今日子から連絡が来たのは私が店を訪れてから数日後のことであった。
日曜日などめったに休みなど取れないのに彼女が指定した日は次の週の日曜日であった。
「あなたたまには日曜日に休めないの?
葵をどこかに連れて行ってあげてくださいよ!」
妻の友美にそう何度も言われていた。
そして日曜日に出勤する朝は必ず娘は私を悲しそうな眼差しで見つめる。
自分の子供をほっといて他人の子供に会いに行く
そんな自分の矛盾した行動に少しだけ罪悪感を感じる。
「誰のおかげで生活が出来てると思っているんだ!
俺が必死に働いてるからだろ!
葵にもよくその辺を話すのがお前の役目だろ!」
何度も葵に言われ私は思わず妻に罵声を浴びせる。
自分の心を・・・
いや、自分の罪悪感を誤魔化すように・・
店に行くと自宅を出たのは9時を少し過ぎた頃であった。
少しだけ遅い出勤時間に妻は疑わしそうに私を見送った。
「甘い香り・・香水の香り・・」
電車で蒲田に向かい今日子の家に着いたのは11時を少し過ぎた頃であった。
チャイムを鳴らすと中から元気な男の声がする。
そして勢いよくドアが開かれる。
そこには笑顔の純君が立っていた。
「こんにちは!おじさん・・」
「やぁ~約束は守ったよ!」
「ありがとう!」
純粋な少年の笑顔・・・
不純な私には少しだけまぶしく感じられる。
そして中から普段着の今日子が現れる。
この前とは違い落ち着いた服装に少しだけあの時の彼女の目的を想像した。
あの日、この女は何をしたかったのか?何が目的なんだ?と
部屋は2LDKのありふれた作りであった。
子供部屋兼寝室になってると思われる部屋に純君は私を誘う。
そして大きなおもちゃ箱から一体のロボットを取り出す!
「これ・・宝物!なかなか売ってないんだよ!
ママが朝早くから並んでくれてやって買えたんだ!」
ふと見るとそれは今、流行の戦隊物のロボットらしい・・
「シンケンジャーのね!」
それから延々と彼の説明が始まる。
そんな息子を今日子は嬉しそうに・・そして寂しそうに見つめていた。
「お昼出来たから・・」
今日子のそんな言葉に純君は嬉しそうに返事をするとロボットを大切そうにしまう。
そしてもう一つのテーブルのある部屋に移動した。
「わっ!ハンバーグだ!僕、大好きなんだよ!」
「ごめんなさいね!どうしても食事は子供メインにメニューに・・」
そう申し訳なさそうに言う今日子に私は言った。
「いいえ・・僕も大好物です!」と
「美味しいね~~ハンバーグ!」
そう今日子に笑顔で言う。
どのくらい言っていない?妻の料理に「美味しい」なんて・・
どのくら・・そんな優しい言葉を言っていないのだろ?
食事が終わり私のお土産のケーキを開く。
「うわ~美味しそう!僕!チョコのね!」
幸せは平凡な会話の中に存在する。
そしてこの子にはそんな平凡な生活すら手に入れることが出来ないのだ。
母親の笑顔・・そして子供の笑顔・・・
父親が存在しないと言う悲しみの意味をなんとなく純君から学んだ気がした。
「今日はありがとう!おじさん!また、来てよ!約束だよ!」
「ああ・・約束だ!今度は遊園地に行こうか!」
そんな私の無責任な提案に少しだけ今日子は渋い顔をした。
「うん!約束だよ!楽しみだな~」
そんな彼に見送られながら今日子の家を出たのは午後の3時を少し過ぎた頃で・・
玄関を出ると今日子は怖い顔で私に言った。
「あまり、あの子に無責任な約束はしないでよ!」と
大人がなんとなく言った約束も子供にとっては重要な約束なのだ・・
私は少しだけバツが悪そうに今日子に謝罪をする。
「約束は守るよ!次に日曜日に休めるのは来月だから・・
来月に3人で行こう!」
「君・・・私達親子とどうなりたいの??
いや・・私とどうなりたいの?」
私は今日子のそんな質問に答える言葉が見つからず、ただ・・
「友達になりたいんだ!」と呟いた。