O では、T君の東京での生活について聞いていきたいと思います。

 

T O君は大学のころ千葉、バーチーに住んでたわけだから、大きく首都圏での生活と捉えてもらってもいいかもね。

 

O バーチーなんて初めて言われたわ(笑)。

 

T 僕は大学のころも4年間東京に住んでいて、一旦静岡に戻ったあと、転勤というかたちで社会人になって改めて東京で生活を始めたわけだけど、一番思うのは遊ぶところや魅力的なところがたくさんあることかな。

 

O たしかに、僕も今は静岡の片田舎に引っ込んでるから、何も用事のない日は家に閉じこもっていることが多いけど、こっちのほうで暮らしていたら、あちこち出歩いたりするかもしれないな。

 

T それに僕の場合は転勤も2年と期限が切られてのことだから、こっちにいる間にいろいろやっておこうという気持ちが湧いて、その分アクティブになっていると思う。これがずっとこっちに住むことになったら、いつでも行けると思って、あまり積極的に動かなくなるんじゃないかな。僕も静岡にいるときは外出歩いたりするほうじゃなかったし。

 

O じゃあ僕も東京に来たら自分を変えられるかもしれないな(笑)。

 

T あと首都圏の特徴は、交通網が発達していることだね。どこでも電車ですぐに行けちゃう。これだけ交通網が発達している都市もあまりないんじゃないかな。僕はニューヨークとかも行ったことがあるけど、こんなに発達してなかった。

 

O おお、ニューヨークと比較しても東京は勝っているのか。

 

T 交通という観点の話ではね。高層ビル群とかを考えると負けちゃってるけど。やっぱりアクセスが便利だから、ふらっと出かけてふらっと帰ってこれる、その手軽さがいいかな。学生のときと社会人になってからでは楽しみ方も違うと思うけど、社会人になってからもう一度東京で生活できてよかったと思うな。

 

O 僕は東京に住んではいないけど、東京方面に友人はいたりするからよく東京に来ることはあって、東京ライフの片鱗みたいなものは味わうことがあるよ。先週も大学の先輩と皇居の周りを走ったし。

 

T 静岡は東京に日帰りでも来れるからいいよね。僕は正直、一生東京に住みたいかと言われるとそうでもないところがあって、静岡なら帰っても気軽に東京まで出てくることができるからいいかなと思う。

 

O 静岡は名古屋にも気軽に行けるからいいよね。東京にも名古屋にもどっちにも行ける、それが静岡のいいところかなって思うな…って、だんだん静岡の話になってきちゃったな(笑)。

 

T では軌道修正して、今度は東京の食の話をしましょう。東京の食と言えば、ラーメン。

 

O お、得意分野を強引に押し込んできましたね(笑)。

 

T あとは外国料理なんかもけっこうあったりするんだよね。僕は外国料理もラーメンも好きだからいいけど。

 

O なんだか語りたそうな顔をしてますね。ではあえて触れないようにしましょう(笑)。それで東京のバスの話なんだけど(笑)、東京に来ると電車に乗ることはあってもバス乗る機会ってあまりないよね。東京のバスは前から乗って後ろから降りて料金先払いだけど、静岡のバスはこれと真逆だから、たまに乗るとすごく違和感がある。

 

T 首都圏は均一料金だからね。

 

O そうか、だから先払いなのか。

 

T 逆に言うと、それだけ遠くには行かないってことだけどね。そこが首都圏と地方の違いだと思うけど。

 

O では地方のバスはだいたい静岡と同じ感じなのかな。

 

T たしかに僕も初めて上京したときはそのシステムに戸惑ったけどね。

 

O 「上京」っていう言い方がなんともいいですね。長渕剛っぽくて(笑)。

 

T 僕は今バスで通勤しているからバスの定期を持っていて、都バスは乗り放題なんだけど、東京はバス網もけっこう発達してて、電車で行くよりもバスで行くほうが早くて効率的だったりすることもあるんだよね。それにバスの車窓を眺めているといろんな発見があったりして面白いよ。

 

O やっぱりそうだよね。『深夜特急』の沢木さんもバスでの移動を重視してたからね。

 

T 最近思うんだけど、路線バスには路線バスの魅力があるんだよね。

 

O だんだんマニアックな方向に足を踏み入れつつありますね。一年後には鉄オタみたいになってたりして(笑)。

 

T いや、そこまでではないけど。だから外国に旅行に行くときも1回はバスに乗るようにしてる。バスって外国人からすると難易度が高いんだけど、地元の人々の足だから、ローカルな一面も見れたりして面白いんだよ。最近はテレ東で太川陽介と蛭子能収がローカル路線バス乗り継ぎの旅をする番組がやってるけど、あの番組も面白い。

 

O もうバスにがっちり心を掴まれてるじゃないですか(笑)。

 

T ただ、バスだと酔っちゃって本を読めないから、自分は長距離移動するには電車派なんだけど、人がバスに乗って旅をするのを見るのは楽しいね。高速バスを使わずに路線バスだけで京都から広島まで行ったりするんだよ。

 

O まさに『深夜特急』の世界観だね。

 

T 3泊4日ぐらいで行くんだけど、目的地に辿り着けなかったこともあるし、田舎のバスだと全然来なくて何時間待ちってことになったりもするんだよ…って、話が完全に違う方向に行ってる(笑)。

 

To Be Continued...

