コネクター組立体(connectorassembly)」,「穿孔(perforation)」,「密封連結継手(sealingly connected joints)」及び「メガネハンガー部材(eyeglass hanger member)」。
(太字は筆者による) MPEP 2181日本特許庁の翻訳文より