ジャスティン・コーヒー -3ページ目

第四話

2・この世の終わりは昼休みの教室から始まる
 
あの日、タチと二人で見た映画は最高につまらなかった。

 僕は教室でただ一人、頬杖をついて本を読んでいた。
ただし、

教室にいたのが僕一人だけだった

という意味ではない。
教室には、僕以外の人間がうじゃうじゃいた。
いたるところで小さな…時に大きな人の塊ができていて、
「うっそぉ!」
とか
「マジィ!?」
とか
「サイテー!!」
とかいう言葉を、気が振れたみたいな笑い声とともに発していたり、携帯で写真を撮り合ってはきゃーきゃー叫び合っていたり。
僕は後ろの方の窓際の席だったために被害はまぬがれているが、数名の男子は黒板付近でブレイク(どこか体の一部を支点にしてくるくると回る、ダンスのあの技)にチャレンジして失敗し、団子状になって机に突っ込んでいたりと、教室の中はこの世の終わりみたいに騒がしかった。
ただ、その中でおとなしく本を読んでいたのは僕だけだった。
という意味だ。
僕もついさっきまでは、この騒ぎに気付いていなかった。
本を読んでいると熱中しすぎて、周りの音が一切聞こえなくなるのだ。
ではなぜ今、顔を上げてこの教室を見渡し、この有様を目にすることになってしまったのか、という疑問の答えは、僕のこの机の上に散乱している。
いつのまにか僕の机の上には、ちぎられた消しゴムの破片が、無数、転がっていた。
僕は、おそらくこの消しゴムの破片のどれか一つがこめかみに当たったことによって、こちらの現実離れした騒がしさの真っ只中に呼び戻されてしまったのだ。
小説のほうが、よっぽどリアルじゃないか?
僕は前を向き、読みかけのページを手で押えたまま、首をかしげた。
誰がこの消しゴムを僕に投げたんだろう――
なんてことは正直、どうだってよかった。

では何故、僕は首をかしげたのか。

僕が入学したこの学校は、それなりにレベルはまぁまぁの学校のはずだ。
たしかに校則は緩いけど、それは生徒が一人一人、自分自身に責任を持てるという判断の元での緩さなのである。

自主規制

進級してまだ2日目とはいえ…
いや、2日目だからこそ、なぜこんな…
教室が、餌を放り込まれたサル山みたいな惨状になっているんだろう?
その素朴な疑問が、僕の首を約30度という傾きのまま停止させているのだ。
サルはある程度、入学試験で振り落とされているはずだった。
一年のクラスはもっと落ち着いていて、こんなひどい状態じゃなかった。
それにクラス分けは成績ではなく、ランダムに振り分けられているはずなのに…。
僕は純粋に疑問を感じていた。

決して彼らを馬鹿にしているわけではない。
僕の成績だって、誉められたものじゃないどころか、いつだってどん底だ。
僕以外の人間が何らかの作用で、マリファナの成分を含んだ煙でも吸い込んでしまったのだろうか?
ふむ。
そういう理由だったら納得できる。
前を向いたまま首を傾げて考え込んでいると、クラスメイトが一人、こちらに近寄ってくるのが見えた。
彼は僕の机の前で立ち止まると、にっこりと人懐こい笑みを浮かべて僕を見た。

「君、相当にぶいね」
「俺タカダアユムって言うんだけど、友達になってくれない?」


「?」

僕は何も言わずにタカダアユムを見つめ返した。
短くて茶色い髪の所々が、金色に光っている。
右に二つ、左に一つ。
耳たぶには四角いシルバーのピアスがくっついていて、身長は多分、僕よりも少しでかいようだ。
肌は健康的に浅黒い。
いわゆるイケメンの部類だ。
しかし、真っ直ぐ顔を横切る凛々しい眉も、くっきりとした二重の目も、軽薄そうな薄い唇のおかげで随分と軽薄そうに見える。

今、その唇でゆるやかな弧を描いたまま、彼は僕の顔を見つめていた。
形の良い左の手の中で、ちぎれて五分の1くらいの大きさになってしまった消しゴムを転がしている。
教室の絶望的な騒音が、少し小さくなったように感じた。

