【以下ニュースソース引用】
うつ病や認知症にも? 「オーディオブック」が脳機能にもたらす効果
配信
上田渉氏は、著書『超効率耳勉強法』にて、オーディオブックが持つ認知症予防の可能性を解説する。
2024年には260億円もの市場規模になると予測されるオーディオブックに、さらなる可能性が期待されています。
オーディオブックサービス「audiobook.jp」を運営する株式会社オトバンクが関西福祉科学大学などと共同で実施した調査によると、「オーディオブック×運動」によって標準的な認知症予防トレーニングと同等の効果が発見されました。
本稿では同社の代表取締役会長・上田渉氏の著書『超効率耳勉強法』より、オーディオブックが持つ認知症予防の可能性を解説した一節を紹介します。
※本稿は、上田渉著『超効率耳勉強法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
リスニングは脳機能を強化することが実証されている
リスニングは、認知症予防としての脳強化にも有効で、かつ脳への負担も少ない方法です。
オーディオブックの効果 リーディングよりもリスニングのほうが脳に与える負担が小さい。
それだけにとどまらず、脳機能を強化することも実証されています。
株式会社脳の学校の代表を務める、脳科学者の加藤俊徳氏監修のもとに行われた実験で、次のような事実が明らかになりました。
大学生8人に1カ月間、毎日2時間以上ラジオを聴いてもらい、その前後におけるMRI画像の比較分析をしたところ、8人全員が「イメージを記憶する力」が強化され、8人中4人が「聴く力」が強化された、という結果が出たそうです。
実験はラジオを使って行われましたが、これはもちろん、オーディオブックなどにも同じ効果が認められるということ。
リスニングという行為は、脳の成長に有益な働きをもたらしてくれるのです。
「聴きながら読む」ことで読解効果は倍増する
耳勉強法の有用性を示すエビデンスはまだまだあります。
アメリカのThe Association for Information Science and Technology(情報科学技術協会)という組織が2019年に発表した、視覚(文字)と聴覚(音声)の読解効果に関する比較実験についての論文によると、
(1)音声を聴くことによる読解効果は、文字を読むことよりも優れている、
(2)両者を同時に行うことによる読解効果は、それぞれ単体で行うよりも優れている、
という2つの事実が明らかになったそうです。
そしてこの論文では、オーディオブックを聴きながら、VR読書やAR読書といった新たな読書形態を取り入れることが、読解効果の点からも推奨されると結論づけています。
ほかにも、テキサスA&M大学の研究チームが2020年に発表した、スムーズに読書をすることが困難な小学生を対象に行った実験にまつわる論文も興味深いです。
このチームによると、2000年から2019年の20年間にわたって、読書困難と認定された小学生に対して音読を取り入れてもらったところ、読解力の向上が見られた事例がいくつも確認できたといいます。
要するに、オーディオブックを聴きながら同じ本を読むと、単なる読書だけのときよりも読解力が上がるということです。
これはいわば、補助輪付きの読書です。
文字を目で見て音声に変換するという作業(音韻表象)を脳が行わずに済むからこそ起こる現象で、補助輪が必要なくなるまで読解力は上がり続けると考えることができます。
目だけではなく、耳からも情報を吸収すると、国語力や思考力といった、人間が生きていくうえで必要となる基礎能力がどんどん強化されていくのです。
第2言語の習得にも「聴きながら読む」が最適
また、英語などの第2言語の学習において、リーディングフルエンシーといわれる「流ちょうに読む力」を養うために、本を読みながら耳でリスニングすることが有効であるという事実を示すエビデンスも枚挙にいとまがありません。
順天堂大学の磯崎アンナ氏が2018年に発表した論文や、台湾の醒吾科技大学のアンナ・チンシャン・チャン氏が2009年に発表した論文などが、その事実に言及しています。
リーディング能力を高めるためには、文章をひたすら読むことよりも、同じ文章の音声を同時に聴きながら読むほうがはるかに有効というのはなんとも面白い話です。
そしてこれは外国語だけでなく、母国語にも通用することです。
耳勉強法が「認知症予防トレーニング」になる!?
