道の途中、何かささやかな見舞いでも持って訪問しようと考えてはいたのだが、病室でどんな姿になっていらっしゃるのか分からない所に食べ物や飲み物も無いだろうと思い直し、割引すらにもならないのだが水引を買い、ほんの気持ちばかりのお金を名前も書かずに包む事にした。
そうやって寄り道しながら市立病院へ向かったのだが、行き辛い場所程、すぐに到着してしまう。そんなもどかしさを感じながら私は車を降りる。
正面玄関から入り、以前案内してもらった道を辿って病室まで歩いた。病室へ近付くにつれ、心臓は口から飛び出すほどの勢いで鼓動が自分の耳にもハッキリと聞こえるようだ。
「失礼します… 」
静かにノックしてドアを開ける。思わずこちらを向いた木下幸代さんとはすぐに視線が合ってしまい、彼女は突然私が来訪した事に驚いたように見えた。
「あら、梅木さんこんにちは。どうなさったの? 」
いつの間にか私の名前を「梅本」と間違わなくなっていた木下さんに嬉しい気もするが、逆に申し訳無い複雑な気持ちも残る。それでも、彼女に謝罪した上で励まさなくてはならないと、精一杯の笑顔を作り、会釈する。
「すみません。いきなりお邪魔して…お具合は如何ですか? 」
私のそんな問いかけに、彼女は柔らかい笑顔で言葉を返す。
「もう、これ以上良くなる事はなさそうです。まぁ、そんなものですよ、主治医もそう言ってたし」
自分の人生をそう締め括っている彼女の言葉は、私に突き刺さるようだった。思わず目を瞑りそうになってしまったが、彼女の前で悲観的な顔は出来ない。私は「何を仰っていますか。まだまだ… 」と、引き攣ったままの笑顔で答えた。
「椅子…どうぞ」
「あ、はい。すみません」
小さな椅子に座る事を勧められ、私は彼女のベッド横に腰を下ろした。彼女はまるで息子の顔でも見るかのような優しい顔で微笑んでいる。益々言い難い雰囲気を感じてしまう。
「あの… 」
「はい? 」
「…… 」
二の句が継げぬまま暫く沈黙が続いたが、ケジメを着けなければと思い、切り出した。
「木下さん申し訳ありません! 」
「? 」
不思議そうな顔をする彼女に私は立ち上がり、深々と頭を下げた。
「実は…啓二さん、いらっしゃらないと思います」
「……どういう事でしょう? 」
顔を上げ彼女を見る。彼女はそう驚くでも無く、相変わらず不思議そうな顔で私を見ていた。
「言い訳になってしまいますが、早く木下さんに面会して欲しくて、先日ここへ来た後、もう一度佐賀へ行って彼に面会して来たんです。そうしたら… 」
私の勇み足で起こった事だ。顛末全てを話したが、彼女は表情を変えずただ、黙って聞いていた。
ほんの1,2分にも満たない報告だったが、私は背中の中に汗をかいているのが自分で分かった。話し終えた後、彼女の反応を見ていたのだが…
「……そうだったの… 」
決してその表情を歪める事無く、彼女は柔らかな笑顔のままでそう、答えた。
「あなたには本当にお世話になりましたね… 」
その言葉を聞いた私は、少し驚いて彼女の顔を見た。目尻を下げ、さらにその微笑みは柔らかさが増した彼女の姿がそこにあった。
(続く)
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