「…なんのために?」

僕はそう言って、踊る消しゴムを睨みながら、眉をひそめた。

なんなんだ?こいつ。

「なんのためにって…」

タカダアユムは口ごもった。
僕はてっきり、彼がそのまま立ち去るだろうと思った。
どこからどう見たって、僕の態度は彼の申し出を歓迎しているとは思えなかっただろうから。
でも彼は立ち去らずに、僕の前につっ立ったまま、一生懸命言葉を捜しているようだ。

「なんのためにって…いわれてもなぁ」

言葉を捜しているタカダアユムの目と、疑わしげに睨んでいる僕の目が、空中でぶつかった。
僕たちはたぶん、10秒くらい見詰め合っていたと思う。
先に、タカダアユムが目を逸らした。
それでも僕が睨み続けていると、ふいに、タカダアユムは大きな声で笑い出した。

「おっまえ、変な奴!シロそっくり!」


シロ??

僕は一層眉をひそめた。
何かおかしいのか、タカダアユムは体を二つに折って、心底おもしろそうにげらげら笑っている。
でも、彼の笑い声は不思議と不快ではなかった。
むしろ一種の清々しさを持っている。
他の連中の狂気じみた笑い方とは異なった、気持の良いものだ。
彼は不信の色を隠していない僕の態度なんかおかまいなく、ひーひーと苦しそうに息継ぎをしながら呼吸を整えると、今度はものすごい勢いでべらべらと喋り出した。

マシンガン・トーク

ってのはまさにこのことだということを、僕はこのとき初めて知った。

「あーおもしれ!うち猫にそっくりなんだもん!警戒しすぎだっつーの。あ、そか、ごめんごめん、消しゴムぶつけてさ!いやー、なんっか超スカしたやつがいんなーと思って見てたら、そいつがめっちゃカッコよかったからさぁ、無償にスゲー腹たってきて、消しゴムぶつけ始めたんだ。
最初は気付かれないようにやってたけど、いくらやっても全っ然気付かないから、だんだんマジになってきて。
でも、やっと気付いたと思ったら、お前、消しゴムなんか気にしないで、ずーっと正面向いたままぼーっとしてんだもん。
あーなるほどねぇ!これ天然かって思って。
あ、友達になりたい理由はねぇ、俺、女の子が好きだから。
お前カッコイイから、お前といたら女の子寄ってくると思って。
なぁなぁ、お前さ、モテるだろ。
ずるいなぁ!
どうせ、愛想振りまかなくても寄ってくるタイプだろ?
てゆうか、名前教えてよ。
あ、隠しても無駄だよ、どうせ同じクラスなんだから。調べりゃすぐわかんだぜ。」


動きまくるその口に見入っていた僕は、とっさに返事をすることができずに、ただ唖然としていた。
するとまたしても彼はそんな僕の様子を勘違いして、少し口を尖らせると、またぺちゃくちゃとやりだす。

「ねぇ、警戒するにもほどがあるんじゃないの?俺そんな怪しいもんじゃないよ。
もしかしてまだ怒ってんの?
謝ったじゃん頑固だなぁー。
てゆうかむしろ褒めてんでしょ。
称賛してるでしょ。
あ、ウソかと思ってんの?
嘘じゃないよホントに。
ほら見てみなよあそこの女子。
こっちちらちら見てるし。
ほら、あそこも。
あ、あそこもだ!
やっりー!
やっぱ当たりだね!
決定だよ、お前今日から俺の友達な!
な!な!な?だめ?
却下?!
そんなこと言わないでー、お願い!な!な?いや、俺だって十分カッコイイよ?
でもなんっか俺すぐ胡散臭がられるんだよね。
そこで思ったわけ!!
俺には可愛い感じの相棒が必要だなってさ。
俺とお前だったら――」


…なんだっけ?

まるで本当の馬鹿みたいにしゃべりまくるタカダアユムの様子は、微かに昔見た何かに似ている。

なんだっけ?


