「社長、お客様が… 」
「えっ!? 」
Sさんが困惑したような表情で言うので思わず右側にある半透明のパーテーションの方を見た。確かにそこには人影があり、座ったままこちらを振り向いた様子はすぐに分かった。
「あぁ…すみません。お待たせしちゃって」
そう言いながら慌てて靴を脱ぎ、スリッパに履き替えた私は、仕切りの切れ間から顔を覗かせ、相手が誰なのか確認したのだが。
「えっ!? 」
「ども… 」
椅子に座ったまま会釈したのは洲本啓二だった。驚いて何も告げられない私を見て、洲本はバツの悪そうな表情で改めて頭を下げた。
「…洲本さん…… 」
まるでピントを合わせる様に、引き気味で彼の姿を見る。喪服姿だった。
「母の件では大変お世話になりました…あんたにどうしてもひと言、礼が言いたくて… 」
彼はそう言うと深々と頭を下げる。木下幸代さんの逝去を知らされた私は驚き、暫くは釘付けになってしまった焦点を、彼から逸らす事が出来なかくなっていた…
黙って突っ立っている私に洲本は「よかったら外へ出ましょうか? 」と、促したので、そんな彼に従う形で一緒に事務所の外へ出て立ち話をする。すぐに彼は目を細めながら口を開いた。
「あんたが施設に来た2日後に…実は母に会いに行ったんだよね」
「そうだったんですか… 」
「あぁ、実はあの時、あそこで俺とあんたが大声で騒いでいたもんだから、職員が驚いてさ。あの後、何をしていたのか尋ねられたんだ」
「…… 」
「仕方なく事の顛末を全て話したんだけど、職員の連中が『すぐに会いにいくべきだ』って口を揃えて言うもんだから… 」
「そうだったんですね… 」
「必死で働いてきたけど、いつの間にか俺も数多くの職員達から支えられていたんだな。…正直、こうやって皆から支えられてるなんて思いもしなかったよ」
あの日の事が多少なりとも奏功し、彼が木下幸代さんを見舞ってくれた事に安堵した。いや、それ以上に勿論、感激もしてはいたのだが、やはり彼女が亡くなったショックで私は上手く感情を表に出す事が出来なかった。
「本当に…あの時は怒鳴っちまって悪かった。許してくれ」
「いや、そんな… 」
「あぁ、それと」
「はい? 」
「母が…生前、あんたに宜しく伝えてくれって。これからも頑張って困った人の力になtってやってくれって言ってたよ」
「……はい」
そんな会話を交わした後、私達は互いに礼を言い合いそこで別れた。
そんな洲本啓二の表情は、前に施設で会った時とは全く違っていて、どこか柔和な、まるで木下幸代さんの面影を感じさせるものへと変化していたのが印象的だった。
「んっ? 」
どこから飛んできたものなのかは分からないが、風に飛ばされた桜の花弁が1枚、パーカーの裾に張り付いた。それはまるで木下幸代さんの別れの挨拶の様にも感じてしまい……
「頑張りますよ。これからも! 」
花弁にそう言って、私は事務所へと階段を上がった。
「はぁ、良かった… 」
「あのお兄さん何だったっすか? 」
「あぁ、あの人はな…今回探していた依頼者の息子さんだ。言い換えれば『対象者』って事だ」
「そうだったんすね」
「あぁ…今回もいい仕事が出来てヨカッタよ… 」
「そうっすか… 」
「まぁいい。今日は天気もいいし、実に気分爽快だ!Sさんが買ってきてくれたお菓子を皆で食べようじゃないか!はっはっはっ…あれ!?Sさんは?? 」
その時、私の後ろで事務所の扉は「ガチャリ」と音を立てて閉まり、「カシャッ」とロックされた音がした。そしてドスの利いたSさんの声がした。
「さぁ、社長。これからゆっくり紛失物について話をしましょうか… 」
(終わり)※長い間、お読みくださりありがとうございました。出来れば昨日終わりたかった(´;ω;`)ウゥゥ
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