さかしら伊呂波50撰(2)「に」アンドレ・ジッド | ouroboros-34のブログ

ouroboros-34のブログ

こころに映りゆく由無しごとを其処は可となく書き付けて
ごうなっだのでありますぐるらめ。

[に] アンドレ・ジッド

煮ながら火 崩れ落つとき 浮く薺       
   空気閉づおれ 点くひらがなに

——にながらひ くづれおつとき うくなずな
   くうきとづおれ つくひらがなに

———「真っ赤になった火の塊が崩れ落ちて、ゆで上がった薺が浮いた。
吸気シャッターを閉じるおれのアタマに「薺」のルビの仮名が閃いた。「読めた!」瞬間だった」とジッドはアレグレに語った。とオレには聞き取れた。 

薺(なずな):アブラナ科の野草。茎頂に総状花序に四弁白色の小花を付ける。ぺんぺん草。春の七草の一。俳句では新年の季語だそうです。
アンドレ・ジッド:『贋金つくり』。これはジッドが唯一「ロマン(小説)」として認めた代表作であり、作中にエドゥワールという小説家が登場し、作品と同名の小説(「贋金づくり」)を書くという設定になっており、いわゆる「小説の小説」になっている。メタ的な手法(「紋中紋」という)が珍しい。因みに「紋中紋」とは、
紋中紋(もんちゅうもん):モティーフが入れ子構造で入っている表現・手法をいう。フランス語ミザンナビーム(Mise en abyme. 「底知れぬ深みに置くこと=入れ子状態に置くこと」といった意)の訳語。
マルク・アレグレと同性愛だったジッドの名言、《作り物の自分を愛されるより、ありのままの自分を憎まれる方がましだ》。———なるほど。

  ◆

前回「バベルの図書館」を書きましたが、少し蛇足を付け加えておきましょう。
 この図書館の本には次のような特徴がある。
• 全て同じ大きさの本であり、1冊410ページで構成される。さらにどの本も1ページに40行、1行に80文字という構成である。また本の大半は意味のない文字の羅列である。また、ほとんどは題名が内容と一致しない。
• 全ての本は22文字のアルファベット(小文字)と文字の区切り(空白)、コンマ、ピリオドの25文字しか使われていない。
• 同じ本は2冊とない。
それゆえ司書たちはこの図書館は、この25文字で表現可能な全ての組合せを納めていると考えている。すなわち、これまでに書かれたすべての本の翻訳、これから書かれるすべての本の翻訳、それらの本の落丁・乱丁・誤訳版、および不完全な版を指摘した解説書、解説書の偽書、解説書の偽書一覧目録(これにも偽書あり)等のすべてを含む。つまり本作『バベルの図書館』自体がバベルの図書館に所蔵されている。序章でボルヘスはこの作品自体、すでに書かれていたものであるとしている。
バベルの図書館に収蔵される本の冊数は算出可能であり、1,834,097桁の数字となる。また、web上にバベルの図書館を構築する試みが行われている。
ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』の図書館、盲目の元図書館長ホルヘ・ダ・ブルゴスはボルヘスがモデルである。

面白いでしょう?この短編、銷夏にはもってこいです。