ぺらぺらと動く唇が、僕の記憶の水面に雫を落とした。


なんだっけ?

第三話

《ピンク》

ビデオ屋からの帰り道、たばこを吸おうとしてポケットを探ると、ライターがなかった。
行きは確かにあったのに、どこかで落としてしまったらしい。
ただライターを無くさずにビデオ屋まで行き、そのままビデオを返して帰ってくるだけのことなのに、それすらできないなんて。
僕はどんなことをするにも、ちいさなミス無しではできないのだ。
そんなミスに気がついたときの癖で、夜道で一人、眉を片方下げて、口の端を上げた笑い顔を作った。
そして何気なく右側を向きかけて、首筋が固まる。
笑い顔は僕の顔からはがれ、乾燥した夜の空気にぽっかりと浮かぶ。
そしていつまでもそこに漂い、歩き去る僕の背中に向かって、しつこくにやにや笑いをし続ける。

僕の右隣。

その定位置に、憩はいない。
何も言わなくたってわかってる。
片眉を上げて口の端をきゅっと上げる共犯めいた微笑を返してくれるはずの、

相棒。片割れ。僕の半身…

“それにしても!”

あの底なし沼にはまっていきそうになった自分に気付いて、僕は慌てて頭を切り替えた。
足を動かして、深呼吸して、無理やり幻影を追い出す。

まぁまぁ上手くいった。
(ポイントは案外、体を動かすことなのかもしれない)
それにしても、どこかでライターを落としてしまったことは確かだ。
落とす以外に無くす理由がないから。
でもどこで?
落とすような行動を取った覚えはない。

まぁいいや。

めんどくさくなって、すぐに考えるのをやめた。

別に惜しい物じゃなかったし。

僕は“S”という飾り文字の彫られた、銀色に光るジッポライターのことをあっさり忘れ、
目の前のコンビニで、100円のライターを買うことにした。

蛍光灯の眩しい店の中に入ると、割と可愛い顔立ちの、しかしかなり派手な雰囲気の女子高生の店員が、ぼんやりとレジに立っていた。
僕は顔をしかめた。

別に、彼女の髪がかなり明るい茶色だったからでも、小さな耳たぶにびっしりとピアスがくっついていたからでも、彼女が
「いらっしゃいませ」
を言わなかったからでもない。

彼女の身を案じたからだ。
だって、そのとき、僕の腕時計は11時40分を指していたのだ。
もちろん夜の。 
こんなに遅い時間に女の子が一人でこんなところにいるという事実に、僕は少し困惑した。
彼女の顔立ちが可愛らしかったから、尚更だ。
でも彼女にとって僕は赤の他人であり、僕にとっても同じことなので、僕がいくら彼女を心配してもそれは意味のないことである。
ただ、ちらっと思っただけだ。
他に買い物もなかったので、僕はすぐ。
店員に向かって言った。

「ライターください」

「何色ですか」

めんどくさそうな態度を、彼女は隠そうともしていなかった。
だってクエスチョンマークすらつけてない。
もし、いやな気分を隠しているつもりでいるなら、彼女の肉体と神経を繋ぐ経路には、何らかの問題があるに違いない。
でも、僕はそんな彼女に対して、反感を抱いたりしない。
なぜなら、僕も彼女に負けず劣らずめんどくさがりな人間だからだ。
でもその面倒臭がりが仇となって、僕は次の言葉で、彼女に大きな不快感を与えてしまう。

「何色でも」

純粋に、色なんてどうでもいいと思っていただけなのに僕がそう答えると、彼女の表情が
“めんどくさい”
から
“この客死ねばいいのに”
に変わった。
本当に一瞬にして、すごく嫌そうな表情に変化したのだ。
理由はわからないけど、僕の返事がお気に召さなかったらしい。
店に入ってからまだ3秒くらいしか断っていないのに、僕は完璧に一人の人間から嫌われてしまったというわけだ。
友達をつくるのは得意じゃないけど、悪気もないのにこんなに早く誰かから嫌われたのは、たぶん初めてなんじゃないだろうか。