T あとはさっき愛人の話が出たけど、山崎先生は作中に出てくる愛人を狂言回しに使ってた感じがするね。先生が思っていることを愛人に代弁させていたというか。

 

O あれ?この話は前に聞いたことがある気がするな。『不毛地帯』のテーマのときにも言ったんじゃない?

 

T そうだったかな。じゃあ何回も言いたいぐらい大事なことなんだろうね。

 

O いわゆるテストに出る部分ですね(笑)。

 

T とくに『白い巨塔』の花森ケイ子がすごく印象的なんだよね。

 

O 話が出たついでに『白い巨塔』の話を少しさせてもらうと、あれって最初の連載は財前が医療裁判に勝つところで終わってたらしいね。

 

T 本当はあそこでやめるつもりだったらしいね。だけど、悪が勝つじゃないけど、財前を勝たしたままにしておくのはいかがなものかという読者の声もあったりして、続きが書かれたみたいだね。

 

O この前BSで映画の『白い巨塔』をやってたんで見たんだけど、その映画は続編部分が書かれる前の時点で作られたらしく、財前が勝つところで終わってたんだよね。だから納得できないというか、何とも腑に落ちない感じになってた。え?これで終わり?って。

 

T 五郎ちゃん、五郎ちゃん、稲垣吾郎ちゃん(笑)。

 

O 違うだろ!君は先生を冒涜しているのか(笑)!そう言えば、財前又一のあのイメージって、西田敏行特有のものなのかと思ってたら、映画の財前又一も全く同じようなキャラで、それが何か面白かった。

 

T あと『白い巨塔』の面白いところって、正義の味方の里見とそれに対する悪役の財前という、善悪の対立構造を表面的に持ち込みつつも、ただの勧善懲悪とはなっていなくて、必ずしも財前は悪だと言えないところなんだよね。たしかに野心や出世欲は強いんだけど、だからといって悪とは言えなくて、逆に人間臭い部分があるように思える。

 

O 山崎先生の作品に悪役として出てくる人物って、みんなそういう面を持っているよね。『沈まぬ太陽』の行天とかも、恩地に対する悪役的な立場で登場しているのかもしれないけど、人間ぽさが残されているよね。それは山崎先生の登場人物に対する優しさなのかもしれないけど。

 

T 最近のドラマだと、話題になった『半沢直樹』とかは悪人と善人の差がはっきりしすぎていて、僕はどうも入っていけずに見るのをやめちゃったな。

 

O 『半沢直樹』も見ていくと悪人の背景が描かれてたりするんだけどね。完全な悪人に見える人物も、実は弱い部分を抱えていて、そんな場面も劇中には出てきていた。だけど結局のところ『半沢直樹』は勧善懲悪の展開がウケたんだと思うから、T君の価値観には合わなかったと思うけどね。

 

T 『半沢直樹』はやっぱり現実にはありえないスカッとした気持ち良さが魅力だったんだろうね。

 

O 勧善懲悪という面から山崎先生の作品を見てみると、『沈まぬ太陽』の会長室篇はまさに勧善懲悪的な面白さがあったように思うな。アフリカ篇、御巣鷹山編という長い前座があって、そこで叩きのめされてきた恩地さんの逆襲とも言うべき社内の悪との闘いが、読んでいてスカッとする印象を受けた。読むスピードも会長室篇に入ってから圧倒的に上がったね。

 

T 会長室篇と言えば国見会長だけど、国見会長が実際よりも良く書かれすぎているところはあるみたいだね。国見会長はカネボウでは良かったけど、JALではあまり成果を残せなかったみたい。そんな風に現実と比べてみるのも山崎豊子小説の楽しみ方の一つになってるね。

 

O 現実世界とのギャップを探すということか。『沈まぬ太陽』は映画化もされたわけだけど、JALはよく映画化を許可したね。企業イメージを無為に損ねちゃうと思うんだけど。

 

T だからずっと映画化は不可能と言われてたみたいだね。『沈まぬ太陽』が週刊新潮に連載されてたころはJALが反発して、機内の雑誌から週刊新潮を排除したって話もあったみたいだし。「国民航空」って名前もいかにもだよね。

 

O そして出てくる新聞社はいつも「毎朝新聞」(笑)。

 

T でもその後のJALの展開を見ると、やっぱり山崎先生が言い当てていたことになっているよね。

 

O 山崎先生なりの方法で世の中に訴えたいことを表現したということなのかな。

 

