「ちょっと時間がありますか??」
美香が少し、恥かしそうにそう呟いた。
私はゆっくり席を立つと美香の後をついて行った。
学校で出て近くの喫茶店に入る。
「それで話って???」
話の内容はなんとなくわかっていた。
木村の代わりをきっとこの女は探している。
木村が友美と付き合うことで未来が変わった。
だから・・木村の変わりをこの女は捜しているに違いない。
「去年の「扉」応募しなかったんですってね!」
美香はそんな話から話を始めた。
「ああ・・今年、勝負しょうと思ってさ~」
「自信・・あるの??」
そんな美香の言葉に私は笑いながら頷いた。
「あのね・・回りくどい話は苦手なので・・・
あなた、アニメの原案に興味ない??」
そら来た・・やっぱり
「木村に断られたのかい??」
私のそんな言葉に美香は一瞬、渋い顔をした。
「えっ・・き・・木村君は関係ないよ!」
「そう・・俺の勘違いかな??
それで、俺が君の漫画の原案を書くメリットは???」
「えっ・・メリットと言われても・・・」
一瞬、深く美香は考えると私に言った・・
「私と言う女ではどうかしら??」
なんとも・・ずうずうしい女であると思った。
「フフフフ・・・漫画の原案か・・面白そうだね!
でも、今は「扉」に集中したいので・・
返事は終ってからでもよいかい??
どうせ・・俺の他にも誰かに同じ話をしてるんだろ??」
私のそんな嫌味な答えに少しだけ彼女は不機嫌そうな顔をした。
木村は完全に就職を止めたようであった。
今日子は丸の内のある企業に内定が決まったそうだ。
今日子は仕事をしながら小説を書いて行くと言っていた。
私は・・まだ、悩んでいた。
そして、今年に全てをかけると大きな事を言ったわりにはまったく原稿は進んでいなかった。
このままでは・・俺は完全な敗者になってしまう。
せっかく人生をリセットしたのに・・せっかく・・
悪魔が囁いた・・
「あるじゃないか・・入選!確実な小説が・・あるじゃないか・・」と
入選確実な小説???
私は・・一瞬、ハッ!と息を呑んだ・・
確かに・・ある。入選確実の小説が・・
それも、私はその小説の一言一句を全て覚えるほど何度も読んでいる・・
「俺に・・木村の作品を盗めと言うのか??」
「それが一番・・確実な方法じゃないの??」
俺に・・俺に・・親友の未来を閉ざせとお前は言うのか・・
「いや・・それを決めるのは・・お前だよ・・」
私は鞄から原稿用紙を取り出すと無意識のうちに題名を書いていた・・
「今夜も何処かの星の下で・・・」
そんな題名を・・
私は一文字、一文字、思い出すように原稿用紙を文字で埋め始めた。
そして、300枚もの原稿用紙が埋まったのはそれから一週間後の事であった。
書き上げたと言う充実感は無く・・
ただ、虚しさだけが私の心に残った。
そして運命の10月の末日・・
私は部長になっていた木村にその原稿用紙を手渡したのであった。
木村は笑顔で言った・・
「自信作が書けたかい??」と
私は彼の目を直視できずに下を向いたまま呟いた・・
「ああ・・傑作だよ!」と・・
人生は辛すぎて私の手には負えない。