伊豆仁田で出会った小さな女の子に少しだけ元気を貰った・・
涙は何時の間にか止まっていて・・
少しだけ前向きな自分になれたような気がした。
「次は~大場!大場でございます・・・」
そんなアナウンスの後、しばらくして電車は大場駅に到着をした。
ドアが開くと65歳くらいの老夫婦が大きなリックを背負って車内に入って来た。
そしてドスン!と大きな音を立てて私の目の前に背負っていたリックを置いた。
「疲れた・・疲れた・・・座りたい・・」
旦那がそうしきりに奥さんに呟いていた・・
「あなた・・それは無理よ!席は埋まっているのだから・・・」
そう言いながらチラッと私を見る・・
私の隣の席は空いている・・
座りたいのなら座ればよいのに・・・
どうも、2人で座りたいらしい・・
なんとも贅沢で我が侭な夫婦である。
「俺が若いときなんか、絶対に立ってたものだがな!電車で・・
それに、自分より年上の人間が居たら席を譲ったものだ!」
不機嫌そうに旦那が呟く・・・
あいづちを打つように奥さんが言う・・
「そうよね!年を取ると立っているのが辛いものね~」
そう辛そうに呟きながらもう一度、私をチラッと見つめた・・
何が弱っているのだ・・・
そんな重そうなリックを背負ってこれから登山に行こうと言う人間が・・
何処が弱っているんだ!元気イッパイだろ!あんた達・・・
毎日、朝早くから深夜まで机に座ってデザイン画と格闘している私の方がよっぽど弱ってるわよ!
私は彼らを見つめながら心の中でそう呟いた・・・
ただ、他の人間から見たら私はなんと冷たい非常識な人間だと思われるだろう・・
年を取った老夫婦に席も譲らずにのうのうと文庫本を読んでいるのだから・・・
ふと、前の席を見ると彼の横の席も空いている・・・
そうだ!席を移動しょう・・
私は席を立つと作り笑いをして老夫婦に言った・・
「よろしかったら・・どうぞ!」と
彼らはその言葉を待っていたかのように笑顔で言った・・
「あら・・なんてお優しいの・・ごめんなさいね!」と・・
私は軽く会釈して引きつった顔をしながら向かいの席に移動する・・
絶対に私はこんなアホな老人にはならない!と何度も呟きながら・・
そんな私を前の席の彼は興味深そうに見つめていた。
そして、いきなり自分の隣に座った私に対して少しだけ驚いたような顔をした・・
私は彼に一回、軽く会釈をして座るとまた、文庫本を読み始める・・
しばらくして気が付いた・・
しまった!ハンケチを返すのを忘れた・・
絶好のチャンスだったのに・・・
私はどうも抜けている・・
でも、もう、遅い・・・
私は自分の行動を後悔しながらそ知らぬ顔でまた、文庫本を読み始める。
前の席の老夫婦は楽しそうに地図を広げながら今日の予定を話していた・・
非常識な夫婦だが・・
なんとなく・・そんな光景が羨ましく感じる・・
結婚と言う物を諦めて・・
仕事を選んだ私には・・・
静香達のように自分の子供を抱く事も・・・
目の前の老夫婦のように老後を旦那と過ごす事も無いのだ・・
少しだけ寂しいような気がした・・・
なんとなく・・
人生において・・
二つの大きな忘れ物をしながら死んで行く気がした・・
なんとなく・・その忘れ物は自分にとって、とても大切な宝物のように感じられたからだ・・
でも、仕方が無い・・
それが私が選んだ道なのだから・・
私は何度も心の中でそう繰り返し呟いた・・
仕方が無い・・と
「次は~南二日町!南二日町でございます~」
電車は次の駅に到着しょうとしていた。