暗闇 | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

店に入るとなんとも軽やかなジャズの音色が流れていた。


案内された店は私が今まで来た事も無いような洒落たバーであった。


店の奥の二人用の席に座ると直ぐにボーイが注文を取りに来る。


今日子は私が聞いた事も無いような酒の名前を呟く。


私は慌ててメニューを開く。


「ビールもあるから・・」


そんな私を気遣うように今日子がそう呟く。


「ジンライムを・・・」


私は唯一、知っているカクテルの名前をボーイに告げた。


帰りたいな~~正直な気持ち。


私はこんな店が苦手であった。


出来れば大衆居酒屋で気軽にから揚げかなんかをつまみにビールを飲む方が気軽で良い。


「よく来るんですか?このお店・・」


「えっ?」


そんな私の言葉に今日子は少し動揺したように言った


「ええ・・たまにね!私、どうも居酒屋って苦手で・・

どうせお酒を飲むのならこんな洒落た空間で飲みたいから・・」と


次の言葉が見つからない。


私はいきなり鞄から数冊のパンフレットを取り出した。


「僕のお勧めはですね!」


そんな私を驚いたように今日子は見つめた。そして・・


「あなた・・不器用ね・・」と私を小ばかにしたように言い笑った。


私は不器用である。


女性慣れしている木村とはまったく違う。


若い頃は女性と気軽に話せる木村を随分と羨ましいと思っていた。


私だって・・あいつみたいに気軽に可愛い女と話したい・・


しかし、それは無理な話であった。


なぜなら、私は基本的に女性の気持ちがわからないからだ・・


相手が興味のある話も・・・


面白がる話も・・


まったく解らない。


木村みたいに相手の性格を瞬間的に見破り、相手に合った自分を演出する事など無理であった。


「これで良いわ!」


何にも説明も聞かずに今日子が指差したテレビは私が一番、売れたいテレビであった。


この女に・・木村と同じ匂いを感じた・・・なんとも危険な・・匂いを・・


「それではお買いになる時に声をかけてください!」


私はそう営業口調に今日子は少し不機嫌そうな顔をする。


「坂本さんの店で買ったら設置もしてくれるの??」


「ええ・・もちろんです!配送代と設置代はサービスさせて頂きます!

ご契約頂いて早くて翌日にはうちのスタッフがお届けにあがりますから・・」


「あら・・・あなたが持って来てくれるんじゃないのね・・」


そう切れ長の何とも言えない妖艶な目つきで今日子は私を見つめて言った。


「えっ・・そうですね・・配達は専用のスタッフがおりますので・・

それにこのクラスだと一人で運ぶのは無理なので・・」


そう私が言うと


「なら、止めようかな~~買うの!

私、あなたに取り付けに来てもらいたいな~~~

どうしようかな~~別に急いでる訳じゃないしな~~」


なら・・わざわざ俺を呼びつけるなよ!


私はそう心の中で呟く少しだけ渋い顔をした・・


「あっ!今、私のこと・・面倒な女だと思ったでしょ!」


「えっ!」


私は自分の心を見透かされたような今日子の言葉に驚きの声を上げた。


そしてその場をとり作るように苦笑いを浮かべる。


「わかりました!私の休日の日でよろしければ私がお運びいたします。」


そう私が言うと今日子は嬉しそうに笑った。


私は何をしてるのか??


本当はこんな事をしてる場合ではないのに・・


こんな女と会っている間にも・・


きっと、妻の友美はあの男に連絡をしてるに違いないのに・・


ただ・・なんとなく・・そう思っただけなのかもしれないけど・・


今日子と会って話してる自分は少しだけ何かから解放されているような気がした。


少しだけ・・・