[ひ] 陶潜
悲商(ひしやう)熄(や)み 孟秋(まうしう)の月(つき)
昨夜(こぞ)棚田(たなだ)
そこ桶(きつ)の牛(うし) 馬(うま) 明夜(みやうや)鴟(し)尾(び)
———秋風が吹き止んだ。初秋の月は、昨日は棚田に翳を映していたが、今は小屋の水桶の牛を照らしている。やがて馬小屋にまわり、明夜は寺の瓦に懸っていることだろう。
悲商(ひしょう):秋風(の音)のこと。秋風は人に一種悲涼な感じを与える。その音が「商」の音と同じことによる。出典は、
晋の陶(とう)潜(せん)。作漢詩「閑情賦」。
孟秋(もうしゅう):「孟」は、初め、の意味。初秋。七月:孟秋(もうしゅう)、八月:仲秋(ちゅうしゅう)、九月:季秋(きしゅう)という。また、兄弟を上から孟・仲・季という。孟女:長女のこと。孟春・孟夏など。似たコトバで、「孟浪(もうろう)」は、とりとめのない、でたらめなこと。当て字では、孟徳尓定律(メンデルの法則)は、中国語。奇抜ですね。
鴟尾(しび):寺院の大棟の両端に据える飾り瓦。鬼瓦(おにがわら)。鯱(しゃちほこ)など、いろいろな意匠がある。防火のまじないとした。
漢詩仕様の回文短歌の試みでした。唐代に形式が定まった近体詩の五言絶句(ごごんぜっく)のように、第一、二、四、五句に韻(いん)(一韻到底(いちいんとうてい))を踏(ふ)んでみました。