悪魔のささやき | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

今日子の家を出て電車に乗り下井草の駅に着く。

私は駅のコインロッカーに閉まってあったスーツを取り出すと駅のトイレで着替えをした。

自宅に戻ると家は真っ暗であった。

誰も居ないのか?葵も今日子も??

もしかしたら二人で外食にでも行ったのか思い少しだけホッとして玄関を開いた。

家の中に入りリビングに行くと薄明かりが灯っている。

そっと、ドアを開き中を覗くとテーブルにウイスキーのボトルを置いて・・

友美が一人で酒を飲んでいた。

「お・・お前!何やってんだ!酒なんか飲んで?」

そう私が驚きながら言うと友美は私を睨みつけながら呟いた。

「飲んで何が悪いのよ!あんたなんか、毎晩、飲んでるでしょ!

あなたが良くって!私が飲んで何が悪いのよ!」と

相当・・酔っているようである。

「葵は・・どうしたんだ?」

「ええ・・私の実家に泊まらせに行かせたわ!

世間では明日も休日だから・・」

そう嫌味っぽく言うと友美は一気にグラスの酒を飲み干した。

私は何も言わずにその場を立ち去ろうとした。

そして私がドアのノブに手をかけた瞬間・・・

「副店長の加藤さんから電話があったわよ!

お休みのあなたに急用があったそうで・・」

一瞬・・私の全身が凍りつく・・

私は震える手を必死に押さえるようにドアを開いた。

「なんとか言いなさいよ!今日は仕事ではなかったの?」

どうする・・

よりよってこんな時に自宅に電話をして来るとは・・

本当にアホな男だ。

「あいつ・・最近、ノイローゼ気味なんだ!

休みだったのはあいつの方だ」

なんとも苦しい言い訳であった。

「今夜はあの甘い香りはしないのね!

もしかしてシャワーでも浴びて来たのかしら?」

まるで私の言い訳が聞こえないように友美は話続ける。

「いい加減にしないか!」

私は振りかえり妻に向かい怒鳴りながら叫んだ!

「いい加減にするのはあなたでしょ!」

妻は氷のような冷たい目で私を睨みそう呟く・・

そして・・

「あんた!いつたい何をして来たのよ!」そう叫んだ。

私は・・呟く!妻を睨みつけながら・・

「お前と一緒の事だよ・・」と

妻はより激怒して叫んだ!

「私が何をしたと言うのよ!」と

私はそんな妻を睨み言った。

「浮気だよ・・」と

終わった・・

その言葉は自然に口から出て来たと思う。

何の躊躇も無く・・

何の迷いも無く・・

当たり前のように・・本当に自然に・・

私は静かにドアを閉めた。

その途端、ドアの向こうから泣き叫ぶ妻の声が聞こえた。

「信じていたのに!本当に信じて・・」

私はそんな妻の声を聞きながら呟いた。

「信じていた・・俺もだよ・・」と

そのまま寝室に向かいベットに倒れこむ。

今夜は眠れそうも無い。

私は強いアルコールを胃に流し込み無理やりに眠ろうとした。

妻はその夜、寝室に現れる事は無かった。

ピピピピピ・・・ッ

けたたましく目覚まし時計の音が聞こえる。

時計を見ると7時を少しだけ過ぎていた。

私はふらつく足で一階のリビングに向かう。

何と言おう・・妻に何て・・

私の頭の中はそんな言葉で溢れていた。

静かにリビングのドアを開く。

静まり返ったリビングに人の気配は感じられなかった。

その代わりに一枚の紙切れがテーブルの上に無造作に置かれていた。

「実家に帰ります。」

そんな言葉・・

私はその紙をクシャクシャに丸めるとゴミ箱に捨てた・・

さようなら・・そんな言葉を呟きながら。