愚か者の歌 | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

誰かに不幸な私を理解してもらいたい・・


自分がどんなに不幸で苦しんでいるかを知ってもらいたい・・


くだらない戯言だと言われるしれないが・・


それは誰がきっと持ってる事だと思う。


ある意味、人は不幸な自分が好きなのかもしれない。


苦しみ悩んでいる自分が・・


そして常に願っている。


誰か私を可愛そうだと言ってくれと・・


もしかしたら・・その時の私もそう思っていたのかもしれない。


私が今日子の店を訪れたのは今日子に最後に会ってから一週間後の事であった。


本当はもっと早く行くことは出来た。


ただ、妻の言葉が頭から離れなかった・・


「また・・甘い香り・・」


匂いとは不思議だ。


自分ではまったくわからない。


タバコの匂いとか香水の匂い・・女の匂い・・


自分では気がつかなくても第三者には敏感にその匂いに反応する。


私は正直、そこまで気にしていなかった。


ふと、考える・・・


友美からは男の匂いがしていただろうか??


家に帰って来た時に・・・


友達と出かけると言って帰って来た時に男に匂いがしただろうか??


正直、そんな記憶は無かった。


いや・・私が鈍感なだけなのかもしれないが・・


一人で来るのは初めてであった。


いつもは木村が一緒だったから・・


しかし、今回は少しだけ話が複雑になりそうだったので一人で来ることにした。


店のドアを開くと茶髪のボーイが私を笑顔で出迎える。


「いらっしゃませ!ご指名の子はいらっしゃいますか??」


私は店内を見渡す。


今日子は居たが他の客を接客してるようであった。


目ざとく今日子が私を見つける。


「ごめん!おトイレ!」


そう接客していた客におどけながら席を立ち私の横を通り過ぎる。


「私を指名して!今、あいつ追い返すから・・」


そう今日子はすれ違いざまに呟きトイレに向かう。


私はボーイに連れられ席に座る。


「今日子さんをお願いします。」


そんな私の言葉に茶髪の彼は少し困ったような顔をして今日子の席を見つめた。


今日子は席に戻ると接客中の客に耳打ちをする。


彼は少しだけ微笑むと席を立った。


私はそんな光景を好奇の目で見ていた。


どんな方法で帰したのだろう???


プロの技とは感心するくらい凄い・・


しばらくすると今日子が私の席に現れる。


私の隣に座ると私に耳打ちする。


「悪いけど・・ボトル入れてくれない??

今月、少しだけピンチなのよ!」よ


「別によいよ!適当なの注文しなよ!」


そんな私の言葉に今日子は嬉しそうに微笑んだ。


少しだけ酔いが回ってきた。

珍しく今日子もお酒を飲んでいた。


何時も木村と来る時は殆どウーロン茶を飲んでいるのに?


そんなに売り上げが足りないのか??


それとも酔わなければ話せない事を話そうとしているのか??


しばらくくだらない雑談をしていた。


不意に一瞬の沈黙・・・


そして・・


「この前は悪かったわね!」


今日子がバツが悪そうにそう呟く。


「あのマンションの住人は私の親友でね!

結構なお金持ちなのよ!

少し無理を言って部屋を貸してもらったの・・」


「何でだい??」


「あら・・わからないの?あなたと友達になりたかったらよ・・」


友達と言う言葉を使うところがなんとも憎いと思った。


「結婚してるのか??」


そんな私の問いに今日子はゆっくりと首を振る・・


「離婚したの!今から3年前に・・

純がまだ、2歳の時だったと思う・・

ギャンブル好きのどうしょうも無い男・・

私が水商売を始めたのもあいつの借金を払うため・・

私ね!パン屋になりたかったの!

だから、昔はパン屋で働いていた。

いつかは自分の店を持つ事が夢だった・・

でも、夢って叶わないから夢って言うんだよね!

それ・・最近、わかった・・」


そう呟きながら今日子はコップのブランデイーを一気に飲み干した。


「怒ってる??君??」


「えっ?別に怒ってないよ!」


「そう・・なら良かった!少しだけ心配していたから・・」


それからまたしばらく沈黙・・・


向こう側で沈みきった私の席を心配そうに店のママらしき女が見つめていた。


「友達になろうぜ!それが君の望みだったんだろ?

純君との約束もありしね!

今度、君の家に遊びにいきたんだけど良いかな??

あっ・・別に変なスケベ心は無いから・・」


そんな私の言葉に今日子は少しだけ微笑んだ・・


私は何をしている??


私は何を言っている??


この女に何を求めている???


妻の浮気に悩み苦しんでいる自分が・・


自らも妻を裏切るきっかけを作ろうとしている。


「都合の良い時に連絡をしてくれ!」


私はそう今日子に呟くと席を立った。


「ええ・・わかった・・」


今日子はそう呟くとボーイを呼び寄せお勘定の手続きを始めた。


金を払い店のドアを開こうとした瞬間・・


店の隅の暗いテーブルから何とも言えない冷たい視線を感じた。


何だ??この視線は???


振り返りその方向を見つめる。


そこにはもう、誰も居なかった・・・