「お願いします!洲本さんが忙しい事も重々承知しています!だけど… 」
「だけど何だ? 」
一段低い声でそう言われて、思わず下げていた頭を上げてみる。すると洲本啓二は仏頂面になり私を睨みつけている。まるで刺すような視線が私に飛び込んできた。
「あんた…黙って聞いてりゃ自分達の都合ばっかだな… 」
確かにそうかも知れない。少なくとも私は彼の事や彼の背景の事は何も考えずここへ来たの事は間違いない。しかし、そこまで考えてしまえば、こんな無茶が出来ない事も確かで…
「だからお願いに上がりました。休みが取れない御事情は充分承知しています。だけど、何とか時間を作って早急に木下さんを見舞っては戴けないでしょうか!? 」
それでもしつこく食い下がる私を見て、ついに洲本啓二は激高し、私の胸ぐらを掴み、そして叫んだ!
「ふざけんな!いきなり現れて産みの母親だぁ!?俺だってなぁ地元を離れてから今日まで必死に生きてきたんだよ!今の職場だってやっとここまで辿り着いたんだ!お前はそんな事、何も知らないだろう!! 」
洲本啓二の中に、これまでの自分を必死で取り戻すべく努力を続けてきた彼の生き様が見えた様な気がした。勿論、それが理解出来ない訳では無い。しかし…
「それにもし、俺が勝手に休んで入所者に何かあったらお前が責任取れるのか!! 」
胸ぐらを掴む手から、彼の気持ちが私の中に流れ込んでくるような感覚が確かにあった。しかし、どんなに気持ちが理解出来たとしても、私は私の仕事として引く訳にもいかない。そう思うと思わず口から出た言葉だった。
「洲本さんの言う事も分かります。でももし… 」
「もし何だ!? 」
「仮に木下幸代さんだって…ここへ入所なさってる患者さんだったら、そこまでの扱いは出来ない筈ですよ。違いますか? 」
「…… 」
彼は掴んでいた私の服を投げ出す様に手放した。そして私に背を向けた。私は成す術も無くそこに立ったままだ。
「もういい… 」
「え…? 」
「もういいって言ってんだよ」
「…… 」
「頼むから帰ってくれ。もうたくさんだ… 」
取り返しのつかない事を口走ってしまい「しまった」と思ってももう遅い。私が何を言っても、彼はまるで貝の様に頑なに私と会話する事を拒み続けた。時折、施設のカーテンの隙間から大声を出すこちらの様子を窺う人影も見えたが、今はもう、それもない。
自己嫌悪と、やらかしてしまったショックで何も言えず、私は目を瞑って下を向いた。木下幸代さんを完全に裏切ってしまった様な感覚に陥ってしまい、唇を噛んだ。
何か出来ないのか、いや、この状況で一体何が出来る?
感情に任せてここまで突っ走ってきた自分を心の中でずっと責め続けた。
(続く)
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