匝文俳句(そうぶんはいく)も最終段階になりました。ボールペンを横銜え(よこぐわえ)に原稿用紙をトントンとそろえているところです。匝文は回文と異なることがおわかりのことと思いますが老生も初めてのことで随分苦しみました。二度とヤルつもりはありません。
最後は涙にむせびながらやったのでシッチャカメッチャカになりました。泣いてまた消す湖畔のたより、です。ではどうぞ。
○きりぎりす/ヴぃおろんのいと/はしほどよ
螽蟖/樋の迂路1/V/美し火床よ
夜どほしは/ヸオロンの糸/擦切りき
螽蟖(きりぎりす):チョンギースと鳴く代表的な秋の虫。
1/V(イヴ):ヴイを回文的に逆読みした。イヴは聖書で最初に言及される女性であり、彼女にイヴと名付けたのは人間アダムである。イヴはアダムとともにエデンの園に住んでいたが追放された。と物の本にあった。ここでは現代詩に倣って記号的表現にしました。「V」は、ローマ数字では5に当たる。
火床(ほど):囲炉裏の中心。かまど。
ヸオロンの糸:バイオリンの絃。「ヸ」という字は上田敏の時代から現代にいたるまで提案にとどまり実現していないし実現しそうにない。面白いですね。
ヴェルレーヌの詩から。ヴェルレーヌは、フランスの抒情詩人。象徴派の始祖。
———落葉(らくえふ)原題は、"Chanson d'automne"「秋の歌」。ボードレールの「秋の歌」を意識しているとされる。
ヴェルレーヌ「落葉」(上田敏訳)
秋の日の
ヸオロンの
ためいきの
身にしみて
ひたぶるに
うら悲し。
鐘のおとに
胸ふたぎ
色かへて
涙ぐむ
過ぎし日の
おもひでや。
げにわれは
うらぶれて
こゝかしこ
さだめなく
とび散らふ
落葉(おちば)かな。
詩的コリントゲームをお楽しみください。といってもヤリスギですね。
キリギリスが台所の曲がった樋の五分の一のところで鳴いている。
——♬ 美しい火床よ ♫
詩集の栞にしようと、夜通し鳴いていたのであわれ、キリギリスの楽器の弦が擦り切れてしまったとさ。————おしまい。
冒頭に掲げた「よみかた」は、率直な詠み下しでは〈きりぎりす/といのうろイヴ/はしほどよ〉ですが、素直な詠み下しではなく、二句の本文を逆旅(げきりょ)しています。上田敏に酔い痴れたのかな? 賢明な諸兄姉のこと、最後はなんかヤラカスはずだと逆覩(げきと)されていたのでしょうが?
「ヰ」の濁点が文字変換できるのかどうかと危惧していましたが、チャンと出ていますね。ヴェルレーヌが草葉の蔭でさぞよろこんでいることでしょう。
さて、最後はもうすこし無理をして三句の綱渡り、三艘飛びをヤラカシます。
物価が高くなりましたね。
食後のフルーツが安い果物に、しかも半分になりましたよ。家人は女房に変身し、広告とにらめっこしては、スーパーをハシゴしています。
でも、「数独」は止めないようですよ。
このあいだは、カゴまで持ってきたのでとうとう店の籠を失敬するようになったかと天を仰いで慨嘆しかけたところ、真相は新規開店のノーベリティで記念品としてタダだったとのこと、バスに乗って遠征するようになっては……
ミセも、生き残りをかけて大変のようです。ロゴ入りのカゴですか? 洗濯物がテンコになって風呂場のわきに邪魔扱いされています。わがやのささやかな「量子のもつれ」といったところでしょうか。