新記録

でも全然嬉しくない。
パックの中にきちんと並んでいた色とりどりのライターの青色を、彼女は最初、掴んでいた。
たぶん、
「ライターください」
と言われて、反射的に掴んだのがそれだったのだ。
でも彼女は一応僕に色を尋ねてみて、
「何色でも」
という答えを聞くと、それをわざわざ元の場所に戻して、きれいに並んでいるライターの真ん中あたりからどぎついピンク色のものを抜き出すと、すかさずバーコードを押し付けた。

ピッ、
「105円です。」

それは、誰もが
“うっ”
と思うようなピンク色をしていた。
世の中には数え切れないほどのピンク色が存在していると思うけど、たぶんその中で一番見苦しくて、一番下品なピンク色に違いなかった。
たった105円なのに。
ライターとしてはきちんと機能するだろうに、財布からお金をだすのをためらってしまうほどの色をしている。
でももう遅い。
彼女は僕に色を変える時間も、文句をつける隙もくれなかった。
僕はしぶしぶ、そのライターにお金を払った。

「ありがとうごさいました」

彼女の声は心なしか弾んでいて、ほっぺたは緩み、顔全体に広がる晴れやかな表情からは、ずる賢さがぷんぷん漂っていた。

「あーあ」
店を出てから、僕は思わずため息をついた。
そしてその気色の悪い色のライターでたばこに火をつけ、一口吸い込んで、顔をしかめた。
なんとなく、ライターの下品な成分がたばこに影響を及ぼして、たばこの味が変わってしまったんじゃないかというような気がしたのだ。


「ま。あの青い方だって、褒められた色じゃなかったけどさ。」

僕は憩に触れる部分だけを端折って、タチに話した。
最後に、

「くだらねぇよな」

と付け加えると、それまで真剣に耳を傾けていたタチが、ゆっくりと身を起こした。

「それだけ?」

僕は頷く。

「ふぅん。面白かったよ、結構。」

タチの感覚に疑問を抱きつつ、僕は立ち上がり、鼻を鳴らした。

「ふん、」

「ま、これから見る映画よりはつまらないことを祈るよ」

カップを返却口に戻し、ガラスの扉を押し開ける。
途端に、たばこ臭いもったりとした空気は吹き飛ばされて、少しだけ春のにおいの混じった、冬の空気に包まれた。

「それ」

僕の隣でタチが口を開く。

「それ、嫌がらせで間違いないよ」

思いのほか冷たかった風に震えながら、僕はつぶやいた。

「くだらねぇよな」

まぁ、くだらなくない人間なんていないんだろうな。

たぶん。

第二話

1・プロローグ
 
「恋っていいもんなのかなぁ」


僕らは
いささかボリュームの大きすぎるBGMのかかる喫茶店で向かい合ったソファに座り、コーヒーを飲んでいた。
もちろん、タチの声は僕にちゃんと聞こえていた。
でも僕は眉間に皺を寄せて聞こえないふりを決め込み、知らん顔でたばこに火をつけた。
ハロウ、ハロウ!
ビーチボーイズが歌っている。
店内のむせ返るような暖かさは案外、このBGMのおかげなのかもしれない。
煙を吸い込みながらぼんやりとそんなことを思う。
あの黄ばんだ天井にくっついているエアコンはさっきから絶え間なくガタガタと耳障りな音を発していて、どう考えたって壊れているか、上手く機能していないに違いないから。
僕からの返事がなかったので、タチは黙ってコーヒーを見つめている。
たぶん、僕がわざと聞こえないふりをしているのか、それとも大きすぎるBGMのせいで本当に聞こえていなかったのかを考えているのだろう。

本当に聞こえていなかったのなら、もう一度言うべきだろうか。
しかし、聞こえていて無視したのなら、ちょっとしつこいかな…
もしかして…もしかしてひょっとすると、俺は、何かこいつの心の中にあった地雷を、踏んでしまったのだろうか?
だったら、まずかったかな…怒ってるかもしれない…腹を立てているかも…
いや、考えすぎか…?

