原木駅 | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

電車は韮山駅を出発した。


私の横では相変わらずミサが私達の希望を裏切りながら友達とバカ話をしている。


私は出来る事ならこれ以上、彼女達の話を聞きたくないと心から思っていた。


これで、朝の楽しみが1つ消えてしまった・・・


出来る事なら何時までも夢を見させて貰いたかったと心から思った。


「次は~原木!原木でございます・・」


そんなアナウンスが流れ原木駅が見えて来た頃、前に座っている女性が後ろを振り返った・・


きっと、無意識に窓の外を見たに違いない・・


原木のホームが近づき乗車しょうとする乗客達が見え始める・・


駅のホームに一組の夫婦が立っていた。


その姿が見えた瞬間に一瞬、彼女の表情が硬くなる・・


そして何かに怯えるように下を向いて何かをボソボソと念じている・・・


私は興味本位で彼女を見つめていた・・


しばらくすると電車は原木の駅に到着する。


ドアが開き数人の乗客が中に入って来た。


どうやら、あの夫婦は違う車両に乗ったようだ・・・


乗車する人間を彼女は鋭い視線でチェックしていた・・・


そして、彼らが居ない事を確認すると安堵の表情になった。


しばらくると隣の車両から女性の声が近づいてくる。


その声が近くなる度に彼女の表情は硬く暗く変化をして行く・・


どうやら、あの夫婦は彼女にとって招かざる人間のようであった。


1人の小太りの女が彼女の前で立ち止まる・・


顔はまん丸でその顔に塗りたくった何とも品が無い化粧が不快感を与えた。


電車の走る音で何を話しているのかよく聞こえなかった・・


しばらくると旦那の方も小さな子供を抱きかかえて現れる・・・


近づくな!話しかけるな!オーラ全開の彼女にその小太りの女は容赦なく話かけている。


途切れ途切れ聞こえる会話からなんとなくこの3人の関係を想像していた・・


旦那のほうがバツが悪そうな顔をして隣の席が空いてる車両に移動する・・


それを追うように小太りの女も笑顔で彼女の前から立ち去る・・


その2人を彼女は必死の作り笑いで見送っていた・・


2人の姿が見えなくなると・・・


彼女の目から大粒の涙が溢れ出す・・・


きっと・・辛い思い出の相手だったのだろう・・


きっと・・忘れたい思い出の相手だったのだろう・・・


何時までも止まらない涙・・・


下を向いて必死にその涙を止めようとしてる彼女の姿になんとなく自分を重ねた・・・


私は席を立つと左のポケットからブルーのハンケチを取り出した。


そしてゆっくりと彼女に近づき彼女の手に握らせる・・


一瞬、彼女は驚いたような顔をした。


私は無言でその行為をこなすとまた、自分の席に戻った。


彼女はそのハンケチで溢れる涙を丁寧に拭った・・


そして先ほど、私がとった行動と同じように・・・


そのハンケチを丁寧に折り直すと自分の上着の右側のポケットにしまいこんだ。


まるで、辛い想い出も一緒に仕舞い込むように・・・


「次は~伊豆仁田!伊豆仁田でございます・・」


そんなアナウンスが流れると彼女は真っ赤な目をしながらまるで何も無かったように再び文庫本を読み始める。


でも・・その手は少しだけ小刻みに震えていた・・・


一瞬、彼女と目があった・・


少しだけ彼女は申し訳ないような顔をしてその後、私に微笑んだ・・


色々あるんだな~こんな若い女性にも・・


いや・・若いからあるのかもしれない・・


こんなオヤジの私でもいろいろとあるのだから・・・・


お互いが交換をしたハンケチがなんとなく・・


2人の誤解を解いてくれたような気がした・・・


ふと、彼女を元凶などと心の中で罵った事を少しだけ後悔をした。


電車は伊豆仁田の駅にもうすぐ、到着しようとしていた・・