今年の粉飾を把握する【2010年】 | OX理論が測る企業価値

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26年前、資金繰りに特化した財務分析手法が産声をあげた。
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【OX理論】を土台として、企業分析にいそしむALOX社専属ライターのメールマガジン、それに付随するこぼれ話を掲載。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2010.7.30
オックススタンダードメールマガジン 『 S T A N D A R D 』

今年の粉飾を把握する【2010年】  <編集:HNW>
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『偽装と粉飾』


株式会社セイワフード
(東証1部上場の横浜冷凍株式会社100%子会社)が
「台湾産うなぎ蒲焼」を「国産うなぎ蒲焼」として産地を偽装し、
販売していた。

この会社は、2008年12月1日付けで
農林水産大臣が制定する日本農林規格(JAS規格)の
生産情報公表JAS規格を取得している。


生産情報公表JAS制度とは、消費者が生産履歴が明らかな食品を
安心して購入できるように、生産情報が正確に記録・保管・
公表されている生産者に対しJAS(日本農林規格)認証を
行っている制度である。


いつも思うのだが、たとえ法人が素晴らしい規格や認証を得ても、
運用する人間に悪意があれば、偽装や粉飾の抜け道はある。

近年は、不正を未然に防ぐために内部統制制度が整備されたが、
粉飾や偽装が無くなることはない。

それゆえ、製品を仕入れるバイヤー、企業を審査する審査マンは、
“真贋を見抜く鑑定力”を備える必要がある。



それでは、OXメルマガ『 S T A N D A R D 』をお楽しみください。


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今年の粉飾を把握する【2010年】
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オックススタンダード(株)  
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【不適切な会計処理】
6月末の有価証券報告書提出前には、興味深いリリースが多い。
中でも、『不適切な会計処理』(いわゆる粉飾)については、
リリース内容を把握することにより、
自らの企業評価の“眼”を更新するのに効果がある。


とはいえ、あまりにも『不適切な会計処理』に関するリリースが多い。
また、『不適切な会計処理に関するご報告』は膨大なページが
あるケースも多く、通常の業務を行いながら、
全てに目を通すことは難しい。


それゆえ、毎年7月に簡易的ではあるが、
『今年の粉飾を把握する』と題し、レポートします。


<不適切な会計処理~会社及びリリース概要表~>
http://www.ox-standard.co.jp/pdf2/100730_dressing.pdf


〔リリース〕〔市場〕   〔社名〕
2010年06月 東証1部   メルシャン
2010年06月 マザーズ シニアコミュニケーション
2010年05月 マザーズ エフオーアイ
2010年03月 東証1部   エムスリー
2010年02月 ジャスダック アーム電子
2010年02月 東証1部   近畿日本鉄道
2010年01月 東証1部   JVC・ケンウッドホールディングス
2009年12月 東証1部   アイロムホールディングス
2009年12月 東証2部   アジア航測
2009年11月 マザーズ リンク・ワン
2009年11月 ヘラクレス  モジュレ
2009年10月 東証1部   カヤバ工業
2009年10月 東証1部   ミツウロコ
2009年08月 ジャスダック 中央化学
2009年07月 ヘラクレス  CHINTAI




【不適切な会計処理の型】
非常に大雑把な括りだが、2009年7月から2010年6月までの
粉飾は5つのタイプに分けることができる。



<循環取引系>
メルシャンは協力会社との循環取引により利益を水増しした。

モジュレは大型コンピュータ取得に絡めて、
間に入る企業や人物に対して、実施的に金融支援した。

リンク・ワンでは、飲食店経営の実績もない
建設業者にスープカレーのフランチャイズ権
(静岡エリアに限る)を販売したが、3ヶ月後に買い戻した。



<売上前倒系>
アイロムホールディングス、アジア航測、エムスリーは、
検収や役務の提供が完了していない、もしくは証憑が
揃っていないにも関わらず、前倒しで売上計上した。