耳勉強法によって得られる効果やメリットは、まだほかにもあります。
本記事の最後に紹介しておきたいのは、認知症予防トレーニング効果です。
のちほど紹介するように、これを裏づけるエビデンスはいくつか論文として発表されています。
また、認知症予防うんぬんを抜きにしても、私はシニアのみなさんにどんどんオーディオブックに親しんでいただきたいと心から望んでいます。
カルチャースクールの教室に足を運んだり、目を酷使するほど文字や映像を見たりしなくても、生涯学習が可能になるからです。
目の不自由な方のコミュニケーション手段としては点字が有名ですが、繊細な指の感覚が求められますので、先天的に目の見えない方や若年層でないと、しっかり習得できないといわれています。
緑内障で中途失明者となった私の祖父も、点字は学べなかったそうです。
このように、もともと本が大好きという人が、目の症状が悪くなったため心ならずも本離れが進んでしまう、というケースは少なくありません。
結果的に脳への刺激が減少し、それが認知症へと向かわせる一因になる可能性がないとはいえません。
仮に目が見える状態であったとしても、高齢者になればなるほど目を使うことによって生じる疲労は顕著になりますので、読書による学びが年々困難になることは明白です。
しかしながら、まだ耳には頼ることができます。
オーディオブックなら、身体的負担を極力減らしたうえで、脳を活性化させることが可能です。
オーディオブックなら飽きずに楽しめる
2000年代の初頭に、加齢医学を専門とする東北大学の川島隆太教授が、高齢者に計算課題をやってもらうことが認知症予防になることを証明しましたが、オーディオブックにもそれと同じ効果があるのではないかと私は考えました。
オーディオブックを聴くことは、計算課題を解くよりも着手するハードルが低いですし、脳トレに有効とされるパズルやゲームに比べ、コンテンツが豊富かつバラエティ豊かゆえに飽きにくいという利点もあります。
だから私は、自分の手でその効果を実証したいと思うようになりました。
そして、検証を行うためには専門家の助けが必要と考え、関西福祉科学大学で認知症の研究などを行っている脳科学者の重森健太教授に、協力を依頼しました。
重森先生が2016年に上梓された『走れば脳は強くなる』(クロスメディア・パブリッシング)という本の内容が非常に面白く、私が取り組もうとしていることに先生も関心を示していただけるのではないかと思ったからです。
すると、まさに意気投合という感じで、重森先生は二つ返事でOKしてくださり、すぐに実験を開始することになりました。
これが2019年1月のことです。
高齢者のみなさんはぜひオーディオブックを
オーディオブックを聴きながらの運動で、「慣れ」や「飽き」による効果の低下をおこさずに、認知症予防の効果が得られることが確認されています。
オーディオブックの効果 この実験に協力していただいたのは、重森先生が活動拠点のひとつにしている、要介護者のリハビリ施設に通う65歳以上の高齢者のみなさんで、オーディオブックを聴きながら運動をしてもらって、脳血流に及ぼす影響について調べてみました。
その結果、以前から認知症予防トレーニングとして標準的に使用されている計算課題と同等の脳血流反応が認められ、オーディオブックのほうが「慣れ」「飽き」による効果の低下が起きにくいことが明らかになったのです。
認知症を改善すると断定できるまでには至っていませんが、それを示唆する結果を得ることができましたので、私たちは2021年10月にこの実験に関する論文を発表しました。
海外でも実証されているオーディオブックの精神衛生上の効果
もうひとつ、興味深いエビデンスを紹介しましょう。 イランのシャヒード・ベヘシュティー大学の研究チームが、2017年9月に、オーディオブックが高齢者の精神衛生に与える影響に関する論文を発表しました。
研究の結果、オーディオブックによる読書は、ビブリオセラピーと同等の効果があることがわかったというのです。
ビブリオセラピーとは、端的にいえば「読書療法」のこと。人々が抱える心の悩みを、読書によって解決に導く心理療法のひとつです。
ビブリオセラピーが社会に根づいているイギリスでは、2013年6月からなんと政府公認で、精神疾患の患者に対して薬ではなく本を処方する制度がスタートしています。
ビブリオセラピーについては、イギリスのサセックス大学やアメリカのイェール大学など、数多くのチームが研究を行っており、読書がストレスの軽減や心の安定をもたらし、ひいては死亡率の低下にも貢献していることが証明されてきました。
国によっては、本が薬と同じように扱われているのです。
そして、シャヒード・ベヘシュティー大学の研究チームは、オーディオブックにも同じ効果があると結論づけました。
当然ここには、認知症やうつ病に対する効果も含まれると考えていいでしょう。
「病は気から」ということわざがありますが、オーディオブックはそのおおもとにある「気」の部分を安定させ、精神的な不調や病気から私たちを守ってくれる可能性を秘めているのです。
まさに、高齢者のみなさんには打ってつけといえるのではないでしょうか。
親御さんをはじめ、あなたの身の回りに「健康であってほしい」と願う高齢者がいらっしゃったら、ぜひオーディオブックを勧めてください。
アプリのインストール、コンテンツのダウンロード→再生などのスマホの操作ならびに、ワイヤレスイヤホンのBluetooth接続などの方法がわからない場合は、やさしく丁寧に教えてあげましょう。
ひとりでも多くの高齢者に、オーディオブックが浸透していくことを私は願ってやみません。
上田渉(株式会社オトバンク代表取締役会長)