「息子がそう言ったのなら仕方がないわよ。いいじゃない、仕事に責任感を持って本人が忙しくしているのだから… 」
「そんな… 」
木下幸代さんは私の振る舞いを責めるでも無く、息子の頑張っている姿を想像し、どこか安心しているようにも見えた。
「いいのよ。最初から啓二が会いに来てくれるとは思っていませんでしたから… 」
「…… 」
まるで期待した自分が悪いとでも言わんばかりに、彼女はそう噛み締める様に言葉を繋いでいく。私は改めて何という事をしてしまったのだろうかと自分の行いを悔やんだ。
「梅木さん」
「はい… 」
「あなたには本当にお世話になったわ。だから、そんな事気にしないでちょうだい」
「そんな… 」
彼女が病床の上で痛々しい笑顔を見せる程、悔しさと悲しさだけが込み上げてくる。彼女を励ますつもりが逆に励まされているではないか。自分の不甲斐なさを痛感している最中にも彼女は言葉を続けた。
「梅木さん… 」
「はい? 」
「私から見たらあなたはまだ若いわ。まるで啓二と同じ子供の様な年齢だもの」
「…… 」
「あなたが私を見て、同情してくれる気持ちは理解出来るけれど、いちいち感情的になっていたら仕事にならないでしょう? 」
「…… 」
「わざわざこんな年寄りを見舞ってくれた事には感謝しているけど、もうお行きなさい。他の困っている人達があたなの仕事を待っている筈よ」
「でも…しかし… 」
「まだまだあなたは他にやるべき事がある筈。私は私で精一杯生きてきました。そこへもってきて、あなたのお陰で我が息子が元気で過ごしている様子も分かったのだから、もう、それで充分。そこから先はあなたが心配する事じゃありません」
「…… 」
「ありがとう。身体に気を付けてお仕事続けて下さいね」
彼女は私が長居する事を拒み、「仕事に戻りなさい」と促した。私は慌ててバッグから用意した水引を出したのだが…
「何をしているの?こんな後の無い人間にお金なんて必要ないわ。いいから持って帰りなさい」
優しく咎める彼女の言葉に、結局見舞いすらも渡せないまま、私は病室を後にした…
病院の外へ出て、右目から一筋の涙が零れた。後にも先にも、こんな気持ちになり仕事で涙を流した経験は無い。ただ、ひたすらに悲しいだけだ。
思わず病院を振り返ろうともしたがそれはしない。彼女の励ましに応える為に。自分の中にはまだ燻る気持ちも残ってはいたが、それを振り払う様に車に乗り込んだ。
今日はこのまま素直に帰る気にもなれずに、どこか遠くへ行ってみたいと桜の花弁を追い掛けて車を走らせ続けた。
(続く)※次回、多分最終話になります(予定は未定)
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