自分でべんきょうしたものをまとめたものです。
俳句をつくるひとが日頃疑問に感じていることを整理してみました。
§形容詞と形容動詞のはなし
まず「形容詞」のはなし
形容詞は名詞を飾る。「早し」「美し」…終止形語尾が「し」(口語では「い」)であるものです。
活用:ク活用とシク活用の2種類ある。シク活用はク活用に「し」がついたものです。以下「(シ)ク活用」と記述する。それぞれ、例として「高し(たか・し)」「美し(うつく・し)」を挙げる。(命令形は省略)
未然 連用 終止 連体 已然
―(し)く ―(し)く ―し ―(し)き ―(し)けれ
例:
高し たか・く たか・く たか・し たか・き たか・けれ
美し うつく・しく うつく・しく うつく・し うつく・しき うつく・しけれ
形容詞にはもうひとつ変化があって(カリ活用という)ややこしいが形容動詞(ナリ活用・タリ活用)に似ているので次にいっしょに検討する。
§形容動詞の「なり」「たり」と、形容詞の別の変化「カリ活用」
「なり」は、語尾に「に」を持つ副詞が動詞「あり」と結合したもの「にあり」です。ナリ活用。
意味:にて。な状態に。な様子に。
例:静か・なり
「たり」は、語尾に「と」を持つ副詞が動詞「あり」と結合したもの「とあり」です。タリ活用。
意味:として。
例:堂々・たり
形容詞の別の変化は、形容詞の連用形に「あり」が付くものから派生している。カリ活用。
意味:(形容詞とともに)くある。
例:高く+「あり」→「たか・かり」
変化は 未然 連用 終止 連体 已然
ナリ活用 ―なら ―なり ―なり ―なる ―なれ
―に
タリ活用 ―たら ―たり ―たり ―たる ―たれ
―と
カリ活用 -から -かり (なし) ―かる -けれ
(シク活用は、シがついて、-しからーしかり-しかるーしけれ)
このようにして、ウロは、形容詞と形容動詞を区分けする必要はないと考えています。
以上で終わりです。
ここからは軽い読み物としてお話しますので、お付き合いください。
「忌忌し」。
これは何と読むでしょう?
形容詞で「ゆゆし」と読みます。「由々し」とも書きます。「斎(ゆ)」神聖であること。斎(い)み清めること。の重ね語です。神に関係する名詞と複合語をつくります。
例えば、「茅の輪」を「茅の斎輪(ちのいわ)」。(「斎」ユ・イ)
ゆゆし…容易でない・不吉である・気味が悪い・はなはだしい・立派な・堂々としている、の意味があります。
ちょっとわき道にそれますが、「忌忌し」(ゆゆし)を「いまいまし」と読んだ方はいらっしゃいますか?
「いまいまし」は、「忌ま忌まし」と書きます。
いまいまし…悔しく腹立たしい・癪に障る・縁起がわるい、という意味があります。
先述の「ゆゆし」とは微妙にしかしはっきりと意味が違います。
話は微妙にかわりますが、
形容詞や動詞を名詞にするにはどうするか?
ニホンゴはうまくできていて、接尾語「さ」を付けるだけでいいのです。
形容詞の例:深し→深さ。つらし→つらさ。会いたさ見たさに怖さを忘れ…
動詞の例:帰る→帰るさ。行く→行くさ。意味は「~するとき」となります。俳句にもっと使いたいコトバですが、いまのひとにはもう通じなくなくなっているコトバのひとつです。
ついでに、もうひとつ、接尾語「げ」。
形容詞を、形容動詞の語幹や名詞にする魔法のコトバです。
さっきの例では、「ゆゆし・げ」「いまいまし・げ」「悲し・げ」となります。名詞や動詞について名詞や形容動詞にします。 例えば、「大人・げ」「あり・げ」…
あ、また横道に入るけど、若い人が、「自信無さげに…」と間違っているのをよく聞くよね。「自信ありげに」の反対語として、さ。
じゃ正しいニホンゴはどういうかわかるかね?
正しくは、「自信無げに」なのだよ。
おそらく若い者は「自信なさそうに」から「げ」を付ければいいとおもったのだろうが「自信なさげに」はないよ。
「あり」と「なし」は反対語だから同じ品詞だろう、と曲解したところに原因がある。「あり」は動詞で「なし」は形容詞なのだ。同じ品詞ではないのです。
「あり」の反対語は「なし」ではなくて、動詞「あり」+打消しの助動詞「ぬ」で、「あらぬ」なのだ。だからさっきの例では、
「自信ありげに」の反対語は、「自信あらぬげに」になる。同時に
「自信なし」の派生語は、「自信なげに」となる。(「な・し」の語幹「な」に「げ」が付く)興味なげに・面白くなげに・……
俳句になじみ深いコトバですよね。
もとの話にもどります。
「ゆゆし」は「堂々たり」の意味がある形容詞です。
「堂々たり」も「ゆゆし」同様、「堂」をふたつ重ねた漢語の重ね語です。
形容詞や動詞の重ね型は中国語では重要な文法の一項目になっており、漢文化を継承するニホンゴもその影響下にあります。オノマトペは、この漢文化をニホン独特の自家中毒的傾向によって独自の発展をしつつある現象だとウロは考えています。
漢語を使うときニホンゴはきまって自大的になります。表現が誇大になり権威主義になり勿体ぶる、という雰囲気を帯びます。
昔の人は漢語は欠かせない教養で漢語を知り使えることが誇りでした。今の人は中国語の知識もなく漢文の遺産だけで教養を誇示しているのはまことに滑稽です。
俳句に未消化の漢語を盛り込もうとするのは、木に竹を接ごうとするもので両方とも枯らしてしまうのではないでしょうか。
「いかめしい」といえば済むところを大袈裟にいいたいときは、「堂々たり」といいます。
戦時の軍部は「正々堂々」という中国語を使って、中国民衆を殺戮し侵略をくりかえしました。
「凛々し(りりし)」は形容詞です。形容動詞は「凛々たり(りんりんたり)」、この漢語からオノマトペ的に「りりし」というニホンゴが生まれました。名詞にするには、先ほどの「げ」をつないで「りりし・げ」とすればいいのでしたね。
先に説明した形容動詞の連用形に「に」(ナリ活用)、「と」(タリ活用)がありました。形容動詞のブラさがり、で活用しない異端者です。
ならばいっそのこと、これは形容動詞からはずして格助詞に分類替えしたらどうかと、ウロは主張しています。
すなわち、
格助詞「に」
意味:「にて」な状態に。な様子に
説明:動作・状態の行われ方・あり方を示す。状態の描写。
例:静か・に。左右に揺れる。ぴかぴかにひかる。
格助詞「と」
意味:「として」
説明:状態を形容する。状態の強調描写。
例:堂々と。しんしんと。はっとしてめがさめた。じっとしている。
※「かな」のはなし
構造上ふたつの種類があります。
①終助詞の「かな」
係助詞「か」+終助詞「な」
接続:体言、連体形に付く。
詠嘆。意味:だなあ。 例:悲しきかな。
②連語の「かな」
接続:体言、連体形のほか終止形にも付く。
疑問。意味:かなあ。例:大丈夫かな。
「堂々たるかな」(「堂々たり」の連体形に付いている)とはいうけど、「堂々とかな」また、「堂々たりかな」とは言えないことがおわかりいただけたでしょうか。