「会費は1万円ね!」
西川は私にそう言った。私は財布からお金を取り出すと彼女に手渡す。
一瞬、彼女の手が私の手に触れる・・その瞬間、少しだけ遠い昔を思い出す。
西川は私の初体験の女であった。
佐藤に振られて半ばやけになり隣の席にこの女に告白をした。
別に好きでも何とも無かった気がする。ただ、傷ついた心を癒してくれる異性が欲しかった。
西川はあまりにもあっけなく私の申し出にOKを出した。
初めてキスをしたのは告白してから一週間後の初デートの時で・・
初めて体の関係を持ったのは一ヶ月後の一泊二日のグループ旅行の夜であった。
「山田貿易に勤めているんだってね!」
西川のそんな言葉に女の情報網の恐ろしさを感じる・・・
「オイオイ!昔を懐かしむのは後にしてくれよ!とりあえず、後がつかえているんだけど・・」
私の後ろでイラつきながら木村がそう呟く。
「あっ!ごめん!それじゃ・・また、後で・・」
そう言い私は西川から領収書を貰うと会場に入って行った。
会場に入ると20くらいの男女が入り乱れながら雑談をしてる。
周りを見渡す同じクラスだったのだから顔見知りのはずなのにまるで他人のように感じられる。
20年と言う年月の重さを実感した。
そして、ここに居るクラスメートが年老いたように自分も年を取ったのだと実感する。
私はキョロキョロしながら目を皿のようにして佐藤を探した・・
しかし、それらしき女は見つける事が出来なかった。
「おい!いきなり物欲しそうにキョロキョロするなよ!」
そう木村に諭され自分の行動が恥ずかしくなる・・
「そろそろ皆、揃ったようなのでお席に着いてください!」
幹事の市川がそう言うと入り乱れていた男女はそれぞれ自分の好きな席に着席した。
上座には当時の担任らしき老人がひっそりと座っていたが名前も顔も思い出すことが出来なかった。
高校生の記憶などそんなものだと感じる。
「それでは!グラスをお持ちください!久々の再会に乾杯!」
市川がそう叫ぶように乾杯の音頭をとると皆が笑顔でグラスを天井に向かい上げた。
「乾杯!南高校サイコー!」
そんな言葉を呟きながら・・
そして、そんな言葉から私の人生、最悪の夜が始まろうとしていた。
「あいつか米山だろ!あいつは・・加藤!おい!誠!あのハゲは誰だ?記憶が無いぞ!」
木村はまるで推理小説の名探偵のように次々と変わり果てた級友達を当てて行く・・
「なんか!楽しいな!誠!それにしても皆、オッサンやばばぁ~になったもんだ!
実は少しだけいけない期待をして来たのだけど・・これじゃ・・無理だな!」
女達はそれなり着飾ってはいるは、やはり生活臭とでも言うのかそんなオーラが全開である。
とても口説く気にはなれない。
「坂本君!」
そう言いながら西川が木村を押しのけるように間に入って来た。
「山田貿易ってさ~」
そんな言葉から西川は聞きもしないのに自分の旦那の話を始める。
聞いていると西川の旦那は私の会社の取引先に勤めているようである。
「旦那もさ!営業なんだよね!ノルマが大変らしくって・・」
少しだけ豊満な胸をちらつかせながら西川は旦那の苦労を私に向って熱く語った。
この女は何なんだ?俺に何を望んでいる??
この中でサラリーマン部門では私はある程度の成功者だと思う。
とりあえず、一流と呼ばれる商社の本社勤務をしてるからだ。
まるでハイエナのようにそんな匂いを嗅ぎつけ多くの人間が私や木村の周りに集まっていた。
ある意味、同窓会と言うなの商談会みたいなものである。
「名刺!いただけないかしら?」
何度も催促されるようにそう言われた・・・
なんとなくそう言われる度に私の心は冷めて行くのであった。