狩野省吾弁護士との電話を半ば乱暴に切った形で、私は管理栄養士の尾行をスタートさせる。いつもならYくんや他のスタッフが助手席に乗っていてサポートしてくれるのだが、今日は1人だ。ミスは許されない。
胸のポケットから煙草を取り出すとすぐに火を着けた。緊張を解す為のまじないみたいなものだ。
女性の運転する軽自動車は、順調に自宅方向へ向かって走っている。このまま帰宅してくれれば、ミス無く、私の調査持ち分は終了という事になるのだろうが…それはそれで、時間の無い現状の中きっと彼女は食材を誤魔化しただけでなく、金銭を着服した汚名も着せられ、退職に追い込まれる事になってしまう。
別に彼女へ対して、同情の念がある訳でも無い。寧ろ、どんな理由があるにせよ大切な入院患者に提供される食事の材料を持ち帰って良い理由などないのだから。
「んっ? 」
煙草をふかしながらそんな事を考えていた矢先、彼女が住んでいる住宅へ曲がる交差点を軽自動車はそのまま直進していく。思いがけない行動に、緊張の度合いが一気に増してくる。
--- 一体どこへ…?
そんな杞憂も束の間、ほんの2、3分も経っただろうか。交差点を直進した女性の軽自動車は、それから交差点を2つ通り過ぎた左側にあるドラッグストアの手前でウインカーを点滅させた。ここは昨日、中川佳恵が利用していたドラッグストアでもある。
--- やれやれ…ただの買い物か…。
煙草を灰皿の縁で揉み消して、私も同じ駐車場へと入っていく。入り口に1番近い駐車スペースに車を停めた女性は暫く車の中に乗ったままだったので、私も彼女を見通せる場所に車を停めた。
ギアをパーキングに入れると、すぐにカメラを取り出して撮影に入る。ズームで寄せて見た彼女の表情は、青白く、お世辞にも明るいとは言えないものだった。
暫くすると女性はバッグから緑色の財布を取って中を覗き込んだ。表情は余計に暗くなり、聞こえこそしないが、溜息をつく仕草がハッキリと見て取れた。
--- やっぱり生活が苦しいのかな…。
彼女が車を降りて店の中へと足を運ぶ姿を撮影すると、私も肩掛けのバッグを後部座席から取って、小走りで店の中へと入っていく。これが浮気の調査なら、別段店内までは追い掛けもしないのだろうが、彼女の暮らしぶりを図る上では必要な調査だと判断しての尾行になる。
この店に至っては今日も夕方だというのに客でごった返しているとは言い難い客の入りだ。彼女の姿を確認すると、カートを押すでもなく、また買い物かごを持っている訳でも無い様子に違和感を感じてしまう。目的の品物が決まっていて、それをひとつ握ってくるだけの買い物なら問題は無いのだろうが…
「まさかね… 」
そんな独り言を呟きながら適当な距離を取って彼女を常に視界に入れる。目的があるのなら売り場の棚へ向かってまっすぐ進むのだろうが、彼女の足取りにも少し違和感を感じていた。どちらかと言えば所謂「ウィンドーショッピング」に近いものだ。
そうしているうちに彼女は最奥の食料品が並ぶ棚まで辿り着いた。食料品なら尚更の事不自然だ。そう思った瞬間、彼女の視線が私の方へと向いた。
(続く)
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弊社は情報を管理する会社である都合上、上記のお話だけに限らずブログ内、全ての「グダグダ小説」は全て「フィクション」です。実在する人物、団体は、私を含むスタッフ以外、すべて架空の物です。弊社で行われた調査とは一切関係ございませんのでご了承のうえお楽しみ戴ければ幸いです!それからお話の途中で設定が「おかしいな??」と、感じる部分があっても所詮「ド素人小説」なのでくれぐれも気になさらないように♡読んで頂く皆様の「想像力」が全てです( ´艸`)