<費用過小系>
CHINTAI、カヤバ工業、
JVC・ケンウッドホールディングスは費用の先送り、
棚卸資産の過大計上によって、費用を押さえて
利益を水増しした。



<架空売上型>
エフオーアイは、海外の半導体メーカーから
受注するなどして装置を販売したように装い、
売上高を過大に計上した。

約118億円としていた売上高について
「実際は2億円程度だった」であった。
出資ファンドからの出資金をいったん簿外に移した後、
製品を売り回収した金として計上する手口で
売上高を水増ししていた。



<混在系>
ミツウロコ、中央化学、アーム電子、近畿日本鉄道
シニアコミュニケーションは、架空売上と原価の操作によって
利益を水増しした。




【注目すべき“テクニック”】
粉飾を行う会社が最も恐れるのは、“粉飾の露見”である。
そのため、各社が恐るべきテクニックを駆使している。


①費用を仮勘定へ
ミツウロコでは、費用とすべきものを建設仮勘定としていた。
その結果として、利益の水増しがなされた。



②システムの改竄(印刷ボタンの削除)
近畿日本鉄道では、監査の際に会計システムの売掛金と
業務システムの売掛金管理資料の突合を求められた場合は,
システムの改竄をして売掛金の合計表出力のための
印刷キーを画面上削除して、売掛金管理資料の出力は困難である
といった虚偽の回答(隠蔽工作)を行っていた。



③早朝と夜勤の時間を活用
アーム電子では、架空の売上計上をする為のシステムへの入力は、
当該生産管理課長が早朝出勤と夜勤時間で行っていた。



④書類や印の偽造
シニアコミュニケーションでは、自宅のスキャナー等を利用して
取引先担当者印、取引先会社印(角印)及び取引先代表印の
偽造印を用いた有印私文書の偽造した。



⑤なりすまし
シニアコミュニケーションでは、取引先になりすました
不正送金による滞留売掛金入金填補がなされていた。



⑥不正経理による第三者口座への不正送金
シニアコミュニケーションでは、給料やソフトウェアの架空計上
による第三者口座への不正送金がなされた。



⑥郵便ポストの張り込み
シニアコミュニケーションでは、担当公認会計士が
郵便ポストに残高確認状を投函する際これを尾行し、
担当公認会計士が残高確認状を郵便ポストに投函後、
その場から立ち去ったことを確認し、
郵便局の集配係が来るのを近くで待ち伏せ、
集配係が来たところで、
「郵便物投函後に、内容に誤謬があることに気付いたので、
この場で郵便物を回収させて欲しい」旨伝え、
投函された全ての残高確認状を回収していた。




【総括】
14社の『不適切な会計処理に関する報告書』を読んだ。
(エフオーアイのみ報告書を提出する前に倒産)

この中でも、シニアコミュニケーションについては
“別格”と言えるほど、粉飾テクニックが
満載のレポートとなっていた。

上場を目的とした粉飾に始まり、最後は粉飾の発覚を
恐れてMBOを企図している点など、非常に興味深い。

この会社の報告書については、直接ご覧になることを
強くお奨めします。


<シニアコミュニケーション
外部調査委員会による調査報告書のご報告について>
http://www.ox-standard.co.jp/pdf2/100730_sinior.pdf



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【編集後記】

「おもしろき こともなき世に おもしろく」

有名な高杉晋作の辞世の句である。

昔は人物伝を読み、“おもしろき言葉”をメモした。
この句は、高杉晋作の人生を端的に表しており、
印象に残っていた。


出張の際に、車窓から眺める景色を見ながら、
ふと、この句を思い出した。

最近は、念仏のごとく、下記の言葉を唱えている。

「おもしろく」
「おもしろく」
「おもしろく」
「おもしろく」
「おもしろく」

その効果がどうか分からないが、
少しだけ人生が「おもしろくなってきた」。(HNW)


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