多分!続く・・№23(本当の名前!偽りの名前!) | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

時計を見ると午前の10時を少し過ぎていた。私は久しぶりにワイシャツに袖を通し担当者の本間がプレゼントしてくれたよそ行き用のスーツをタンスから取り出す。

修善寺線の伊豆長岡の駅から電車に乗り三島で東海道線に乗り換え沼津に向った。

文芸道出版社は業界では大手の出版社である。全国に支社を持ち小説からその他、幅広いジャンルの雑誌を出版している。

私は会社の受付に向かい「坂本誠ですが!佐藤友美さんをお呼び頂けませんか?」と告げると受付嬢はお決まりのマニュアル通りの返事を私に返してくれる。

「お約束は?失礼ですが坂本様のお名前は伺っておりませんが?」と

私は手馴れたように自分の名前を言い直す。

「小説家のベッキーと申しますが!」と

受付嬢はあからさまに自らの無礼に気づき慌てたように内線電話かけ始める。

どこの出版社でも同じ光景だ。

私の名前は坂本誠では本当は無いのだ。そう私の名前は小説家のベッキーと言う。

しばらくするとエレベータから一人の女性が姿を現す。私はその女性を見た瞬間、驚きの表情を浮かべ思わず身を隠す素振りをする。

しかし彼女は目ざとく私を見つけ話しかけて来た。

「あれ?坂本さん!どうなさったのですか?うちの会社に何か御用ですか?」

佐藤友美

そう言えば本間がそんな名前を聞いたような気がした。まさかね~まさか!

えええ・・・っ!まさかなの?

「ええ、実は仕事で・・」

「そうなんですか!実は私も担当する作家さんのお出迎えで!ベッキーって作家さんをご存知ですか?彼、実は静岡にお住まいなんですよ!それで急遽、私が担当にね!」

そう言いながら友美はキョロキョロと辺りを見廻す。

きっと、私を探しているに違いない。

「あの~ベッキー先生はどちらに?」

友美は受付の女性にそう聞いた。彼女は必死で友美に目配せをしている。

その視線の先にはアホ面の私が立っていた。

友美は驚いたように私に言った。

「もしかして坂本さんがベッキー先生なんですか?」と

私はバツが悪そうに小さく頷いた。

「し・・失礼しました!私、これから担当させて頂く方のお顔も存じませんで!」

「えっ・・いえ!別に、私も嘘を言ってましたから!お相子です」

そう私が言うと友美は急いで胸元から名刺を取り出し私に差し出した。

文芸道出版社 編集部 佐藤友美

それが友美の肩書きであった。そして私も胸元から名刺を取り出す。

小説家 ベッキー(坂本誠)

それが私の肩書きである。

「立ち話もなんですから近くの喫茶店にでも!」

友美は愛想笑いを浮かべながら予想もしなかった訪問者の正体に動転しているようにそう言った。

それから2時間ほどこれからの打ち合わせをした。しばらくすると友美の部署の責任者と名乗る男が現れる。

「先生にお会い出来て光栄です!うちの課は特に地元密着の機関紙を発行しております!

機会がございましたら先生にも地元の有名人としてコラムでもお書き頂けると・・

どうです!今から早いですがお近づきの印に一杯?ほら!佐藤!店を急いで予約しに行け!解ってるな!上だぞ!上!」

私は有無も言う事も出来ずに強制的に連行されるように店に連れて行かされた。

友美は途中で帰宅した。

私はそのまま彼と二人でもう一軒飲みに行った。

私が自宅に戻ったのは夜の10時を少し廻った頃であった。

自宅に戻りネクタイを緩めると急に疲労感が私を襲う。

そして万年床の布団の上に転がった。

天井を見つめながら思っていた。なんだこの感じは?少しだけ胸が痛む。

友美さんの事を考えると少しだけドキドキする・・

本間の言葉がふと頭を過ぎる。

「人妻ですから!ダメですよ!」と

「てめ~ふざけんじゃね~よ!何様だ!飲んでなんかきやがって!」

そんな怒鳴り声と共に叩かれる音が聞こえる。

「あなた!止めて!大きな声を出さないで!」

やめて~~~~~~~~~~~!

私は布団に潜り込むと耳をふさぎながら叫んだ!

やめろ!やめろ!!やめてくれ!と

私には関係が無い!それは夫婦の問題だ!他人が口を出せる事ではない。

でも、でも、もしも私が彼女の事を愛してしまったならばどうなのだろう?

もしも私が彼女を愛してしまったら・・それは他人事なのだろうか?

友美の泣き叫ぶ声がまるで静寂を掻き消すかのように響きわたる。

それを追うかのように私は布団の中で叫んだ!

やめろ!やめろ!やめるんだ!と・・

なぜに涙が出るのだろ?別に私が殴られ罵声を浴びせられている訳では無いのに・・

なぜに私は泣いている??

その意味に私が気がつくのはもう少し後の話になる。