二週間夫が出張で不在中だ。
娘が現われたのはそれから18分後だった。
その後のアレコレは、昨年娘と会ったときとほぼ同じだったので割愛する。
歩き回って喉が渇いた。
「喉渇いたよう、どこかでゆっくりお茶しよう」
「どこにしよう?」
「どこでもいいけど、今流行りのカフェとかは嫌だな」
ワガママを言うのは私の方である。
「良いところあるよ」
娘に促され車を走らせる。
「近道だから」
と細い路地にいざなわれる。
ああだこうだと喋りながら進んでいると
「あ、通り過ぎた、今の所を左だった」
「なぜ早く言わない、車は急に止まれない、曲がれない」
「ゴメンゴメン」
「だいたいアンタは・・・」
と説教を始めると
「わかってるよ、しかしうるさいなぁ、そんなに大きい声で言わなくたっていいでしょ」
「大きくないでしょ」
「キーが高いうえに、大きいんだよね昔から」
「アンタたち(息子のことも含んでいる)が、ろくに返事もしないから聞こえてないかと思ってのことでしょ」
「聞こえてるからね」
「ならなんで返事をしない!!」
「あー、うるさい、密室でそんなに騒がないでよ」
盛岡の繁華街は一方通行が多く、
「次の次を左に曲がって、ぐるっと・・・」
「近道が遠くなったじゃないの!!」
「別に焦らなくても着くから」
「老い先短いと焦るのよ!!!」
自分で言っていて情けない。
娘も
「そりゃそうだねぇ」
なんて言うのだ。ガハガハと笑いながらだ。
チクショウ・・・ムムム・・・(-"-)。
「ここ、ここに入れて」
コインパ‐キングである。
降りてほんのすぐのところに連れて行かれる。
つい今しがたまでイライラしていたのに、急に機嫌がよくなる私。
「なんかいい感じじゃない?」
「二階に行こう」
今どきのアレコレ盛ったオシャレな
「カフェ」ではない
「喫茶店」。
「ここ、ずーっと昔からあるところだよ」
「知ってるでしょ? 入ったことある?」
「あるようなないような・・・似たような感じの〇〇の店はあるけど」
「ああ、〇〇舎だね」
「そうそう、でもコーヒー美味しいと思わなかったな」
「あそこは雰囲気だけだよね、ここは美味しい」
と若い娘になぜか勧められる。
照明が落としてあり、落ち着いた雰囲気でいい感じだ。
「こういう感じ好きなんだよね」
「いいね」
イケメンの店員のお兄さんの丁寧な接客がまたいい。
娘は慣れているようで
「今日のケーキは何がありますか?」
なんて聞いているではないか。
娘はケーキは頼まず
「黒パフェを」なんて言っている。
私は、コーヒーバナナケーキというのにしてみた。
娘は浅煎り
私は深煎りのブレンドコーヒーをオーダーした。
ややあって注文したものが運ばれてきた。
私がこれまでの人生で、美味しいと思った喫茶店は2ケ所だけである。
一度気に入ると通いつめるタイプなので、広がりもなく、そもそも贅沢だとも思っているので喫茶店でコーヒーなどというのは実は数えるほどしかないのだ。
ここが3か所目に追加された。
ブラック嫌いな私だが、運ばれてきたコーヒーの香りに何となくブラックのまま飲んでみると
「うっ・・・美味しい」
ミルクも砂糖も要らないと思った。驚いた。
「いいねぇ・・・・」
土曜の午後。
若いカップルが入ってくる。
「平日はオバサマたちばかり」
「へぇ」
若いカップルも静かに話している。
実にいい雰囲気だ。
コーヒーがあまりに美味しいので、私は
「お代わりしようかな」
と言うと
「じゃ、クリームソーダ頼もうかな」
と娘も乗って来た。
薄暗い中で、クリームソーダが宝石のようにきれいで、二人でしばし見惚れる。
「ああ、良い時間だ、今日こっちに来てよかったよ」
「そりゃ良かったね」
私がニコニコしているからか、娘が重大発表をあっさりと言った。
春になったら、彼と一緒に暮らすそうだ。
「それって結婚するってこと?」
「うん、マアネ」
この日は路地をぐるっと回ってこの店に来た。
娘の手を引いて歩いた道が思い出された。
道は続いて来たのだな・・・。
「それは、おめでとう」
もう後は言う言葉がなかった。
さっきまで
「うるさい」
と言われていたのに(笑)。