どうも( ^_^)/
オーロラは『水曜どうでしょう』の影響で「見られないもの」というイメージがある者です。
バンプの四人は見られたらしいです。ちゃんとリサーチしてスケジュール通りにやってれば見られるんですね。
BUMP OF CHICKEN
aurora arc
01.aurora arc
真っ黒な空に、赤、青、緑の光が、風にそよぐカーテンのように揺れる。オーロラを見たことは無いですが、そんな光景が思い浮かぶイントロダクションからアルバムは始まります。
この曲と“ジャングルジム”以外、ほとんどの楽曲が何らかの形で表舞台に出ているという、近年のバンプの勢いがそのまま現れたような作品になった『aurora arc』の名を冠したインスト曲が、14曲の旅隠しトラックのパヤパパを入れて15曲に連れて行ってくれます。
02.月虹
アコギを基調に、アラビアンなスケールを使ったエキゾチックな楽曲です。
演奏としても、とてもレベルの高いことをいろいろやっている曲ですが、歌詞はそれ以上に難解で、多層的です。
主題歌になった『からくりサーカス』は、何世代にも渡って紡がれた大河的な作品で、その壮大な世界観を一曲4分47秒に詰め込んだ結果、あと少しでブラックホールができてしまいそうな密度になっています。
とりあえずタイアップ先は観なかったことにして(コラコラ)、バンドの楽曲として歌詞を読んでいくと、『舞台の上に立つ覚悟』が歌われているのではないかと解釈しました。
≪世界が時計以外の音を失くしたよ≫と、何の音楽も生まれない静寂の中に≪あなたひとりの呼吸≫を見つけたと歌う。「音楽だけじゃダメなんだ、あなたが必要なんだ」と歌ってくれているように聴こえます。
月虹は実際にある自然現象で、夜に虹は本来見えませんが、月の光が放つプリズムが、七色のグラデーションを映してくれることもあるそうです。
暗闇の中で虹を探し当てたように、見つけてくれたこと、見つけられたことを祝福する歌です。
03.Aurora
“虹を待つ人”、“ray”、“butterfly”、それらの系譜にある現在地です。これまではEDMチックでダンサブルな曲も、その中心には土着の音、アコギや生ドラムがありましたが、今回はエレキのリフとシンセのフレーズが前面に出ていて、アコギは適宜鳴らされる場所に配置されています。
これはただバンドサウンドから離れたのではなくて、バンドの強靭なアンサンブルを芯から信用しているからこそ出せるミキシングだと思います。いわゆる、守破離の破とも言えるかもしれません。
歌詞は、“ray”や“butterfly”と同じく、強く哀しみを歌っています。
≪溜息にもなれなかった≫思い、≪ああ、なぜ、どうしてと繰り返して≫きた煩悶の日々、痛み、孤独、寂しさ、辛さ、そういう類のあれこれを真正面から受け止める歌です。
ドームライブの一発目はこの歌でしたね。音が本当に素晴らしく美しかったです。
04.記念撮影
浮遊感のある宇宙的なサウンドに、ノスタルジックな歌詞を載せた歌です。コードの内声を少し持ち上げたアルペジオが美しいです。
予感していた通りに終わってしまった眩しく美しい魔法のような時間を、一枚の写真を眺めながら振り返る“天体観測”にも似た構成で、良きにせよ悪きにせよ「あんなことやこんなことがあったよな」と呟くように歌いながらじわじわと盛り上がっていく曲になっています。
どんな今であっても、笑い合って喋り合って、そして黙り合ってきた過去から地続きの未来なんだと歌うことで何よりも現在を肯定してくれる歌だと思いました。
これは予言、というより願望なんですが、この曲をテーマにした映画とかドラマとか、そういうものがいつか作られるんじゃないかなと思ってます。というか、観たいだけなんですが。
05.ジャングルジム
語りかけるようなのは歌だけではなくギターもです。バンドを入れてしまうとこの繊細さは失われてしまうでしょう。藤原基央のアコギが上手過ぎるせいです。一人でメロディやコードだけでなくベースもドラムも再現できてしまうせいです。
ちょっとマニアックに書くと、この人のアコギストロークは音が逃げないです。なんとなくジャラ~ンと鳴らしてしまうと高音弦の音が消えてしまうんですが、藤原アコギはぜんぶの音が均一に一塊になってマイクに集音されます。六弦ではなく、一つの太い弦から六つの音色が出ているイメージです。
≪欠けた月の黒いところ≫が見つめている。そんな「誰も見ていない場所が僕を見つめている」原体験を歌う曲の中で、一番盛り上がるのが、電車の中で名前も事情も知らない隣の人が泣きだしたらつられて泣いちゃうだろうなぁっていう例え話の部分なのが面白いです。
