年越の百八つが始まろうとするときに予感も始まった。
予感が当たるときはすべて悪い予感である。
予感はお棺に変わり…ではない、お棺、また出た、文字変換までどうかしてる、予感は「悪寒」に変わり着実に既定路線を定時運行する。
流感だ。
悪寒は猖獗を極めんと機会を狙っている。
6枚の支度、2枚の冬下着、カッターシャツ、カーディガン、綿入れに模造毛皮の袖なし、と着込んで、あらかた箪笥の引き出し総蔵出しになっているのに、背中がゾクゾクする。
そのうち背中がかゆくなってくる。乾燥肌が治らぬのは背中が汗ばんでいない証拠である。――もっと着ろってかい?
首筋の隙間から手を入れさせて女房に背中を掻かせる。この忙しいのに、とブツクサ言いながら背中に爪を立てる。
十二単の半分の着込みだから指の屈伸が制限されていて肩甲骨の横まではなんとか届いても腋の下までは手が届かぬ。「孫の手」に脱脂綿を輪ゴムで止めて痒み止めの軟膏を塗りつけてこれで今年はよしとすることにする。
年賀客ふた組。ちょっと顔を出すだけにしてそのままベッドに潜り込む。
トーマスマンなら『魔の山』だが、枕もとは「ティッシュの山」。
胸の奥からは止むことなき咳と痰。わがいのち旦夕(たんせき)に迫りにけりな、とつぶやくしかない。
うとうとしている間の悪夢は物凄かった。
回文ばかり考えていて自ら脳を消耗し疲弊しているのに考えを逸らすことができないのだ。
ひとつの考えから逸らすことのできない辛さ。
運転を休止したいのに暴走を止めることができない苛立ちの苦しさ。まちがいなくオレは気が狂いつつあるなという恐怖感は堪えがたいほどであった。
回文はひとをダメにする。依存症だ。麻薬だ。爆薬だ。
と、のたうちまわりながら回文から離れることができなかった。
奇妙な初夢が回文の悪夢であった。
そのときの作品が、これ、
芝に水しだくや腐し罪庭師 ウロ
[しばにみづしだくやくたしつみにはし]
芝生のスプリンクラーを暴走させて芝を腐らせてしまったが。庭師もツミなことをやらかしたものだ。
ではご機嫌よろしう… ハックション!
初西風(はつにし)に吹かれて目出度くなりかかる ウロ