親が作成した子供の報告書 - アーム電子 - | OX理論が測る企業価値

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26年前、資金繰りに特化した財務分析手法が産声をあげた。
それは、【あらかん】から【OX理論(アラーム管理システム)】へと進化を遂げた。
【OX理論】を土台として、企業分析にいそしむALOX社専属ライターのメールマガジン、それに付随するこぼれ話を掲載。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2010.8.31
オックススタンダードメールマガジン 『 S T A N D A R D 』

親が作成した子供の報告書 - アーム電子 - <編集:HNW>
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『27%は上場廃止』



2010年7月30日配信メルマガ
『今年の粉飾を把握する(2010年)』にて紹介した
不適切な会計リリース会社15社の内、
その時点で上場廃止していたのは、
エフオーアイ【マザーズ:6253】のみだった。


しかし、8月になってから、
アーム電子【ジャスダック:6671】が倒産し、
シニアコミュニケーション【マザーズ:2463】は、
有価証券報告書等への虚偽記載を理由に上場廃止が決まった。


また、メルシャン【東証1部:2536】は、
親会社であるキリンホールディングスの意向によって、
上場廃止されることが決定した。



15社の内、2社が倒産し、2社が上場廃止となった。
現時点の数値に基づいて、単純に確率を計算すると、下記となる。

・粉飾発覚後、上場廃止となる確率 27%(4÷15)
・粉飾発覚後、倒産する確率  13%(2÷15)




27%の確率で、粉飾企業は市場から締め出される。
ただ、粉飾内容及びその悪質性、業績等を勘案すれば、
エフオーアイ、シニアコミュニケーション、
アーム電子の上場廃止や倒産は、もっと高い確率で
予見が可能と言えるだろう。




粉飾企業がリリースする『調査委員会による報告書』を
読むだけで、「余程のことがない限り、上場廃止決定ほぼ間違いなし」
と判断できるものも少なくない。



それでは、OXメルマガ『 S T A N D A R D 』をお楽しみください。


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親が作成した子供の報告書 - アーム電子 -
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オックススタンダード(株)   
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【報道概要】
2010年8月23日、株式会社アーム電子は、
東京地裁に民事再生法の適用を申請した。

子会社の株式会社ダイヤテックにおいて、
不適切な会計処理が発覚したことで信用が悪化、
自主再建を断念した。



---- 分析情報 ----

【会社概要】
社名        株式会社アーム電子【ジャスダック】
証券コード     6671
業種        プリント基板製造業
従業員数      260名(連結)
所在地       東京都八王子市叶谷町1055
監査法人      九段監査法人(8月31日に辞任)

破綻日       2010年8月23日


【OX理論で分析】
OX格付       B 【19】(2009年5月連結決算)


【分析表1】
http://www.ox-standard.co.jp/pdf2/arm.pdf


【BS・PL・CFグラフ】
http://www.ox-standard.co.jp/pdf2/arm-graph.pdf

---- 終了  ----



【同族企業】
1980年、アーム電子は佐藤雅美氏
(2010年8月31日現在も社長)によって創業した。


創業社長である佐藤氏には、“絶大な力があった”と
言っても差し支えないだろう。


<理由>
・佐藤一族によって、51%超の株を保有
・佐藤一族及びそれに近しい人が経営幹部
・創業社長の佐藤雅美氏がアーム電子と
子会社のダイヤテック、菱光電子工業の社長を兼務



同族企業という“形態”に善悪はない。
超優良企業には、多数の同族企業がある。


しかし、一般的に同族企業のデメリットとして
「一族が会社の中枢を占めており、内部の牽制が働かない
(対立意見を言う人間は会社を去り、YESマンが多くなる)」
と言われている。



【拡大戦略】
アーム電子は、2004年にジャスダックへ上場後、
規模の拡大、設備投資を加速した。


~ 拡大戦略:会社沿革より抜粋 ~
2005年 4月 ダイヤテックをグループ化(3億円)
2005年 5月 東京都八王子市叶谷町に本社工場建設移転(32億円)
2005年 8月 菱光電子工業をグループ化(9億2000万円)


債権者集会における弁護士の発言を踏まえると、
この拡大戦略による資金投下が負担となり、破綻の一因となったようだ。


この当時、拡大戦略を牽制する動きがあったのかどうかは不明だ。
だが、結果として2社の子会社化と設備投資は、失敗であった。
ダイヤテックに至っては、決算書の粉飾が発覚し、
信用不安を招く要因となった。



【不適切な会計処理の“内部”調査委員会】
ダイヤテックの粉飾発覚後、アーム電子は粉飾に関する報告を
リリースした。

<アーム電子のリリース>
『当社連結子会社における不適切な会計処理に関する
調査結果のご報告』
http://www.ox-standard.co.jp/pdf2/arm-report.pdf


報告書には、他にはないユニークな特徴が見られた。


〔ユニークな特徴〕
・“内部”調査委員会
通常、不適切な会計処理に関する調査委員会は、
第三者委員会もしくは外部調査委員会となる。
極力、自社の関係者以外の人物が中心となるのが特徴だ。



2010年7月30日配信メルマガ
『今年の粉飾を把握する(2010年)』にて紹介した
不適切な会計リリース会社15社の内、
“自社の利害関係者のみ”で委員会メンバーを構成していたのは、
アーム電子だけである。
(エフオーアイは報告書を提出する前に倒産したため、報告書なし)



調査委員会のメンバーは下記の通りである。
<アーム電子の調査委員会>
委員長 アーム電子常務取締役    倉内 英樹
委員 アーム電子取締役設計本部長 癸生川 文正
委員 アーム電子内部監査室室長  山本 祐治
委員 アーム電子非常勤社外監査役(公認会計士) 鈴木 秀孝



【総括】
アーム電子では、100%子会社のダイヤテックにおける
粉飾について、アーム電子の役員が調査を行い、報告書を作成した。


アーム電子は、これを“奇異”に感じなかったのだろうか。


例えれば、「親が子供の粉飾を調査して報告書を作成した」
と言える。つまり、この報告書に価値を見出すのは難しい。


普通の感覚があれば“奇異”と感ずるものが、
内部の牽制が効かない会社では、何も意見が言えない空気があるのかもしれない。


または、「外部の委員が入ることによって、“不都合な真実”
露見する可能性がある」と考えたのかもしれない。
それゆえ、敢えて“奇異”な選択をしたのか。

これは穿った見方なのだろうか・・・。



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【編集後記】

「Choice is talent.」

10年以上前、記憶は曖昧だが、
NHKの深夜に放送していた“アクターズ・スタジオ・インタビュー”にて、
ロバート・デ・ニーロが「Choice is talent.」と表現していた。
含蓄のある言葉だと思い、印象に残っている。


つまり、“今”というのは、その時々にチョイスした結果である。
今の不遇を嘆いている人は、
それは自分のチョイスに間違いがあったからである。
一方で、成功を勝ち得た人は、
その時々に最高のチョイスをした。


私は、この表現に合ってから
事あるごとにチョイスを意識するようにしている。


最近は、「猛暑を理由に土日のジョギングをサボる」
というチョイスをした結果、
「若干、ズボンがきつい」という事態を招いてしまった。(HNW)

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