T ちなみに、先生の作品の中で一番印象に残っている作品は何?

 

O やっぱり一番大きいのは『沈まぬ太陽』かな。T君に薦められて一番最初に読んだ作品であり、それをきっかけに先生の作品を読むことになったから、その存在は大きいかな。

 

T 僕も実はそうなんだよね。

 

O あれ?もしかして合わせに来てる感じですか(笑)?

 

T いやいやいや、ちょっと待ってよ。僕が薦めたって言ってるんだから、僕がそう答えても別におかしくないでしょ。

 

O あ、そうだっけ?僕が薦めたんじゃなかったっけ(笑)?

 

T やめてくれよ。一緒に映画も見に行った仲じゃないですか。

 

O そうだったね、一緒に見に行ったわ。恩地元を渡辺謙さんがやられていたね。

 

T 『沈まぬ太陽』の面白いところは、複合的な要素がいろいろ絡まってるところだと思うね。組合活動を積極的に行ったがゆえの差別人事だったり、御巣鷹山の事故だったり。御巣鷹山の事故のほうは、恩地元のモデルになった人は関わってないみたいだから、フィクションの部分だと思うけど。

 

O あれを読んでから組合活動やるのも恐る恐るになったけどね。組合活動に積極的に参加してたらとんでもない目に遭うんじゃないかって(笑)。

 

T 御巣鷹山のところも本当に衝撃的だったよね。手記の部分は本物をそのまま使ってるみたいだし。

 

O あの手記は有名みたいだね。御巣鷹山を題材にした本だと他に横山秀夫の『クライマーズ・ハイ』を読んだことがあるけど、その中でもたしか手記に関する話が出てきていたと思う。

 

T 事故の描写もすごくリアルで、僕の先輩は電車の中で読んでて気持ち悪くなって電車降りたって言ってたからね。

 

O そこも山崎先生のすごいところだよね。とても女性が書いているとは思えないグロさ。これは他の作品にも言えることで、『二つの祖国』の太平洋戦争のシーンとか、『大地の子』のチャーツ、このチャーツってのは変換では出てこないと思われる「上」「下」をつなげたような字なんだけど、そこを通るシーンなんかがグロかったような気がする。

 

T 今はなかなかそういう作品を書ける作家はいないだろうからね。この前、某新進作家の本を読んでみたけど、文章が平易で薄い感じがした。誤解を恐れずに言うならば、僕でも書けるんじゃないかぐらいの。

 

O おお、これはまた大きく出ましたね(笑)。

 

T それとは対照的に、山崎先生の師匠にあたる井上靖の『敦煌』という本を今読んでるんだけど、文章に格式があってやっぱりすごいと思う。

 

O 山崎先生の文章はその取材力にも裏打ちされたものだと思うね。『大地の子』のときは、当時の中国は日本人の取材が許可されない中、胡耀邦書記長…胡耀邦総書記…あれ?肩書きは何だっけ?胡耀邦さん(笑)の許しを受けて取材することができたってエピソードもあったし。

 

T たしかにそんな話もあったね。

 

O 他にも取材に関しての話だと、『ムッシュクラタ』という作品の裏話でちょっと面白い話を読んだ。作中にフィリピンの戦場の場面が出てくるんだけど、それを人の話を聞いただけで書いたら、臨場感に欠けると指摘されたらしいのね。それで人の話を聞いただけだと伝わらないということに気づいて、その後実際の場所に行って取材して書き直したことがあったらしい。

 

T やっぱり自分の目と耳で確かめるのが大事だということか。

 

O 『不毛地帯』も実際に極寒のシベリアの地に赴いて取材してるらしいしね。なかなかできないことだよね。

 

T 壹岐正…。

 

O 地下数十メートルの…あ、始まっちゃうからやめましょう(笑)。僕にあまり誘い水を出さないでください。

 

T 先生も晩年はけっこういい歳だったんだよね。それなのによく書いてたなぁと感心する。

 

O 昔は万年筆党で、万年筆じゃないと文章が書けなかったらしいんだけど、晩年は筆圧が落ちてきたから、万年筆を筆ペンに持ち替えて書いてたって話もこの前のクローズアップ現代で見たな。

 

To Be Continued...