面白くないですか?いや、きっとこの感想も、半月の光ってない半分みたいな人には届いてるはずです。
06.リボン
『嵐の中』『ガラス玉一つ』『手作りの地図』『宇宙』『野良猫』
バンド20周年イヤーを飾る曲に、こういった“らしい”ワードを散りばめた、「わけではない」という話はよく分かります。
本人たちも語っているように、BUMP OF CHICKENが歌っていることは、けっこう「相変わらず」なことばかりで、ある意味ではそういう“しつこい”メッセージの総決算でもあると思います。
月明かりを浴びて夜道をテクテク歩いて行くようなアルペジオが、歌とバンドを引き連れ、さながら音楽隊のように連なっていく。
そして、半音上げの転調で一気に解放に向かいます。ただ曲を盛り上げたいだけの転調ではなくて、楽曲の物語として意味のある展開です。
そこからまた、半音下がってもとのキーに戻っていくのが憎いところです。20周年でたくさんお祝いをしたけど、歩みは変えず、良い音楽をやり続けていくよ、と、そう言っているように聴こえます。
07.シリウス
このあたりの曲はすでに書いていますがまだまだ書きたいので自重はしません。
改めてじっくり聴いてみると、このベースの暴れぷりったらないですね。
イントロからメロ、サビのたびに転調する複雑な構成で、ギターが非常に技巧的なことをある種、強いられている楽曲の中で、ここまでベースを動かそうなんて考えるのはチャマさんらしいなと思いながら、なかなか野心的で求道的です。
ハイスピードチューンだからといって、ベースは大人しくルートをなぞっているなんてつまらない。何かしら音楽的に面白いことをやってやろうって意識が見られます。
記憶は後ろから削れてく 拾ったものも砂になって落ちる
指先で触れた 消えない灯火 約束をしただろう 遥かな どこか いつか
ここではないどこかへ、≪欲張りの動物≫である自分を向かわせ、何かを得ようとする旅を描いたストーリーだと思うんですが、引用した歌詞のように、失っていく時間の中で消えないものが一つだけある、というのが本来のテーマなのかもしれません。
旅の終わりは≪ただいま おかえり≫嵐のように目まぐるしく展開する楽曲だからこそ、最後を締めるこの歌詞の安心感が増します。
08.アリア
讃美歌のようなシンセサウンド、とても速いBPMに負けない粒だったギターとベースのピッキングが印象的なイントロです。そして、真夜中を滑る流星のような全音符のシンセがずっと鳴り続く新境地を見せてくれます。
“グッドラック”で歌われたような、出会うからこそ訪れる必然的な別れの歌です。
≪ざわめきに飲まれ≫るような、≪些細なため息≫でしか表せない、言葉にはできない思いを抱えて別離のときを迎えた二人の歌だと思われます。
笑うから鏡のように涙がこぼれたよ
この歌詞が最高です。表面的な笑顔ではなく、その表情の奥のさらに奥にある涙に気付ける関係を結んできたことがよく表れています。
09.話がしたいよ
上の記事では、キーが特徴的と書きましたが、その後“Aurora”でも使われ、このB♭というキーを使うモードに入ったと解釈するほうがいいようです。
ピアノとギターがほぼユニゾンで進行して、そこからバンドサウンドよりさきにストリングスが入ってくる構成です。ステージで言えば、ずっと藤くんが一人で演奏して歌ってて、サビに入ったらようやく三人が動き出す。
この、「一回目のサビまでは一人で歌ってる」がこの曲には必要なストーリーだったのでしょう。
あと、バンプのバラードとしては割と短いです。いわゆる二回目のサビの後に間奏とCメロがなくて、そのまま大サビに突入するので、四分を切るようなハイテンポの曲に比べてもあっという間に終わったような感じがします。
≪バスが来るまでの間のおまけみたいな時間≫の話ですからね。長々と歌っていてもダレてしまいますよね。
10.アンサー
実は、この曲のイントロの拍子をまだ掴めてないんです。どこかで拍がひっくり返ってるんですが、聴感上気にならないようなアレンジがされているのでいつもサラッと聞き流してしまいます。
別れの歌が多い中で、とても人生を色づかせるほどの出逢いに恵まれた喜びをストレートに歌った曲、なんですが、それなのに何故か哀しみの成分が節々に潜んでいます。
なぜかといえば、
失くしたくないものを 見つけたんだって気付いたら
こんなに嬉しくなって こんなに怖くなるなんて