こんな感じで、今、タチの頭の中はフル回転してる。(はずだ。)
くだらねぇよなぁ
僕は思う。
でも、タチのそうゆうくだらないところが僕は結構気に入ってたりするから、大した問題ではないけど。
換気口の方に煙を吐き出しながら、横目でもう一度タチを見てみた。
やっぱり真剣にコーヒーを見つめている。アホだ。本当に。
タチのことは放っておくことにして、僕はさっきテーブルに置いたばかりのライターを眺めた。

どぎついピンク色の100円ライター。

ずる賢そうな営業スマイルを浮かべた店員の顔が、ふと目に浮かんだ。
わざとだったよなぁ、アレは。
と思う。
いや、実際にわざとだったんだ。
一人でにやついていると、コーヒーを見つめているはずのタチが、僕の思考に割り込んできた。

「なにが?」

「え?」

「いや、だから、わざとって?」

僕は少しあっけにとられてタチを見た。
まさかこいつ俺の心を読んだんじゃないだろうな…
と、
馬鹿馬鹿しいことを考えかけて、自己嫌悪に陥る。
またか。
なんのことはない。
僕だって十分くだらない人間なのだ。

僕は普段から、少しぼうっとしすぎることがある。
そんなとき、無意識のうちに思っていることを口に出していることがあるのだそうだ。

(憩によく言われていた言葉を借りれば、僕は
「油断しすぎている」
らしい。)

そんな調子だから、僕はものすごく口が軽い。
普通に会話していてもぼんやりしていることがあるので、つい口が滑って、しょっちゅう、言ってはいけないことを言ってしまう。
だから、僕に秘密を打ち明けることはお勧めしない。
(でも大抵、秘密を打ち明ける人間はその秘密をみんなに知ってほしがっている。と僕は思うけど)
知られたくないなら言わなきゃいいんだ。

話を進める。

「ああ、これ。」

僕はどぎついピンク色のライターを指差した。
「近所のコンビニで買ったんだ。すごい色だろ?店員の嫌がらせなんだ。これ。俺が色は何でもいいって言ったから…」

「色?何で?」

「そこのコンビニ、ライターがレジの向こうに置いてあるからさ、店員がいちいち何色がいいかって――…

「何でレジの中に置くんだ?」

「え?ほら、あれだろ?未成年対策みたいな――」

「何で?お前買えてるじゃん」

何なの?こいつ。
僕はため息をついた。
いつもいつも。
タチは人の話の腰を折るのが得意なのだ。
それはもう容赦なく、ばきばきと折っていく。
ま、本人に自覚はないし、悪気はないんだけど。

「見えたんじゃないの?ハタチ以上に」

めんどくさくなって僕がそう言うと、タチはまた、すかさず噛み付いてきた。

「見えないよ」

その真剣な表情を見て、僕は少し腹が立ってきた。
だから少し、僕はぞんざいな口調になってしまったかもしれないけど、悪気はない。

「しらねぇよそんなの」

刺々しく響いた僕の声に、タチははっと身構える。
気が弱いのだ。
だったらもう少し巧く立ち回ればいいのに。
びくついた表情で僕の顔色をうかがっているタチを見ていると、僕はだんだん気の毒になってきた。
とことん不器用で、馬鹿なやつ。
でも、要領よくってのができないのがこいつなのだ。

「適当なんだろ、そうゆうとこ。形だけなんだよ」

僕が言ってやると、タチはようやく納得したように、用心深く頷いた。
気が弱いくせに、頑固だから手に負えない。

本当はいつも、折れてやってるのは俺のほうなんだぞ!

と肩を揺さぶりながら怒鳴ってやりたい。
僕はため息をついて、短くなったたばこをくわえた。
フィルターぎりぎりまで吸う。
なにせ、金が無いから。

「で?」

「何がわざとだったの?」

店の壁に掛かっている時計は5時40分を指している。
映画が始めるのは6時20分。
時間を潰すにはちょうどいいので、僕はところどころ端折って、先日、コンビニ店員から受けた、嫌がらせの話をすることにした。