月光美人 | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

次の日の朝、私は8時10分前に今日子の部屋に内線をして8時に彼女の部屋を訪れた。


部屋に入るとブランド物のスーツをビシッと着こなした今日子が座って待っていた。


もう、昨日のような笑顔を見ることは出来ないようだ・・


鉄火面と呼ばれる、あまり感情を表に出さない一人の美女がそこに座っていた。


ただ、彼女の目は赤く染まり少しだけ腫れていた・・


そんな顔から昨夜の私が帰った後に泣きじゃくった彼女の様子が感じられた。


「10時に旅館を出ますから、10時40分の新幹線の指定席を取っております!それでよろしいでしょうか?」


そう私が今日子に尋ねると・・


「坂本さん!申し訳ございません!実は本日、東京に帰ることが出来なくなってしまったのです!

社長がこちらに他の用事で来てるようで私も同行しなければいけなくなりまして・・」


社長と言う言葉を今日子から聞いた瞬間、私の頭の中で昨夜から引っかかっていたある人物の名前を思い出した・・


チャーリー・デップ。父親はトマソン・デップと言うコンピューター業界の風雲児と呼ばれた男だ。


一代で「ガロ」と言うコンピューター関係の会社を立ち上げ現在の「ガロ」グループを作り上げた。


今日子が勤める会社もそんなグループの一端である。


そう言えば、最近、父のトマソンは社長を息子に譲り会長に就任したと新聞に書いてあった。


チャーリー・・もしも、昨夜の今日子の電話の相手が社長のチャーリーならば、それはとんでもない事件である。


今日子がチャーリーの愛人??


美代子の言った厄介な男とは、きっと、社長のチャーリーだったのだ。


「そうですか?社長様が・・もしよろしければ・・」


そう言いかけた私の目を今日子は見つめ静かに首を左右に振った・・・


あなたを会わせるのはルール違反よ!とでも言いたかったに違いない。


今日子は食事を済ませるとこのまま下田に向うと私に告げた。


私はある重大な事を彼女に確認をしなければいけなった。


それは、自分の企業人としての評価である。どうしてもそれだけは確認をしておかなければいけなかった。


私は一度、姿勢を正しきちんと正座をし直すと頭を畳みに擦りつけながら今日子に言った。


「今回の私の評価は?なにとぞ今回のご契約お願い致します!」と


今日子はきっと、冷たい眼差しで私を見ていたに違いない。


冷静な事務的な言い方で・・


「それは、私が判断する事ではございません!上司のジョニーが判断する事です!

それに、今、あなたにその件について私の考えをお話しするのはルール違反では無いのですか?

それでは失礼致します。」


今日子はそう私に告げるとゆっくりと立ち上がり歩き出した。


私は頭を上げる事が出ずにまだ、畳に頭をこすり付けていた。


今日子が部屋を出て行く気配を感じた・・・


障子が開いた時に今日子は呟くように言った。


「あなたの接待は完璧でした!昨夜のあなたの私に対する態度も完璧でした!

でも、最後にそんな情けない姿を見たくなかった・・さようなら!そして・・ステキな時間をありがとう・・」


障子がゆっくりと閉まる音が聞こえた。


私は急いで起き上がり今日子を玄関で見送った。


さようなら・・そしてありがとう・・


そう何度も心中で呟きながら・・


今日子は迎えの黒塗りのハイヤーの後部席に静かに乗った。


私はその隣に座っている一人のアメリカ人の紳士を見て唖然とした。


昨夜、私が大浴場で一緒になったあの男であったから。


まさか・・あいつが社長なのか?少なくても今日子の会社の関係者には間違いが無い。


私は昨夜、今日子を抱かなかった事実に自分は何と運が良いのだと身震いするほど感謝した。


もしも、昨夜、今日子を抱いていたら、私はきっと、全てを失って居ただろう・・


ハイヤーは静かに走り出す。


今日子を押しのけるように隣の紳士が窓際から顔を出し私に向って言った。


「今度!飲みにでも行こう!君は信用が出来る男だ!」と・・・


私はもう一度、深々と頭を下げハイヤーを見送った。


今日子の会社との契約が結ばれたのはそれから2ヵ月後の事であった。


私は何とかこの戦いに勝ったのだ。


しかし、それと引き換えにとんでもない困難を背負ってしまう事になる。


その時の私はまったく、そんな未来の事等、知る由も無かった。


私は静かに歩き出す。


そして、チエックアウトを済ませると荷物を持ってタクシーに乗り込み・・「三島駅まで!」と呟いた。


駅に向う途中で3日ぶりに携帯電話を開いた。


数十件の不在者通知・・そしてメールの着信記録・・・


その殆どが西川からの物であった。着信拒否にしたのに他の端末で連絡をして来やがったか!


懲りない女だ・・


そんな中、1通のメールを発見する。


友美からのメールであった。


そして、このメールがさらなる苦しみを私に与えようとは知る由も無い。


私を乗せたタクシーは三島駅を目指し走り続けていた。


今日、私は東京に帰る。


「疲れたな!・・」


そんな言葉を呟きながら。