T そうして考えると、『華麗なる一族』の阪神銀行と都銀の合併の話だって、3メガバンクに集約された現在の状況を言い当てているね。

 

O 『華麗なる一族』って先生の作品の中でも前半のほうだと思うから、そのころから予見していたというのはすごいね。

 

T やっぱり先見の明があったわけだし、歴史がそれを物語っているよね。

 

O それと、『沈まぬ太陽』でもう一つ印象に残っているのが、ニューヨークかどこかの動物園のシーンで、中に鏡が入った檻があるんだけど、その檻に「世界で最も危険な動物」という説明がついているんだね。つまり人間が最も危険だということを言ってるわけだけど、これは山崎先生の作品通して言えるメッセージではないかと思った。山崎先生は常に人間の中の危険な部分を書いてきたんじゃないかな。

 

The End.

T ちなみに、先生の作品の中で一番印象に残っている作品は何?

 

O やっぱり一番大きいのは『沈まぬ太陽』かな。T君に薦められて一番最初に読んだ作品であり、それをきっかけに先生の作品を読むことになったから、その存在は大きいかな。

 

T 僕も実はそうなんだよね。

 

O あれ?もしかして合わせに来てる感じですか(笑)?

 

T いやいやいや、ちょっと待ってよ。僕が薦めたって言ってるんだから、僕がそう答えても別におかしくないでしょ。

 

O あ、そうだっけ?僕が薦めたんじゃなかったっけ(笑)?

 

T やめてくれよ。一緒に映画も見に行った仲じゃないですか。

 

O そうだったね、一緒に見に行ったわ。恩地元を渡辺謙さんがやられていたね。

 

T 『沈まぬ太陽』の面白いところは、複合的な要素がいろいろ絡まってるところだと思うね。組合活動を積極的に行ったがゆえの差別人事だったり、御巣鷹山の事故だったり。御巣鷹山の事故のほうは、恩地元のモデルになった人は関わってないみたいだから、フィクションの部分だと思うけど。

 

O あれを読んでから組合活動やるのも恐る恐るになったけどね。組合活動に積極的に参加してたらとんでもない目に遭うんじゃないかって(笑)。

 

T 御巣鷹山のところも本当に衝撃的だったよね。手記の部分は本物をそのまま使ってるみたいだし。

 

O あの手記は有名みたいだね。御巣鷹山を題材にした本だと他に横山秀夫の『クライマーズ・ハイ』を読んだことがあるけど、その中でもたしか手記に関する話が出てきていたと思う。

 

T 事故の描写もすごくリアルで、僕の先輩は電車の中で読んでて気持ち悪くなって電車降りたって言ってたからね。

 

O そこも山崎先生のすごいところだよね。とても女性が書いているとは思えないグロさ。これは他の作品にも言えることで、『二つの祖国』の太平洋戦争のシーンとか、『大地の子』のチャーツ、このチャーツってのは変換では出てこないと思われる「上」「下」をつなげたような字なんだけど、そこを通るシーンなんかがグロかったような気がする。

 

T 今はなかなかそういう作品を書ける作家はいないだろうからね。この前、某新進作家の本を読んでみたけど、文章が平易で薄い感じがした。誤解を恐れずに言うならば、僕でも書けるんじゃないかぐらいの。

 

O おお、これはまた大きく出ましたね(笑)。

 

T それとは対照的に、山崎先生の師匠にあたる井上靖の『敦煌』という本を今読んでるんだけど、文章に格式があってやっぱりすごいと思う。

 

O 山崎先生の文章はその取材力にも裏打ちされたものだと思うね。『大地の子』のときは、当時の中国は日本人の取材が許可されない中、胡耀邦書記長…胡耀邦総書記…あれ?肩書きは何だっけ?胡耀邦さん(笑)の許しを受けて取材することができたってエピソードもあったし。

 

T たしかにそんな話もあったね。

 

O 他にも取材に関しての話だと、『ムッシュクラタ』という作品の裏話でちょっと面白い話を読んだ。作中にフィリピンの戦場の場面が出てくるんだけど、それを人の話を聞いただけで書いたら、臨場感に欠けると指摘されたらしいのね。それで人の話を聞いただけだと伝わらないということに気づいて、その後実際の場所に行って取材して書き直したことがあったらしい。

 

T やっぱり自分の目と耳で確かめるのが大事だということか。

 

O 『不毛地帯』も実際に極寒のシベリアの地に赴いて取材してるらしいしね。なかなかできないことだよね。

 

T 壹岐正…。

 

O 地下数十メートルの…あ、始まっちゃうからやめましょう(笑)。僕にあまり誘い水を出さないでください。

 

T 先生も晩年はけっこういい歳だったんだよね。それなのによく書いてたなぁと感心する。

 

O 昔は万年筆党で、万年筆じゃないと文章が書けなかったらしいんだけど、晩年は筆圧が落ちてきたから、万年筆を筆ペンに持ち替えて書いてたって話もこの前のクローズアップ現代で見たな。

 

To Be Continued...