山梨の老舗の小さなデパートの特設会場がまいの晴れ舞台であった。
手作りの看板に乙女委員会!TV委員会来る!と書かれていた。
舞台の前には椅子など無く観客達は全て立ち見である。
司会者はプロディユーサーの加藤でなんとも頼りない。
しかし、何時の間に増えたのか会場はまい達のファンで異様な盛り上がりを見せている。
そんな光景を安藤君は冷ややかな目で見つめていた。
「先生!これが夢の舞台なのでしょうか?あいつが夢見ている舞台なのでしょうか?」
そんな彼の言葉に私は言った。
「夢を掴むと言う事はそんなに簡単な事では無いんだよ!誰でも最初はこんなものだ!
どんな大スターだって下積み時代があるものさ!僕にだってあったんだよ!誰にも見向きもされない小説をただ書き続けていた時代がね!最初からレールが引かれている人間なんてめったに居ないよ!皆、こんな屈辱をばねに頑張るんだと思う」と
華やかな音楽が流れ司会者が二人を紹介した!大歓声?のなかTV委員会の二人が現れる
「まい!まい!!」きらびやかな団扇を持ったファン達がまいに声援を送る!
まいは嬉しそうに微笑んだ。
「それでは!聞いてください!私達のデビュー曲!「ロックが静かに流れる夜・・」
そうまいが言うと曲のイントロが流れ始める。
何度聞いても恥ずかしい・・やはり私には作詞なんか無理なようだ。
しかし、ファン達の評価は上々のようである。
「さすが!ベッキーだな!俺、実はあいつの小説のファンなんだ!そしてあいつに詩を書いてもらえるまいちゃんも凄いよ!認められている証拠だ!」
ベッキーという名のネームバリュー!歌詞とか曲とかあまり関係が無い!ベッキーが作った事に意味がある。そんな物なのか?いや・・きっと、世間とはそんな物だと思う。
大盛り上がりの会場!買い物客達が何事かと驚きの表情を浮かべていた。
そして私の曲が終わると途端に会場が静寂に包まれる。
バラード聞く時の常識は持っているようだ。静かな優しいピアノのメロディーが流れ始める。
「この曲はなんだか歌っていて悲しくなるの!何でかわからなけど!でも、きっと皆にもそんな大切な人が居ると思う!心で相手を抱きしめてあげるような相手が!そしてそんな人の自分が居場所で居てあげたいと心から願えるような相手が。
それでは聞いてください!今夜も何処かの星の下で・・」
静かなピアノの音が流れ出し観客は静かに目をつぶる。そして何時の間にか観客達の瞳は切ない涙で濡れ始めとどかぬ思いに涙する。
この曲はきっとそんな届かぬ思いへの応援歌なのかも知れない。
曲が終わってもしばらく全ての空間が静寂に包まれた。
そして一人の拍手が何時の間にか大歓声に変わっていた。
そんな中、一人、こんな世界に不似合いに微笑む男が居た。
プロデューサーの加藤である。
「これ・・いけるんじゃない!いや!絶対に行ける!」
加藤はそう呟くとTV委員会の二人の少女を見つめた。
新曲発表会は大成功で幕を閉じた。安藤君の目から涙が尽きる事は無かった。
何時でも帰ってきなよ!僕は何時までも君の居場所だから・・
そんな言葉が素直に言える彼が少しだけ羨ましかった。そして、そんな言葉を素直に言える相手が居る彼に嫉妬した。
私はきっと、心の小さい男なのだと思う。きっと・・
「ベッキーさん!少し良いですか?なんか、印税とか権利とか難しい話をあの加藤とか言う人に言われてまして!印鑑とサインをしろと言われているのですが、僕にはチンプンカンプンで!契約の時に同席してもらって良いですか?」
ライブの後、事務所に呼ばれ細かい契約を結ぶ事になっているらしい。
その場に私が一緒に行くと加藤は少しだけ顔をしかめた。
契約書を読みもしないで彼はサインをしようとするので私は焦りながらその書類を彼から取り上げる。
「加藤さん!これ!あまりにも悪戯じゃないですか?幾ら素人だって・・」
契約書はあまりにも一方的な内容で作詞者の安藤君に殆ど権利が無い内容であった。
加藤は焦りながら呟く。
「おかしいな~直ぐに作りなさせますから!」と
私は自分の予備の契約書を取り出すと「これで良いですよね!これに彼にサインをしてもらえば!」と言った。
加藤はそんな私の言葉に苦い顔をした。きっと余計な事を言いやがって!みたいな感じだろう。
契約が終わりTV委員会の二人が部屋に現れる。
二人は私達に深々と頭を下げて言った。
「これからも応援してください!よろしくお願いします!」と
まい&ハル!二人合わせて「TV委員会」
まいのパートナーのハルと名乗る女性は何度も見ているが話をしたのはその時が初めてような気がする。まいよりも少しだけ年上のようである。ハルは部屋から出ようとする私を呼び止め笑顔で言った。
「先生!よろしくお願いします!可愛がってやってください!」と
なんとなくまいと違いきな臭い匂いのする女であった。
その日の夜に私は安藤君と二人で居酒屋に夕食を食べに行った。
「ベッキーさん!まいは売れるんでしょうか?夢を掴めるのかな?あいつ・・」
そう彼に言われ私は笑顔で彼に言った。「それは神のみぞ知るってやつだよ!」と