「あなたはいったい私達とどうなりたいの?」
そんな言葉が頭から離れなかった。
どうなりたい?そんな事は思っていない。
ただ、私は妻の浮気を忘れたいだけ・・
苦しい現実から逃げたいだけなんだ・・
ただ、そんな事は今日子に言えるわけもなく
私はだた、当たり障りの無い言葉を言うのが精一杯であった。
「だったらどうかなってくれるのか?
男が女に求めることなんか皆、一緒だろ?
お前を抱きたい・・」
そんな言葉を言って軽蔑され去られた方が気が楽だったのかもしれない。
次の日に木村から電話があった。
「どうだ?最近、良かったら飲まないか?」
ありがたいと思った。本当に友達とは大切だ。
「ああ・・でも、どうしょうかな?あまり頻繁に飲むのもな!
友美が・・・」
そんな私の言葉に木村が言う
「なら、俺んちに来いよ!奥さんと娘を連れて!
そりゃ~込み入った話は出来ないけどさ~
飲んでることが嘘じゃないってのは解ってもらえるだろ?
どうだ!近いうちに来ないか??」
木村の突然の提案に私は少しだけ困惑をした。
基本的に私の妻と木村の妻とは殆ど面識が無い。
「友美に聞いてみるよ!」
「ああ・・返事、待ってるぞ!」
その日の夜に私は珍しく夕食を自宅で食べていた。
家族3人の食事は久しぶりである。
「あっ!この煮物!美味しいな!」
そんな私の言葉に妻は怪訝な顔をした。
何時からあなたは煮物が好きになったの?
そう言いたそうな顔である。
私は煮物が嫌いである。特に大根の煮物は殆ど自らは食べようとは思わない。
「実は木村から今度の俺の休みに皆を自宅に招待したいと誘われたんだけど!
ほら、あいつの家に囲炉裏があるの知ってるだろ?
あそこでよく昔は飲んだんだ!
久々に家族も交えてどうだと言われたんだけど?」
そう私が友美に言うと一瞬、友美の顔が暗くなる。
「良いだろ?まぁ~あいつの嫁さんと面識があんまり無いと思うけど・・
あいつは俺の親友だからさ~これを機会に仲良くなるってもさ~」
一瞬の沈黙のあと・・
「あなたがそうしたいのなら・・良いわよ!」
友美が投げやりにそう呟いた。
次の私の休みの日の午後、葵が学校から帰ると直ぐに木村の家に向かう。
葵は今まで私が見た事も無いような高そうなブランド物の服を着てる。
そんな葵に友美は何度も何度も「服は絶対に汚すな!」と言い聞かせていた。
「お土産は何を買って行ったら良いのかしら?
奥さんが好きなの物は何??」
「そんなの知らないよ!それに別に木村の家に行くのに土産なんかいらないよ!
俺なんか昔から一度だってそんなの買って行ったことないよ!」
そんな私の言葉に少し不機嫌に友美が呟く
「あなたと私は違うのよ!」と
本当は知っていた・・木村の妻の美香の好物。
新宿にあるケーキ屋のアップルパイ。
それは多分、木村も知らない事だと思う。
美香と私は一度だけあやまちを犯した事がある。
私がまだ、若い頃の遠い昔の話である。
木村と結婚してしばらくした頃・・
木村の両親との同居に美香は疲れ果てていた。
今は高そうな毛皮をはべらせ肩で風を切るように歩いている女からは想像できない。
一度だけ木村に内緒で外で会ったことがある。
その時に食べたのがそこのアップパイであった。
そしてそれを食べた後に私達は何かに導かれるように夜の新大久保の町に消えた・・
きっと、美香もそんな事は忘れているに違いない。
もしかしたら木村と疎遠になったの理由のそれも一つなのかもしれない。
仕方がないの偶然を装って新宿駅の駅ビルに出店しているその店で・・
アップルパイと数個のケーキを買った。
初めて木村の家を見た友美はため息混じりに呟く
「大したこと無いのね・・」と
確かにこの家はね・・でも・・いや、それは言うのは止めておこう。
きっと、また友美の愚痴が一つ増えるに違いないのだから・・