楕円球空間 -18ページ目

Nuovo Cinema Paradiso

名作中の名作、らしいんだけど初めて見た。

 

見終わった感想としては、「巷間言われている映画へのオマージュとかじゃ全然ないじゃん!」。そういうコメントしてた連中は何を見てたのか・・?入試の国語の問題であったら全員「☓」である。

 

これって要するにBildungs Romanだよね!?父性を感じるチャンスに乏しい少年がメンターに恵まれて成長する、という。映画や美少女は小道具なわけで(って美少女は美少女過ぎて射抜かれたけど・・・。Agnese Nanoって人なのね)。モリコーネの音楽も素晴らしいけど。

 

てなわけでいい映画でした。見たのは劇場版で、ネットで完全版のあらすじも確認したけど、完全版はダメだろ・・・。

照ノ富士

このブログで相撲がネタになるのは恐らく初めてである。

 

子供の頃は相撲で漢字を覚えたクチなので(鷲羽山、とか。鷲の字がやたらでかくなるやつ)相撲は結構好きだったんだが、若貴くらいから離れていって、八百長だ暴力だと(まぁこれは「ヤバい経済学」で統計的に間違いなくあることは指摘済みだったけど)後ろ向きの話題も多いのと、朝青龍が大嫌いだったのですっかり離れていた。ただ一方最近はNHKの「どすこい研」がやたら面白いので、やや興味を戻しつつあるところに照ノ富士だ。

 

照ノ富士はもともと大嫌いな関取で、最初に大関に上がったころの「にたらぁ〜」とした品のない笑い方と、同様に品のない取り口が本当に嫌いで、大怪我して消えたことに喝采したくらい。だったんだが、怪我が治って戻ってきたら、まず顔立ちが変わっていてびっくり。「にたらぁ〜」として笑いが消え、凛々しくなってる。取り口も強引さが消えて、ある意味横綱相撲。インタビューの内容も自らを厳しく律する姿勢が全面に出て、一気にファンになったのが三役に上がる前くらい。

 

今回も不甲斐ない日本人大関と衰え著しい横綱ばっかりなので応援していた。優勝してよかったね!いよいよ横綱か。優勝インタビューでの「一日一日全力を尽くした、と言える日々を送って前に進みたい」というコメントがよかったなぁ。応援してます。

「冬の旅」と「資本論」

イアン・ボストリッジと言えば、名テノールにして「中世ヨーロッパの魔術の研究」でケンブリッジから博士号を貰った俊英。正式に歌を習ったことはないようなんだけど、まぁ歌の世界は100m競争並に才能で決まるから、こういう人が出てくる。

 

で、そのボストリッジが書いた「シューベルトの冬の旅」を読んだら、これが数年に1冊というレベルの素晴らしい本で、「あぁこんな本に出会えて幸せだ」という読後感に浸れた。アンスネスと録音した「冬の旅」のCDを聴きながら読むと更に◎。「冬の旅」の解説本ではあるんだが、凡庸な楽曲解説やオタクな楽理の解説では全くなくて、むしろ作曲当時の文化論をベースにして、一方でボストリッジの個人的体験なども様々に挿入されて、秀逸である。ぜひ読むべし、must read。

 

次に読んだのは21世紀日本最大のマルクス主義者・白井聡の「武器としての資本論」。白井は「永続敗戦論」が素晴らしくて、それ以降注目している。最近さらに先鋭化して、まぁツイッターで松任谷由実をこき下ろして話題になったりいろいろやってくれているんだが、資本論の解説書としてバカ売れ、という話を聞いて読んでみた。「資本論」は分厚い(分厚すぎる)し難しいし、原典読む気にはとてもならないので手を出すのは解説本だけなんだが、これは白井流解釈とはいえ、なかなかに面白い。「日本人はもっと精神的にも物質的にも豊かになりたいと主張すべきだ」という点に共感。過度の競争に苦しんで貧乏に耐えてまずい飯食って何が楽しいのか、という気が自分もしているので、こういう視点って大事じゃないのかな。「共産主義」と「マルクス主義」の違いをもっと敷衍させたほうがいいのかもね。

グダグダ「薔薇の騎士」

言わずもがな、の、人類の宝・畢生の名作である「薔薇の騎士」。

 

