彼から受け取ったハンケチを私は無意識のうちに自分のポケットに仕舞い込んだ。
常識的に考えれば直ぐに彼にお礼を言いながら返しに行くべきだと思うけど・・
正直、周りの目が気になる・・
きっと、私の周りの全ての人間が大粒の涙を流していた私を好奇の目で見ているに違いない・・
そんな中で彼にお礼を言いながらハンケチを返しに行く勇気は私には無かった・・
そうだ・・彼が降りた時に私も一緒に降りて彼にお礼を言ってハンケチを返そう・・
もしかしたら、彼も三島まで行くかもしれない・・
そうしたら誰の目にも触れずに彼に返せるはずだ・・
そんな想いが自然に私に非常識な行為をさせたのかもしれない・・
そして、その時、私はハッと我に帰った・・・
伊豆長岡で彼が行為に対してだ。
私はあの時の彼の行為を非常識な男の行動と非難をした。
そして軽蔑するような眼差しで彼を睨み付けた自分の愚かな行為を恥かしいと思った・・
人間とは実に愚かな生き物である。
自分が実際に相手と同じ状態になってみないと殆どの人間が相手の心が見えないからだ・・
そして見えない相手の心をまるで理解しているかのように軽蔑をしてしまう。
私は心の中で前の席に座っている彼に何度も何度も謝罪をした。
あなたも同じ気持ちだったのですね・・
あの時・・私の貸したハンケチを上着のポケットにしまった瞬間・・・
今の私と同じ気持ちだったのですね・・
ごめんさい・・
愚か者は・・私でした!と・・
電車は伊豆仁田の駅に到着した。
ドアが開かれると同時に小さな子供達の叫び声が聞こえる。
よかった・・隣の車両だ・・助かった・・
年に数回、各駅でこんな状態に遭遇する・・
小学生の遠足や移動教室・・・
小学生の子供達に常識をを問うのは無理なかもしれないが・・・
私達、大人はそんな彼らに遭遇する事を不運だと感じるのは確かだ。
数人の大人の乗客が隣の車両から非難をして来た。
私は静香夫婦もこちらの車両に来るのではないのかとドキドキしていた。
でもそれは、取り越し苦労のようで彼女達は騒ぐ小学生を睨みつけながら迷惑そうに座っている・・
よかった・・私は深いため息を1度ついてまた、読みかけの文庫文を開いた。
しばらくすると私の目の前に小さな人影を感じた・・
私は文庫本から目を離し前を見つめた・・
そこには小さな女の子が1人、立っていた。
「どうかしたの??」
私は彼女に優しくそう語りかけた・・
彼女は恥かしそうにしながら私に言った・・
「おねんさん・・誰かにいじめられたの?」と
「何で?」と私が言うと彼女は心配した表情で・・
「だって・・おめめが真っ赤だよ!
誰かに泣かされたんでしょ!
ママが何時もパパにいじめられるとそんなおめめをしているの!
加奈が懲らしめてあげようか?そのいじめっ子を!
私、こう見えても強いんだからね!」
私はなんとなく、そんな無邪気な少女の言葉に心が洗われるような気がした・・
「ありがとう!でも、今、自分でやっつけた所なのよ!
おねえさんも結構、強いだから・・・」
そう私は彼女に微笑みながらそう言った・・
「そう!安心した!なら、お守りを上げるよ!
おねえさんが、もういじめられないように・・」
加奈と名乗る少女はそう呟くとポケットの中から何やら取り出す。
そして私の右手を広げさせ小さな丸い物を握らせた。
「これで、大丈夫!ママから貰ったの!お守りだってね!」
彼女はそう微笑みながら呟き、隣の車両に戻ってしまった。
手の平をゆっくり開くと、そこには綺麗なビー球が1個・・
透き通るようなビー球の中に緑やオレンジの線が入っている・・
「ビー球か・・懐かしい・・
私もこんな物を宝物にしていた時代があったな~」
私はそう呟いた。
そのビー球を自分の目の前に持って行き・・
そお~っと覗き込んで見た・・
透き通った世界に朝日が反射する・・
そしてその向こうに心配そうに私を見つめる1人の男性の顔・・
その時、私は彼の顔を見て一瞬、ドキッとした・・
何?この感じ???何???
ショボクレタ中年オヤジの顔・・・
私のスカートを覗き込もうとしていた変態オヤジ・・・
巨乳の童顔女に密かな恋心を抱いていて・・・
何ともさえない中年男・・
でも、本当は優しそうな人・・・
彼はいったい、長岡で何で泣いていたのだろう???
ふと、私は透き通るガラスの世界の中に彼の顔を映しながらそんな疑問を抱いた・・
そして不思議な事にその理由が知りたくって仕方が無くなった・・
電車は伊豆仁田を過ぎて大場駅に到着しょうとしていた。