「俺の何処が悪かったんだ?」とそんな私の問いに・・
友美は少しだけ困ったような表情を浮かべた。
「何で今更、そんな事を聞くの?」
「えっ・・いや、本当はずっと聞きたいと思って居たんだが聞く勇気が無かったんだ」
「そう!気を悪くしないでね!良い?」
「えっ・・良いよ!」
「二股は御免だったからよ!」
「二股??オイオイ・・それは心外だな!俺はそんな適当な男ではないぞ!」
そう、少なくてもあの頃は私はそんな適当な男ではなかった。
苦し紛れの言い訳か?それなら嫌いだから!とはっきり言ってくれた方がまだ気が楽である。
「嘘が上手いのね!今更、嘘を言わなくて良いでしょ!もう、過去の話なのだから・・」
「だから!嘘は言ってない!俺が誰と付き合っていたと言うんだ!」
ジャズの音色をかき消すかのように私は少しだけ興奮したように怒鳴った!
マスターはそんな私を珍しそうに諭す事もなく見つめていた。
「西川さんと付き合っていたんでしょ!知ってるのよ!」
西川??それは確かに振られた後に付き合ったが、その時は気にも留めていなかった。
西川だって??
「誰から聞いたんだ!その話を・・・」
「本人から・・・」
そう友美は呟くとまるで自分を落ち着かせるかのようにグラスのカクテルを飲み干した。
「本人から?西川本人がそう言ったのか?」
「そうよ!あなたに告白された日の前の日だったと思うわ!学校の帰りに呼び止められてね!
坂本君と私は付き合ってるから!って念を押されるように言われたわ!」
西川・・・
運命の赤い糸などと言われるが、きっと、この世にはそんな物は存在しないのだと思う。
恋とは自分自身の努力や思いだけではどうにもならない物だと感じた。
そう、全ての恋の始まりも終わりも全てタイミングなのだと・・
私はその後、何も言葉を発する事が出来なくなった。
確かに、西川との出会いはタイミングが良すぎる・・
きっと、誰かが西川に私が友美に告白をする事を教えたに違いない。
誰か・・それは木村に決まっていた。
なぜなら、その事を知っているのはあいつしか居なかったのだから・・
そう言えば、私と西川が付き合い始めた直後にあいつにも彼女が出来た。
なるほど・・そう言う事なのか・・
「そろそろ・・帰ろうか?」
私はそんな沈黙に我慢できないようにそう友美に言った。
時計を見ると10時を少しだけ過ぎていた。
良い子が帰宅するには丁度良い時間である。
友美の意思など関係が無いように私はグラスの残りの酒を飲み干すと静かに席を立ち会計に向う。
友美はそんな私を追いかけるように小走りで私を追ってくる・・
外は何時の間にか雨であった。
「なんともついていないな!雨かよ!」
そうは言ったが私は内心、ホッとしていた。雨が私達二人を余計な話をさせずに駅まで追いやってくれるに違いない!
私は鞄から折りたたみ傘を取り出すと友美に渡した。
「俺は走って帰るから!それは返さないで良いから!捨ててくれ!」
「えっ!ちょっと、待ってよ!一緒に入って行けば良いでしょ!駅まで!ねっ!そうしょう!」
雨は私達を引き離すどころか・・余計に二人を結びつけた。
タイミングなのだ・・こうして再び出会ったのも・・
こうして雨が降ったのも・・全てタイミングなのである。
ゴールデン街に続く細い道路を雨を避けるように寄り添いながら二人で歩いていた。
友美から甘い女の香がした・・・
タイミング・・・
そう、全て・・タイミング・・・
恋の始まりは全て偶然のタイミングから始まる・・・
数人の酔っ払いの集団を避けようと体を動かした瞬間に友美と目が合った・・
なぜだろう?なぜ?私は無意識に友美に唇に自分の唇を重ねていた・・
「オイオイ!あんまり見せ付けんなよ!お暑いね~」
酔っ払いが嫉妬交じりにそう叫ぶ・・
友美は目を大きく見開きながら私の目を見つめ震える声で言った・・
「どうして?」と
「えっ・・ご・・ごめん!約束破ってしまって・・ごめん!何もしないつもりだったのに・・ごめん!」
私はキスをした瞬間・・不覚にも恋に落ちてしまった。
心は何時の間にか高校生の自分の戻ってしまい。あの時の友美を思う気持ちがよみがえってしまったのだ。
忘れ物など取りに来なければよかった。
こんな気持ちになるのなら、難しい事など考えずに一夜限りのあやまちをこの女と犯す方が何倍も良かった。
私は逃げるように降りしきる雨の中を友美を一人の残し走り出す!
違ったんだ!俺は嫌われて居た訳では無かったんだ!ただ、タイミングが合わなかっただけだったんだ!
そう、何度も何度も心の中で叫びながら・・・
私は何時の間にか10代の頃の何も怖いものなど無かった一人の男に戻ってしまった・・
ずぶ濡れになり電車に乗った・・
車内は混雑をしていたが、私の周りはまるで厄介ごとを避けるかのように空間が生まれていた。
それは、私がきっと、泣いていたからに違いない・・
人生は辛すぎて私の手には負えない・・
そんな言葉を何度も何度も呟きながら・・