ホフマンスタールが練り込んだセリフは本当に味わい深くて、シュトラウスの官能そのものの音楽とベストマッチ(実は3幕はほとんどシュトラウスが先に音楽を作ってしまってホフマンスタールはそれにセリフをつけるという制約がかかってしまい、ご本人は不満タラタラで危うく合作が止まるところだったらしいが)。極私的ベストオペラ5に必ず入るわけで、

 

・オテロ

・薔薇の騎士

・ドン・ジョヴァンニ

・トリスタンとイゾルデ

・あと1つ

 

となる。ちなみにあと1つは難しくて、サロメかマイスタージンガーか指輪(4つまとめ買い)かリゴレットか椿姫かファルスタッフかトスカか・・・、まぁ気分による。薔薇の騎士はこれまで記録によると

 

・ウィーン国立歌劇場(2回)

・バイエルン国立歌劇場(2回)

・シュトットガルト州立歌劇場

 

と5回聴いていて、アイーダ(!)と並んだ最多視聴オペラ。

 

すっかり脱線したけど、BSでベルリン国立歌劇場の「薔薇の騎士」をやっていたので録画して視聴。2020年2月のライヴなのでコロナが密やかに世界に浸潤していった最中だ。元帥夫人のニールンド、オックス男爵のグロイスベックは相当な好演。ニールンドはこういう上品な役が合っている。グロイスベックは最初「こんなカッコいいオックスはハズレだろ!」と思ったが、見終わったことにはむしろ彼の芸達者ぶりにすっかり魅了されて、これからのオックス男爵は彼でいい!と思ったくらい。オクタヴィアンのミシェル・ロジェ、ゾフィーのナディーン・シエラはどちらも知らない人だったけど、ロジェはルックス的にズボン役に合っているし、シエラは自由奔放なお金持ちの町人娘にこれまた雰囲気が合っていて、なかなか。演出はまぁ深みはないけど邪魔もしない、音楽の障害にならない演出でそういう意味ではいい演出。

 

ここまで書くとさぞ満足度が高いんだろう、と思われると思うが、とにかくこれら全部をぶち壊しにしてくれるのが指揮のメータ・・。とにかくテンポが遅くて、遅いだけならまだしも音楽が重くて、輝くような立ち上がるものもなく、もうこんなグダグダ演奏をするくらいならメトロノームでも指揮台に置いておいてオートパイロットのほうがまだマシ、という感じ。まぁかなり体調も悪いようだし(足がとにかく細くなって袖から指揮台に上がるまでもヨチヨチ歩きで大変そう)、4時間振るのだけで偉大なんだろうが、そろそろ引退なさったらどうでしょうかね?

「レクイエム」と「シモン・ボッカネグラ」

前者は1971年?のカラヤン指揮・スカラ座。後者は昨年末のチューリヒ(F・ルイージ指揮)。

 

いやぁヴェルディって偉大だね。レクイエム、あんまりちゃんと聴き通したことないけど、やはり名曲。あとメンバーが若い!痩せたパヴァロッティ、まだ目を閉じずに指揮するカラヤン、白髪でないギャウロフ・・・・。時は過ぎ去るね・・(全員鬼籍か・・)。

 

チューリヒの「シモン・・」は、コロナ禍の関係でオケは別のところで演奏し、歌手だけ歌劇場にいる、という変則公演(観客もいない)。いろいろ技術的に大変であることは容易に想像できるが、なかなかの好演だった。曲もいいしなぁ。隠れた名作だよね、シモンって。拍手がないのが寂しい。ワクチン待望!

或る辞職

「陰謀の日本中世史」で好感もった著者が、ネット上の発言が理由で御用放送局の看板番組の時代考証役を辞職することになったみたい。

 

ネット上の発言の詳細ははっきり知っているわけじゃないけど、巷間言われるような内容ならそれ自体は問題。一方で、それと時代考証役って関係あるの?もうすぐ中止になる運動会の運営委員長も同様の発言で辞職した、と理解してるけど、あれは運動会の運営に関する直接的発言なんで、そりゃ辞職しないと収まらないと思うけど、女性研究者への誹謗と時代考証って関係あるのかな?

