絶望の火が、集積し、発散する~垣根涼介/ヒートアイランド | ライブハウスの最後尾より

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どうも( ^_^)/


タバコは吸いませんが煙草の匂いは好きな者です。


なんでタバコと煙草で別々に一発変換されたのかが謎ですが、俺が中学生の頃から何度も読み直している大好きな煙ったい小説の話をします。


垣根涼介/ヒートアイランド





まず、作者の垣根涼介さんについて。


『午前三時のルースター』という、これもまた相当味わい深い佳作でデビューしたミステリー/ハードボイルド系の小説家です。


最近は、もう少しライトなものも増えていますが、初期はクルマ(“車”ではなくクルマ)と銃火器とストイックな生き方を愛する硬派な作風でした。


『ヒートアイランド』は、文庫本で解説を書かれている大沢在昌さんをして「大藪晴彦の後継者」とまでいわしめる作家の二作目。なので、かなり熱いです。


主人公は、渋谷のストリートギャング“雅”のヘッドであるアキとカオル。そして、ヤクザ相手専門の強盗団である柿沢と桃井の四人。


柿沢たちが盗んだ金を“雅”のメンバーがちょっとしたことから盗み出してしまったことで、ヤクザも巻き込んだ三つ巴の争いに発展していく物語です。


この主人公たちの造形が素晴らしい。


ストリートギャングときいて、なんだチーマー小説かと思われるのは嫌です。ただの粗暴なチンピラ小説ではありません。


アキとカオルはそれぞれの武器―――アキは腕っぷしとアウトロー特有の嗅覚、カオルは明晰な頭脳で非合法ギリギリのファイトパーティを開き、ちょっとした興行主も目ではない額の金を稼ぎ出すチームのリーダーたち。


柿沢と桃井も、天才的な犯罪センスとメカニックの技術でヤバい連中から表に出せない金を奪い取る命知らずな連中です。


なにしろ、彼らはかっこいい。


そのカッコよさの根底を探ると、“絶望”という言葉に行きつきます。垣根涼介さんの小説に多く見られるテーマでありますが、登場人物が必ずといっていいほど絶望を抱えている。


それも―――また大沢在昌さんの解説の文章をお借りしますが―――「分かりやすく不幸漬けになっていない」絶望です。


親兄弟や恋人、親友が死んだわけではないし、病気や障害を抱えているわけでもない。でも、丹念に主人公たちの人格を掘り下げることで、彼らの絶望を浮き彫りにしています。


彼らは『社会や家族といった、当たり前に存在するシステムがどうしようもなく吐き出すエラー』の犠牲者であり、それに対して被害者ぶるようなことはせず、淡々とそれを受け止め、アウトローな存在として生きていく生粋のファイターです。


社会の枠内にいることに納得せず、さらにはストイックに自らを鍛え上げ、この世界をサバイブする。しかし、同時に世界に対して深く絶望している。


最初に、熱い小説だと書きましたが、彼らの内面や振る舞いはクールです。どうしようもない諦観と、やりきれない鬱屈と、分かりやすくないが故に癒されることのない絶望を抱えた男たちの“冷たい熱”がぶつかり、一気に燃え上がる。


ラストはまるでノワール映画のようで、彼らの火が絶望を残したまますっと消えていくようです。