「扉」の一次審査通過の発表の日は皮肉な事に私の内定した山田貿易の企業説明会の日であった。
説明会は午後からだったので結果を見てからでも十分に間に合う時間であった。
私は決めていた。
一次審査が通過したら夢を追いかけようと・・
その日の早朝から多くの部員達が部室に集まっていた。
タッタッタッタ・・・・・・・・
廊下を走る音が聞こえる。
すると急に部室のドアが開き封筒を持った木村が入って来た。
一瞬の静寂・・・
緊張の一瞬である。
木村は丁寧にゆっくりと封筒を開いた・・・
ぴ・・ピンク・・・
用紙を見た部員全員がそう口々に呟く・・
ピンク・・・
木村がゆっくりとそのピンク色の紙を封筒から取り出す。
「一名の名前が書いてあります。
作品名・・・」
私は一瞬、つばを飲み込む・・・
「作品名 今夜も何処かの星の下で・・
作者名 坂本 誠!おめでとう!」
そう木村が叫ぶと周りの人間が一成に私に拍手をした・・・
私の心に感動は無くただ、しらけていた・・
しかし、それも変なので涙を流しながらガッツポーズをして見せた・・
我慢に我慢を重ね・・やっと手に入れた希望への切符とでも言うのだろうか???
なぜか・・彼らが涙を流しながら私の通過を喜んでくれる姿にイラついた・・
多分・・自分が情けなかったのだと思う。
私は就職する事を止めた。そして夢を追うという道を歩き始めた。
それは、悪魔に魂を売ったと言うことなのだろうか???
私は人生をリセットした。
それは自分が幸せになるための行動だったのに・・
ふと気がつくと私はドンドン・・不幸になっているような気がした。
あの・・何とも不気味な声が聞こえる度に・・私はドンドン暗黒の中に落ちて行く。
「今夜も何処かの星の下で・・・」
一流作家と呼ばれた木村の代表作として絶賛された小説。
ふと、私はリセットする前の人生を思い出していた。
木村とは正直、疎遠になっていた。
大学を卒業してこいつの会ったのは・・・
木村と美香との結婚式
今日子の結婚式
そして私と友美の結婚式ぐらいか・・
そしてあいつが作家としてデビューしてからはより疎遠になり・・
私から木村に連絡をすることは殆ど無くなった。
それでも何度かはあいつから私の携帯電話に「会わないか?」と連絡が来た。
しかし、作家になったあいつが誘う店はどれも有名な高そうな店ばかりで・・
私は店の名前を聞いただけで行くのを躊躇してしまった。
それでも、あいつが何度も連絡をしてくるものだから私は思わず本音を言ってしまった・・
「そんな高そうな店に行けるほど俺には金が無いのだ・・」と
そんな私の言葉に木村は笑いながら言った。
「そんな理由だったのか?
誠、昔の約束、まさか忘れたのか??」
昔の・・約束・・
「どちらかが成功したら飲みに行く時は全部、そいつのおごりな!って約束しただろ・・」
そんな約束・・忘れちまったよ!そんな昔の約束なんか・・・
それから数日後、私はある料亭の前に立っていた。
こんな店・・もう二度と来れないんだろうな・・・
そんな言葉を呟きながら・・・
人生は辛すぎて私の手には負えない