 

まぁネットで実名晒して辛口をオーバーする発言をしちゃうのはちょっと脇が甘いかな、とは思うけどね(他にもビーンボールまがいの発言がネットであるみたいだけど、一面の真実を突いている部分もあって、溜飲が下がる思いをする人もいるんだろうな、とは思う)。

「ザリガニの鳴くところ」

ディーリア・オーエンス著。2019年のアメリカで一番売れた本、らしい。500万部?某紙書評欄でも評価が高かったので、「すべての見えない光」的なものを期待して読了したんだけど・・・。

 

まぁ売れるのはわからないじゃない。南部の湿地で極貧崩壊家庭に育った女性が自力で未来を切り拓くBildungs Roman的な要素にちょっとミステリー風味をふりかけた感じ。なんだけど、著者の動物学者としてのキャリアを活かした自然描写はたしかに美しいものの、Buildungs Romanとしては設定がちょっと特殊すぎて(まぁDie Zauberbergも特殊といえば特殊だから、特殊だから駄目ってわけでもないんだが)、まぁシューベルトの冬の旅的な絶対孤独・絶対孤立なものと言えなくもないけど、なんとなくストーリーにのめり込みきれないところに、ミステリーの部分はなんだかご都合主義って感じもしないではなく・・・。まぁ「早く先を読みたい」という感じは持てて読了できたので駄作ってわけでもないけど・・・、と歯切れの悪い感想に終始してしまう。

 

まぁ75点〜79点って感じ?

 

 

「忠誠と反逆」

丸山真男著。

 

尊敬する姜尚中先生が某コラムで書いておられて「所属する集団(国でも組織でもなんでも)への愛と忠誠心故に、誤った姿を正すべく反逆するということがありえる(論理的に妥当である)」ことを考察した論文、ということを知って購読。

 

実は丸山真男は初めてで、いつか挑戦しようと思っていたわけだが、なんというか博覧強記が炸裂する書きぶりに圧倒された。あと、古文大嫌い(1分も勉強せずに大学受験に突入)のワタシには引用文献が辛いなぁ。まぁとにかくエッセンスは正しく理解できた、というくらいには咀嚼できた。他の丸山論文ももう少し挑戦してみようかな、とは思うが、しばらく間隔は空けたい。あ、でその論考の対象の事案については、これって私のことだよね、というところで腑に落ちた。

「さまよえるオランダ人」

フィレンツェ5月際音楽祭(2019年1月)でのライヴ。BSで放送されたのを視聴。

 

指揮がルイージ、演出はポール・カラン(知らない人)。歌手も知らない人ばっかりだったので気楽に見始めたが、演奏はまぁ普通のレベルだけど演出は舞台がキレイでまずまず楽しめた。ただゼンタ役が巨軀で、それがちょっと・・・。オランダ人は頬が痩けて顔色が真っ青で本当に幽霊船の船長みたいにうまくメイクしていた(もともとげっそりした人なの?)。

 

オランダ人、は大学1回生のときの学生オケデビュー曲だったので、ワーグナーのオペラの中ではレベルが落ちると思うものの、いろいろな意味で普通の気持ちで聴けない。2nd Vnだったから旋律なんて全くない(まぁワーグナーの曲なんで1stだってどれくらい旋律があるか怪しいもんだが)ので、譜面だけ見てるとどんな曲なんだかさっぱりわからなかった。効果音みたいなパートっていうか・・・。

 

実演に接したのは1回だけで、2007年の5月にミュンヘンで聴いた。コンヴィチュニーの演出だったのでタダではすむまいと思って臨んだが、まぁこれが凄かった(苦笑)。詳細は

 

 

 

に書いたが、もはやあらゆるメディアでオランダ人を聴くたびにこれを思い出すんだから、圧倒的破壊力のある演出だった、ってことだね。

「チョンキンマンションのボスは知っている」

小川さやか著。

 

京大アジア・アフリカ研を出た文化人類学者の著者が、香港の有名な(らしい)安宿を根城にするタンザニア人不法滞在者を調査対象にして、彼らが異国でいかにビジネスを行い、行うだけじゃなくて相互扶助のシステムを構築して、タフに生き抜いているか、を調査した結果をまとめた本。

 

社会学に興味があって、その手の本の好きな自分にはなかなかソソられる内容で、某A紙書評欄で好評だったので読んでみた。学者が書いているので、得てして、最初の数章だけ力が入っていてあとはグズグズ、というライター作の本と違って論考や調査が多角的で、全体を通して彼らのユニークで緩やかで、それ故に弾力性と懐が深いシステムがよく理解できる。日本を含めた近代先進国家にはない、貸し借りを明確化せず他人を信頼もし過ぎない、面白い社会システムで、昨今の息の詰まるような「現代社会」に辟易気味の人には興味を持って知ることができる内容だと思う。僕には面白かった。