優しさに出会えたら、それを守り続ける日々を送る強さが必要なんだ、ということを切々と歌うからだと思います。
この世には人生に厳しさを求めて、その腕に抱いた優しいものを敢えて手放しちゃう人もいるんですが、少なくともこの歌には、そんな寂しいばかりの強さは歌われていません。
11.望遠のマーチ
マーチというにはなかなかのBPMです。イントロのギターがリズムを大きくとってますが、230くらいはあります。
ズンズン歩くよりかは、自転車でビュンビュンしてる絵の方が想像しやすい曲調です。
皆集まって 全員ひとりぼっち
これはバンプのライブを凝縮したフレーズです。一つにはなれない代わりに、一人一人のまま一緒にいようよって感じの、あの空間を言い当てたひとことです。
な に を い お う と した の
ド#ド#ド#ド#ド#ド#シシド#ド#
そのめ の お く に な にをかく し た の
シシ ド#ド#ド#ド#ド#ド#シシシシソ#ソ# ファ#
歌い出しのメロディはあまり動きませんが、≪隠したの≫の下がり方がブルースです。キラキラさせつつ、歌メロは渋い。
コードでは、要所で七度♭(今回のキーで言うとA)が使われ、それもブルージー。ギターが雨だれにむせび泣くコード進行です。またサビの《いこうよ》のフェイクと共に響くギターフレーズも浮つかず、藤原基央印です。
曲をいろいろ分析しながらこれはもう“望遠のブルース”か“ガラスのマーチ”でも良かったんじゃないかと思いました。
最後の「ヘイ!」という掛け声は、普通の一般的なJポップだったらリフレインさせたいところですが、一回だけです。「行こうぜ」の返事は一回で十分だからでしょう。ライブではタイミングを外さずに応答したいものです。ヘイ!
12.Spica
“シリウス”とは様々なところで対になった楽曲として紹介しましたが、アルバムでこの位置に置かれると、より曲単体の魅力を語りたくなります。
バンプとしては珍しい音色のシンセがたくさん使われているので変化球かと思いきや、とてもゴスペルチックでフォーキーで、アコギ一本で表現できるシンプルな楽曲だと分かってきます。
キーは恐らくG♭で、スノースマイルやプラネタリウムと一緒です。鉄板ですね。半音下げのアコギで弾けば、とても楽に弾けてしまうと思います。
手を取ったとき その繋ぎ目が僕の世界の真ん中になった
どこからだって 帰ってこられる
いってきます
大切なものと出会って、手を繋いだから、いつでも離せて出かけられる。帰る場所があって温もりを得られる柔らかな感触があることの尊さを歌った讃美歌です。
「ただいま」を言ってくれる声がなければ、「いってきます」も言えない。
13.新世界
BUMP OF CHICKENと松本理恵監督の長編アニメ映画が観たいです。そんなんなったら四回観に行きます。
本邦一のアラフォーバンドがティーンズポップのようなキラキララブソングに挑戦、というだけでもニュースになった今作一のキワモノです。これがバンプの新しい世界なようです。
ハズレくじばかりでも君といる僕が一等賞
このあたりは、いつもなら隠しトラックで、増川さんがもっさりとしたボーカルで歌っているような歌詞です。
しかし、
もう一度眠ったら 起きられないかも
今が輝くのは きっと そういう仕掛け
刺すべきラインはキチンと突いてくる。
いつの日か 抜け殻になったら待ち合わせしようよ
といっても、天国まで一緒なんて約束は、神様でも保証できない。
泡のように柔く、簡単に壊れてしまう世界で、どうにか出会えた幸運を、今ここで使い果たしておきたいって健やかな欲望が現れた、バンプ新境地のラブソングでした。
14.流れ星の正体
誰かの宇宙が、誰かの宇宙へ流した想い。二人の間だけで交わし合った言葉を超えた言葉、歌だけじゃないもっと深い何かが、流れ星の正体。
そんなロマンチックな楽曲で、アルバムは終わります。
藤原基央の、そしてBUMP OF CHICKENの私信といってもいい歌です。
“ディアマン”について語ったインタビューで「僕は歌う人でも聴く人でもなく、思いを繋げるスピーカーになりたい」みたいに語っていたことを思い出しました。
太陽が忘れた路地裏に 心を殺した教室の窓に
逃げ込んだ毛布の内側に 全ての力で輝け流れ星
想いはすべて、曲に託した。バンドはその言葉の流れ星を、ただ鳴らし、響かせて、届かせるスピーカーです。
CDの歌詞カードは、ジャケットのオーロラを撮りに行ったカナダの空港(恐らく)から飛び立つ飛行機に向かう四人の写真で終わっています。
鳴らすべき人のいる場所へ帰ってきてくれる、そんな一枚です。
おかえり。